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2019年2月23日 (土)

【映画評 感想】アリータ: バトル・エンジェル

映画「アリータ: バトル・エンジェル」Alita: Battle Angelを見ました。ジェームズ・キャメロンが脚本、製作を務め、「エル・マリアッチ」や「シン・シティ」で知られるロバート・ロドリゲス監督がメガホンを執っている本作。実は日本の漫画を原作にしています。1


 

ここでちょっと脱線して、個人的な話を書きます。

私は子供のころ、それほど熱心な「漫画読み」ではありませんでした。漫画雑誌を毎号、買う、という習慣がなかったのです。しかし一方で、近所の床屋さんの店主が漫画好きな人で、待ち時間には新しい漫画雑誌が読み放題、という環境でもありました。この床屋さんのおかげで、たまたま手に取った漫画雑誌の中で、私はいくつか、記憶に残る印象深い作品に出会いました。「サーキットの狼」「ドカベン」「Dr.スランプ」「ガキデカ」「こちら亀有公園前派出所」といった作品の最初の1回目を、かなり鮮明に覚えています。いずれも最初ですから、全く無名な漫画です。しかし非常に印象が強く、その後になって超有名作品に成長したことを知りました。思うに、自分にも目利きの能力はあるのだろうと感じます。

といっても、たまたま床屋で読むだけですから、2回目以後の展開は知らないことも多く、「ドカベン」などは、後になってこのあだ名で有名になった野球選手が登場した際に驚愕しました。というのも、あの作品は、主人公の中学時代を描いた初期は柔道部が舞台で、1回目しか知らない私は、長い間、ドカベンというのは柔道漫画だと信じていたからです。

こんな感じで、熱心な読み手ではないけれども、たまたま出会った印象的な作品をよく覚えている、という経験は、大人になってからもあったのです。思い返すと1991年頃、平成の初めの時代です。確か会社の同僚から「もう読んだからあげるよ」と「ビジネスジャンプ」誌を渡されました。その当時、長らく漫画など全く読んでいなかったので、最近の漫画はこんな感じか、と思いました。たくさんの作品があったはずですが、記憶に残っているのは2作品だけ。ひとつは女性下着の開発をする人たちを描く「甘い生活」という作品の最初の方で、なんでもその後、何十年も続く人気作品になったそうですね。

そしてもうひとつ、ものすごく運動神経のいい少女が、深い竪穴の中に飛び降りて、スタッ、と地底に立つ、というだけの作品。「ガリィ」と名乗る少女のシャツの袖は破れており、機械の腕が見えることから、おそらく彼女は人間ではなくアンドロイドかサイボーグなのだろう、というのは分かりました。絵の描写が大きく伸びやかで、非常に魅力的なのですが、たっぷり余白を使ったコマ割りで、その1回では穴に飛び降りる以外、ほとんどストーリーが進みません。ガリィの育ての親らしき人物がちょっと登場するだけ。もっぱら彼女が走り、跳躍し、人間離れした身体能力を見せつけるだけ、なのですが、これがなんとも印象深いのです。何事も起きない「つなぎ」的な回ですが、大変、インパクトがあると思いました。

その時は、漫画の題名も覚えないままで終わりました。それから30年近くたって、キャメロンが日本の漫画を原作にした映画に取り組んでいる、という話になり、初期の予告映像を見て、私はすぐにピンと来たのです。これは「アリータ」と名を変えているが、あの「ガリィ」だ、と。

こうして、遅ればせながら、私はあの漫画が木城ゆきと作の「銃夢」(がんむ)であったことを知ったのです。やはり私には、漫画を目利きする能力はあるようです。Photo


 

キャメロンに「銃夢」を紹介したのは、日本の漫画やアニメに詳しいギレルモ・デル・トロで、それから二十数年、キャメロンは本作の映画化をずっと模索していたそうです。しかしあの「アバター」が、キャメロン自身が「タイタニック」で打ち立てた歴代興行収入記録を塗り替え、全世界で3000億円に達しようというほどの超大ヒットを収めてしまったことで、計画は狂いました。「アバター」の続編4本を同時製作することとなり、「アリータ」は着手できずじまい。そこに現れたのがロバート・ロドリゲスだった、という次第です。

クリストフ・ヴァルツ、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリと、主要なキャストは皆、アカデミー賞俳優で固めています。主演のローサ・サラザールは、「メイズ・ランナー」シリーズでブレイクした伸び盛りの若手。オーディションを勝ち抜いて大抜擢されました。その他は、ミュージカル出身で映画初挑戦のキーアン・ジョンソンなど、期待の新人からベテランまで、いろいろな人が配置されています。

 

時代は26世紀の未来。火星連邦(URM)との「没落戦争」から300年が経過し、人類の文明は荒廃。戦争で唯一、生き残った空中都市ザレムが、地上のクズ鉄町「アイアンシティー」を支配しています。空中都市は地上の人から見て憧れの別世界で、上がっていくことは許されません。この時代、人々は身体をサイボーグ化した者と、生身のままの者に分かれており、また法律により銃の携帯は一切許されていません。

アイアンシティーの医師イド(ヴァルツ)は、ザレムから落ちてきたゴミの山の中に、生きているサイボーグの少女の頭部を発見します。彼はこれを持ち帰って蘇生し、「アリータ」と名付けて娘のように見守ります。

自分の本名も忘れ、それまでの記憶もなく、存在する意味も分からないアリータは、街で親切な青年ヒューゴ(ジョンソン)と知り合い、親しくなります。また、謎の女性チレン(コネリー)から声をかけられ、いぶかしく思います。

しかしヒューゴには裏の顔があり、ザレムの指導者の指示を受けて地上を統括しているベクター(アリ)の配下として、何やら秘密の行動をとっています。

アリータは育ての親のイドが、夜になると密かに出かけて行って、日によっては怪我をして、血を流しながら帰ってくることに気が付きます。

ある晩、イドの後を密かに尾行したアリータは、イドが夜になると、お尋ね者のサイボーグを狩る賞金稼ぎ「ハンター戦士」として活動していることを知ります。その日、ニシアナ(エイサ・ゴンサレス)とグリュシカ(ジャッキー・アール・ヘイリー)という凶悪なサイボーグと戦い、窮地に陥っているイドを見て、アリータの中で何かが動き出します。圧倒的な格闘の強さで、ニシアナを倒し、グリュシカを撃退したアリータは、自分が本来、精強な戦士であったことを知るのです。

やがてアリータは、自分が300年前の戦争の生き残りで、URMが製造した最強兵器の一人であることを知ります。宿敵のグリュシカや、アリータを敵視するハンターのザパン(エド・スクレイン)との戦いを通じて、アリータは自分が本来、何者なのかを徐々に思い出していきます。

ベクターは、ザレムの指導者ノヴァから指令を受け、アリータと親しいヒューゴを利用して、自分が興行を支配している命がけの格闘球技「モーターボール」の試合に、アリータを出場させようと目論みます。ノヴァの命令を受けるベクターの傍らには、チレンの姿もありました。実は彼女は、かつてイドの妻であり、「アリータ」というのも、本来は、イドとチレンの間に生まれた娘の名前だったのです…。

こうして、ベクターの思惑通り、モーターボールの試合に出場することになったアリータですが、それは彼女の命を奪うために仕組まれた罠でした。同じころ、ヒューゴはザパンに襲われ、絶体絶命のピンチに。アリータは自分の危機を乗り越えたうえで、ヒューゴを救出しなければならなくなりますが…。

 

ということで、さすがにジェームズ・キャメロンが携わった作品です。原作の持ち味を生かしながら、驚くべき映像を次々に繰り出してきます。また、ドラマの核となる少女の成長、イドとアリータの間の、父娘のような愛情や、ヒューゴとの恋愛模様なども、丁寧に描き出されて感動を呼びます。これは「ターミネーター」であっても「アバター」「エイリアン2」であっても言えることですが、キャメロン独特のヒューマニティーが色濃いため、キャラクターが生き生きと描写され、凡百なSF作品にありがちな、映像頼み、ギミック頼みのこけおどしに落ちることは決してない、ということが本作でもいえると思います。

何よりも、キャメロンとロドリゲスが原作に対して敬意を払っている、と感じられます。アリータの目は非常に大きく、まさに漫画のようですが、このために彼女が人間ではないことがはっきりと示されています。これは、原作の「ガリィ」のイメージを大事にしたかった、という要素も大きいそうです。

映画を見ていて、はっきりと分かりました。アリータが、地下に潜むグリュシカと戦うために、深い穴に飛び込んでいく情景が確かに描き出されました。これこそ、私が30年近く前にたまたま読んだ「銃夢」のあのシーンだ、とすぐに理解できました。しばしば原作が何だったか分からなくなるほど損なってしまう、いや破壊してしまう「実写映画化」が行われますが、そういう企画はおおむね死屍累々、まず成功しません。もちろん「銃夢」の熱心なファンの方がどう思われるのか、はちょっと分からないのですが、少なくとも、これほど丁寧な映像化をされて、原作も冥利に尽きるのではないかと思う次第です。

キャメロンほどの人が二十何年もかかって実現した本作は、期待を裏切らない出来栄えだと思います。それだけ時間がかかったために、「アバター」などによる映像の革新の成果が取り入れられ、モーション・キャプチャーの完成度も驚異的なレベルに到達しています。そういう意味で、満を持して登場した、という一作です。原作に従って、二作目以後が当然、あってよい、というかあるべきエンディングになっておりますので、ぜひ続編も、と期待されるところです。

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