2008年3月30日 (日)

柳町弘之さんの工房訪問

今月の10日に出版した「スーツ=軍服!?」(彩流社)http://item.rakuten.co.jp/book/5502033/で、もう一つ、意外な御縁が出来ました。いやあ、こういうことがあると、出版して良かったな、と思います。
 靴が好きな皆さんならご存じの、日本を代表するビスポーク靴職人・柳町弘之さんのことであります。先日、発効されたエスクァイア・マガジン社の靴専門誌「LAST」巻頭の情報コーナーにもあるとおり、柳町さんは99年以来、店舗を置いていたワールドフッドウェア・ギャラリーから、この2月、ほど近いところに独立店舗を構えられたのであります。http://www.wfg-net.com/order.html
 で、それで私と何の関係が、と思われるでしょう。実は私、大学生時代に、千葉市稲毛駅前の「千葉進学塾」なる塾でアルバイト講師をしていました。で、その当時のバイト仲間に柳町先生、という人がおいでになった。千葉大学の理科系の大学院においで、ということでちょっとクール、というか理知的、だけど穏やか。われわれはバブル時代のお馬鹿学部生でしたので、まあ乗りが違うというか、際だって紳士、大人に見えました。まああのぐらいの時期に3、4歳の差は大きいですよね。
 さてそれから十数年後。私はたまたま、靴というものに関心を持つようになり、35、6歳になってそれまで愛用していたギョーザ靴が急に嫌になってしまった。実は、私はそれまで軍装や戦史には大いに興味があったけれど、現代のファッションにはまるで関心がなく、靴なんかも3000円のオヤジ靴で平気でありました。
 が、気になり出すと気になるもんで、手始めにクロケット&ジョーンズ、それ以後、いろいろとそれなりの靴を買うようになりまして。で、靴を良くするとスーツもネクタイも全部それなりにしたくなりまして。で、紳士服飾の本を落合正勝さんほか、出回ってるものを片端から読みあさり、雑誌も月に6、7冊は乱読し、今に至っております。ついに上記のような本まで出す始末です。
 で、そんなある日、ある雑誌(メンズEXかbeginだったと思いますが)で、日本を代表する靴職人ヒロ・ヤナギマチなる人物を知ったのでります。
 ところが、その時点ではなんとも思わなかった。その後、なにかのサイトで柳町さんの顔写真を見て「お?」と思ったのです。これはあの塾の仲間だった人じゃないのか。
 さらに経歴を見れば、千葉大学大学院修了後、電機メーカーに就職、その後に渡英、などとあり年齢的にもますます「ひょっとして」との感を強めておりました。
 が、人違いであったら困ってしまうので、WFGの店舗の前を通っても思い切って柳町さんのブースを訪れることはかなわなかったのであります。
 が、上記の本を出したことで、私も一種の大義名分が出来たというか、著名人に献本するのは普通のことだし、それで思い切って柳町さんの新店舗に新刊をお贈りし「ところで、ひょっとしてかつて、千葉市で塾の先生をなさっていませんでしたか」と書きましたら・・・数日後「驚きました、千葉進学塾の柳町です(笑)」というメールが届いた次第。
 ということで、私、柳町さんの新店舗にお邪魔しました。国立競技場のほど近く、閑静な場所柄で周辺は服飾関係の卸しをしているようなお店が多いところ。柳町さんのお店は、いい感じの落ち着いたテナントビルの二階にあります。たまたま外に出ていた柳町さんが「あ、辻元さん」と声をかけてくださいました。実に20年ぶりの再会。
 「ああ、そのお辞儀の仕方、昔から辻元さんはそうでしたね」と仰る。そんなに特徴あるお辞儀を自分はするのかしら。どうも軍人風に素早く頭を下げる癖があるので、そのへんが変わって見えるらしいのですが、それ以後、なんか20年ぶりというのがウソのように話し込んでしまいました。かれこれ1時間半もお邪魔しましたか。
 「これからの時代、使い捨てではないものが普及してほしい」と仰る柳町さんに満腔の共感を覚えました。安いものを外国人に作らせ、石油を消費して輸送する、トータルで値段を抑えて大量生産浪費・・・。結果として、日本人の生活水準が低下し格差が拡大しても、外国製の安いものを買っていれば貧乏人は文句を言わないだろう。これが竹中路線のグローバル化の一側面ですが、これ、なんか違うんじゃないか、と私も思っています。
 「靴のビスポークは初回で25万円ほど、2回目からは平均して20万円ほど。これを量産品と同じ靴として比較されると高いということになるのでしょうが、切実に足に合う靴がほしい、というお客さんは安いと仰る。結局、価値観の問題」。まさにそう思うし、現にその場で作業している二人の若い職人さんを見ていると、全部ここで手作りして20万円前後は非常に安い、と思うのは確かです。月あたり生産数を聞きましたが、それで考えてもこれは安すぎるのかも、とすら思いました。
 それにしてもいい感じのお店です。落ち着いたカフェのような佇まいで明るく、採光も行き届いていて、工房という雑然としたイメージとは違います。柳町さんのお人柄でしょうし、実際「そのへんはこだわっています」とのことでした。
 私が今後、何か書くときにはぜひ教えてください、と言いましたら「靴作りの実務に関してならなんなりと。でも歴史については、靴は分かんないんですよね、19世紀以前というのは」とのこと。そうなんですよね、靴の体系的歴史って書かれていません。
 これは、ゆくゆくまた、自分で書くしかないのかな・・・などと。
 とにかく本当に有意義、そして楽しい20年ぶりの再会でした。
 

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