« お茶の水ロータリークラブで講演を致しました!(九段下・ホテルグランドパレス) | トップページ | 【映画評 感想】ソローキンの見た桜 »

2019年3月30日 (土)

【映画評 感想】ダンボ

 映画「ダンボ」DUMBOを見ました。言うまでもなく、あのディズニーの名作アニメの実写化です。メガホンを執るのは名匠ティム・バートン監督。バートン監督の「アリス・イン・ワンダーランド」がヒットしたことで、ディズニーによる「過去の名作アニメを、最新の映像技術で実写化する」という試みに弾みが付きました。「シンデレラ」「マレフィセント」に「美女と野獣」と、原作の持ち味や音楽を生かしつつ、現代的な解釈を織り交ぜて、「昔はアニメでしか表現できなかった」映像が次々とリアルになって登場しています。今後も「アラジン」「ライオンキング」「マレフィセント2」と、力の入った作品が待機している模様です。

 オリジナルのダンボと言えば、なんと公開は1941年の秋! つまり、日本軍が真珠湾攻撃をする寸前だった、というから驚きます。ディズニー・アニメの第一作「白雪姫」から「ピノキオ」「ファンタジア」と続き、ダンボは4作目でしたが、これ以前の3作は予算が巨額の割に興行的には伸びず、ダンボこそが最初のヒット作品、と言えるようです。ちなみに次作は「バンビ」で、さらに戦後の「シンデレラ」や「眠れる森の美女」へとつながって行きます。つまり、ディズニーにとってもダンボは、大事な分岐点を担った一作でした。この作品の成功がなかったら、その後のアニメ文化も、あるいは手塚治虫先生以後の日本のアニメも、存在しなかったかもしれません。Photo_19

スピルバーグ監督の映画「1941」では、ジョセフ・W・スティルウェル中将役のロバート・スタックが、劇場でダンボを見て涙するシーンがありました。確かに、あの時期にヒットしていた映画だったわけです。その後、日本軍がシンガポールを占領した後、こうしたディズニー・アニメや「風と共に去りぬ」などのフィルムが日本側の手に入り、これを見た日本軍将校の一部は「こんな総天然色(フルカラー)のすごい映画が作れる国と戦って勝てるわけがない」と密かに思った、というのはよく知られているお話です。そういう時代背景のため、日本でダンボが公開されたのは、戦後もかなり経った1954年だったといいますが、その時点でも、手塚先生を始め、日本人に大きな衝撃を与えたわけです。

 しかしオリジナルの1941年版のアニメは、長編というにはぎりぎりというか、かなり尺も短い64分で、動物中心のシンプルな内容でしたよね。コウノトリさんが、お母さんゾウのジャンボの元に赤ちゃんを運んで来てくれる。でもその赤ちゃんゾウは耳が大きくて、仲間のゾウたちからは仲間外れにされ、みんなの笑い者にされる。やがてダンボを守ろうとして怒ったジャンボは、危険なゾウとして監禁されてしまう。ピエロとなって失意の日々を送るダンボを、ネズミのティモシーが励まし、誤って酒を飲んでしまったダンボは、ピンク色のゾウの夢を見ながら空中に飛ぶことになる。カラスたちから魔法の羽根をもらい、ついにダンボは自由に飛行できるようになり、サーカスの大スターとなって、ハリウッドと契約して大成功、母のジャンボと再会する…基本的にはそういうストーリーで、周囲の人間はサーカス団長以外、ほとんど描かれていないものです。

 今回の作品も、ネズミやカラスを中心とした、擬人化された動物だけで構成することはできたでしょうが、それでは実写化の意味がない。そこで、サーカス団の人間たちとダンボ母子との関わりを描くことで、物語を大きく広げた、という感じです。

 1919年という、第一次大戦が終わった直後を時代背景とし、負傷して腕を失い、障害者となった軍人が戦地から帰還する、といった社会派的な要素も盛り込みました。さらにダンボ母子が「その後、どうなったのか」まで語ろうとする、など、より実写映画にふさわしいリアルな設定を加えながら、ダンボそのものは、アニメのままのかわいらしさを見事に再現している、といったさじ加減が巧妙です。このへんはさすがに、ティム・バートンの仕事です。

 その一方で、オリジナルの楽曲を使い、コウノトリや、ネズミのティモシーも扱いは小さいながらちゃんと登場、ピンクのゾウまで別の形で姿を見せるなど、リアリティーを維持できる範囲で、原作とファンへの配慮も忘れていない点が心憎いです。

 考えてみますと「シザーハンズ」とか「バットマン リターンズ」「マーズ・アタック!」「ダーク・シャドウ」「ミス・ペレグリン」など、バートン監督は、社会の主流から外れて孤立する者、阻害される「アウトサイダー」を好んで取り上げてきました。ダンボは、まさにそういう存在の先駆け的なキャラクターで、社会的にも大きな影響を与えてきましたので、この監督がダンボを手掛けるのは、ある種、必然だったと言えるかもしれません。

Photo_18

 第一次大戦が終わって間もない1919年。全米を興行して回るメディチ・ブラザーズ・サーカスに、戦地からかつての花形馬術師、ホルト・ファリア大尉(コリン・ファレル)が帰ってきます。娘のミリー(ニコ・パーカー)と息子のジョー(フィンリー・ホビンズ)は、父が左腕を失っている姿を見てショックを受けます。ホルトが出征している間に、世界中を襲った恐ろしいスペイン風邪にかかり、ホルトの妻アニーは病死していました。

 サーカス団自体も経営不振で、団長のメディチ(ダニー・デビート)は、ホルトの曲芸用の馬を全部、売り払っていました。自分の芸が出来なくなったホルトは、メディチが最近、買い込んだアジアゾウのジャンボの世話係をすることになります。

 やがて、ジャンボは赤ちゃんゾウを出産します。しかしそれは、まるで羽のように大きな耳を持っており、みんなから笑い者にされてしまいます。公演に初出演した際には、赤ちゃんを守ろうとしたジャンボが怒って暴れ、テントが倒壊して死傷者まで出ます。

 メディチは扱いに困ったジャンボを売り払ってしまいます。母親と引き離された赤ちゃんは大きな耳の「ダンボ」と呼ばれるようになり、サーカスの道化役に。しかし、ダンボに同情したミリーとジョーは、ある日、ダンボが大きな耳で空を飛べることに気付きます。

 その後の公演で、空を飛んだダンボは一躍、大人気を呼んで一座のスターになります。しかし、これを聞きつけた大規模遊園地ドリームランドの経営者、ヴァンデヴァー(マイケル・キートン)がメディチを口説き、メディチのサーカスはそっくり全て、ドリームランドに吸収合併されます。ダンボは、ドリームランドのアクロバット・スター、コレット(エヴァ・グリーン)と空中芸の共演をすることになりますが、コレットはヴァンデヴァーの急な命令に不服を覚え、ホルトに不信感を抱いています。母と別れて悲しみ続けるダンボとも息が合

わず、なかなかうまくいきません。

 メディチも「副社長」という肩書を与えられただけで仕事はなく、徐々にヴァンデヴァーの凶暴さと野心がむき出しになってきます。大金の出資を狙い、大物銀行家レミントン(アラン・アーキン)を招いた大事な公演で、ダンボはコレットを乗せて、絶対に飛行に成功しなければならない、という局面に追い込まれますが…。

 

 出演陣を見ると、コリン・ファレル以外はバートン組といってよいメンバーが総動員されています。妖艶なエヴァ・グリーンは見るからにサーカス団の花形ですが、実は、本来は高所恐怖症だそうで、にもかかわらず、半年近くプロの曲芸家の元でアクロバットの訓練を受けて、撮影に臨んだということです。女優魂というか、根性がすごいです。

 久々に見たダニー・デビートもはまり役です。どこか憎めない飄々とした団長ぶりがいいです。アラン・アーキン、マイケル・キートンといったベテランもしっかり締めております。

 そして、コリン・ファレルの戦地帰りの哀愁漂う(でもいざ、となると頼れる)お父さんぶり、非常にいいです。中年に差し掛かって、演技の幅が広がってきた感じです。これまで、本人は熱演しているのに、出演作が伸び悩んで不遇、というイメージの強かったファレルですが、同じくディズニー製作「ファンタスティック・ビースト」への出演が、今作の起用にもつながったのではないかと思われ、いい流れに乗ってきているように見受けます。冒頭の軍服姿のファレルもカッコいいです。陸軍殊勲勲章などを左胸に着け、軍隊では騎兵隊の英雄と見なされていた彼が、ゾウの用務係に回される、という描写が痛々しかったですね。

 ダンボは、共演者とのからみではちゃんと、モーション・キャプチャーでゾウになりきって演じた役者さんがいました。エド・オズモンドという人ですが、毎日、12時間も赤ちゃんゾウになって、四つん這いになっているのは本当に大変だったそうです。実際に赤ちゃんゾウの動きを研究して、真似してみせたそうですが、いや、本当に頭が下がります。

 ということで、独特のバートン節で、非常に上出来のリメイクになったと思います。アニメの実写化は、これまで失敗例も多いわけですが、近年のディズニーはずっと外すことなく、ヒットを続けています。実写化のお手本というか、ノウハウが築かれてきたように感じます。

 いちばん大事なのは、オリジナル作品と、ファンに敬意を払うこと。そのうえで、実写化に見合った現代性や適切な設定の変更、リアルさも、バランスを崩さないように盛り込むこと。そこを外すと痛い目に遭うのだと思います。本作は、このあたりの兼ね合いがうまくいっている、一つの典型例ではないでしょうか。

|

« お茶の水ロータリークラブで講演を致しました!(九段下・ホテルグランドパレス) | トップページ | 【映画評 感想】ソローキンの見た桜 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« お茶の水ロータリークラブで講演を致しました!(九段下・ホテルグランドパレス) | トップページ | 【映画評 感想】ソローキンの見た桜 »