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2019年4月 4日 (木)

【映画評 感想】ソローキンの見た桜

Photo_20 映画「ソローキンの見た桜」を見ました。日露戦争(190405年)当時、四国の松山にあったロシア兵捕虜収容所を舞台にした物語です。

これまで、第一次大戦当時のドイツ兵俘虜収容所をテーマにした「バルトの楽園」とか、トルコ海軍の遭難兵を救助した際の「海難1890」といった作品がありましたが、基本的には似たようなテイストのお話です。そもそも、日露戦争100周年の時期に作られて評判になったラジオドラマを基にして映像化したそうです。ラジオドラマ的な、ストーリーの起伏といいますか、ひねりが上手い、と感じます。特に後半になると、むしろミステリー・ドラマのような謎解きの要素も加わって来て、最後まで引っ張ってくれます。

日露戦争のロミオとジュリエット、という宣伝コピーにあるように、ロシア兵捕虜の将校と、日本人の看護婦との悲恋を描いているわけですが、これも後半になりますと、「ロミオとジュリエット」というよりは、むしろ生活や親の圧力で、好きな人と別れてお金持ちの男性と結婚する、そういう大人の事情を描いた「シェルブールの雨傘」のような雰囲気に似てくるあたりも興味深い作品です。

ロシア軍の捕虜の軍服が、素晴らしく存在感があり、質感、素材感の重厚さが素晴らしいのですが、これはロシアで調達した物を、わざと着古した感じにして使用しているそうです。だから、さすがの「ホンモノ」感がありますね。井上雅貴監督の奥様で、製作を担い、さらにロシア人看護婦ソフィア役で出演もしている井上イリーナさんの尽力によるものだそうです。

ただ、よくよく見ると、設定どおりのアイテムを付けているのかな、という部分もあります。たとえばロシア軍の少尉という設定のはずなのに、星の数からして、大尉の肩章のように見える、という人物が見受けられる感じがしました。

日本軍のものも、衣装であるにしても、新調品ではなくアンティークなのでしょうか。かなり重厚感があって、ちょっとくたびれている感じがリアルでいいです。イッセー尾形さんの演じた収容所長の河野春庵大佐の持ち味はまことに秀逸です。ただし、史実の河野大佐は騎兵科の将校で、収容所を任された当時は予備役からの再召集だったようです。騎兵科なら、ズボンも本当は赤いズボンに緑色の側章、という方が正しいのかもしれません。上着の袖にも大佐ともなれば、たくさんの装飾ラインが入っていそうですが、よく見えませんでした。

ロシアの名優アレクサンドル・ドモガロフさんが演じた、戦艦ペレスウェート艦長ワシーリー・ボイスマン大佐は、実際には重傷を負っており、19052月までを描いている物語の後、9月には松山収容所で亡くなっているので、史実としては、あんなに活躍していないようですね。

それから、ソローキン少尉が乗っていたという軍艦は、機雷敷設艦アムールのことだと思います。字幕で「戦艦アムール」とあったような気がしますが、戦艦ではないと思われます。

その他、私のような(!)時代考証にうるさい人から見ると、多少の問題はあるのですが、しかし全体としては非常に雰囲気が出ていて、よく出来ている映画です。関係スタッフの執念を感じます。冒頭に「史実に着想を得た物語である」と明記されている通り、フィクションですので、重箱の隅をつつくような見方は宜しくないかもしれませんね。

史実に実在する人物は3人だけ、だそうです。先ほども名前を出した、収容所長の河野大佐、ロシア側のボイスマン大佐、それからヒロインとは別に、ロシア兵と恋に落ちてしまう看護婦として登場する竹場ナカ(海老瀬はな)。実はこの竹場ナカと、ロシアの砲兵中尉ミハイル・コステンコの2人の名前を刻んだコインが、近年になって収容所の跡地で発見されたのです。従って、日本人女性とロシア兵との間で、禁断のロマンスがあったことは間違いないらしい、ということが前提にあって、こういう物語が生まれたわけです。

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2018年、愛媛の地元テレビ局の新人ディレクター、桜子(阿部純子)は、先輩の倉田(斎藤工)から、松山にあるロシア兵捕虜の墓地を取材するように命じられます。この墓地は、桜子の祖母・菊江(山本陽子)が大切にしている場所でもあり、桜子にとってもなじみのあるものですが、これまで個人的にはあまり関心がありませんでした。

しかし、この墓地には日本で亡くなった100人あまりのロシア軍人の墓がありますが、記録に残っているソローキン少尉のものが見当たらない、と倉田は言います。さらに最近になって、ロシアでソローキンの日記が発見された、つまりソローキンは日本で死んでいなかったことが分かった、というのです。倉田はこのソローキンの謎を解く特集番組を作り、やがて書籍にしたり、映画にしたりしたいので協力してほしい、と桜子に言います。

その話を聞いた菊江は、菊江の祖母に当たり、日露戦争当時は収容所の看護婦を務めていた、ゆい(阿部の二役)の日記を桜子に示します。というのも、ゆいはソローキンと深い関係があった、というのです。

桜子は倉田と共に、かつてソローキンが住んでいたサンクトペテルブルクに向かいます。その中で、桜子は自分が、実はソローキンの子孫であるという事実を知り、衝撃を受けます。

 

1905年、松山の捕虜収容所にやって来たソローキン少尉(ロデオン・ガリュチェンコ)は、看護婦のゆいと運命的な出会いをします。ゆいの弟は、ソローキンの乗っていたロシア艦が敷設した機雷で沈没した戦艦の乗組員として戦死しており、ゆいはソローキンに対する憎しみを抑えきれません。しかし、2人は徐々に理解し合い、やがて禁断の恋が2人を包んでいきます…。

しかし、ゆいの実家であるロウソク店は、長男が戦地で負傷して障害者となり、弟は戦死して、経営にも困窮しています。ゆいの父親勇吉(六平直政)は、ゆいとエリート銀行員との縁談を勝手に進めてしまいます。

ソローキンも苦悩していました。彼は実は、ロシアで革命を起こそうと画策しているグループのメンバーで、故国が心配でなりません。革命派を応援する日本の軍部は、彼をロシアに送り返そうと画策します。収容所の通訳・室田(山本修夢)は、河野所長やボイスマン大佐とも協議のうえで、密かにある計画の実行をソローキンに持ちかけますが…。

 

というようなわけで、収容所の通訳である室田という人物が、後半部のカギを握ってくるのですが、これは史実でも行われた、明石元二郎大佐(後に大将)が率いた諜報機関によるロシア革命煽動計画を下敷きにしているようですね。室田は下士官の軍服を着ており、大した人物ではないように装っていますが、実際には明石大佐の機関のメンバーで、おそらく本当は将校なのでしょう。このあたりから、純愛ロマンス的なお話が、ちょっとサスペンス調になってくるのが巧妙なストーリーです。そして、最後の現代のパートに移って、全ての謎が解けるわけですが、ここが感動的です。

主演の2人、阿部さんとロデオン・ガリュチェンコの新鮮な演技がいいです。文句なく素晴らしいです。

今、日ロ関係そのものは一進一退、という感じですが、歴史的にはいろいろ縁が深い国です。見終わって、見てよかった、と思える感慨深い一作でした。

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