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2019年2月 9日 (土)

【映画評 感想】アクアマン

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  映画「アクアマン」
Aquamanを見ました。映像の素晴らしさは近年でも最高レベルで、見たこともない海底の世界や生物が描かれます。それに心を揺さぶられる恋愛要素、家族の絆といったドラマの面でも見事です。アクションの質の高さもさすがで、マレーシアが生んだ鬼才ジェームズ・ワン監督の手腕が光ります。

本作はDCコミックスの「DCエクステンデッド・ユニバース」6作目にあたり、すでに興行収入1100億円超えの大ヒット作となっています。

 はっきり言って、スーパーマンやバットマン、ワンダーウーマンと言った「著名なスーパーヒーロー、ヒロイン」と比べると、知名度が低いアクアマン。映像化シリーズにおいても、すでにそういった有名超人と「ジャスティス・リーグ」などで共演していたものの、正直なところ、これまではあまり注目されていませんでした。ところが単独作品化したところ、大化けしてくれた、というわけです。水中では時速160キロで泳ぎ、筋力は普通の人間の150倍、銃弾はおろかグレネード弾の直撃でもビクともしない、という設定は、まさに「海のスーパーマン」です。

 アクアマンは、最近、登場したようなものではなく、第2次大戦中の1941年にコミックに初登場した歴史のあるキャラクターです。38年にスーパーマンが登場してわずか3年後であり、同じ年にデビューした同期にはキャプテン・アメリカがいる、ということで、老舗といっていいキャラですね。当時の時代背景から、最初のアクアマンは、ナチス・ドイツのUボート(潜水艦)と戦うヒーローだったようです。

古代に海底に沈んだアトランティス帝国の末裔で、地上で普通の子供として育ったのだけれど、実は王位継承者である、という、いわゆる「アーサー王伝説」型のヒーローで、それ自体は昔から英雄伝説ではよくあるお話。実際、主人公の名前がアーサーなのも、アーサー王にちなんでいます。ライバル関係の兄弟がいたり、海神ポセイドンに由来するトライデント(三叉の鉾)がテーマになったり、と似たような設定の作品もいろいろ思い浮かびます。

 しかし、なんといっても異色なのは、原作コミックで典型的な金髪美形のヒーローだったアクアマンを、ハワイ出身で荒くれ者のイメージが強いジェイソン・モモアが演じた点です。黒髪で全身にタトゥーを入れた武骨な、だけど知的で愛嬌があって憎めないアクアマン、というのはいかにも現代的なひねり方で、父親役にニュージーランド出身のテムエラ・モリソン、母親役にはオーストラリア出身のニコール・キッドマンを配して、どこか「モアナと伝説の海」を思わせる海洋映画になったことで、非常に魅力的な作風になりました。舞台設定も、アメリカ、海底のほかにサハラ砂漠、イタリア、さらにロシアの潜水艦、といろいろな文化圏を取り上げて、小さな枠に収まらない作風になっています。今のアメリカでは、スーパーマンやキャプテン・アメリカのような、伝統的で直球勝負型のヒーローから、「ブラック・パンサー」や「ワンダーウーマン」「デッドプール」といった、文化的な背景や設定に多様性のあるものが受けるようになって、実際に大ヒットしていますが、この作品もそういう流れの中で大いに存在感を示しているように思います。

 ところで、この作品の世界では、洋上にあったアトランティス帝国が水没した後、この国の人々は高い科学技術力により、水中生活に適した体質に進化した、ということになっています。だから、彼らは水中でしか行動できず、陸上に上がるには宇宙服のようなスーツを着ていないといけません。彼らのヘルメットの内側は、空気ではなくて海水で満ちているわけです。海底国家となって以来、アトランティスの本家のほかに、六つの分家の王制国家に分かれています。アトランティス王国と、隣国ゼベル王国の人々は地上の人類と同じような姿かたちのままですが、人魚のような姿になった魚人王国、ヤドカリのような姿に変化した甲殻王国、さらに知性を失い化け物のように退化してしまった海溝王国、かつては海底にあったが地殻変動により、今ではサハラ砂漠となって事実上、滅亡した砂海王国、さらに作中では登場しないもう一つの王国が存在する模様です。

 そして、陸上では呼吸できないのが基本ですが、いずれの王国においても王族の人々だけは、地上で呼吸できる、とされています。それで、アクアマンをはじめ、母親のアトランナや、アクアマンの弟オーム、ゼベル国王ネレウス、その娘のメラ、といった主要な人物は、地上でも自由に行動できるわけです。

 

 1985年、アメリカ・メイン州の灯台を守るトム・カリー(モリソン)は、嵐の海から岸に打ち上げられた美女アトランナ(キッドマン)を助けます。彼女は海底の帝国アトランティスの女王と名乗り、望まない政略結婚から逃れてきたのだ、と言います。優しいトムに心ひかれたアトランナはほどなく恋に落ち、一人息子アーサー(モモア)が生まれます。

 しかし、彼女の行為はアトランティス国家に対する反逆行為であり、ついに追手が灯台に攻めてきます。愛する夫と息子を守るために、アトランナは後ろ髪をひかれながら海に戻っていきます。「いつかきっと、この桟橋に戻ってくる」と言い残して。

 そして現代。大人に成長し、海賊に襲撃されたロシア海軍の潜水艦を救援するアーサーの姿がありました。彼は、アクアマンと呼ばれて、既に超人として世に知られるようになっています。潜水艦を巡る戦いで、海賊の首領ジェシー・ケイン(マイケル・ビーチ)が命を落とし、その息子デビッド・ケイン(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は父の仇としてアーサーを激しく憎みます。

 その頃、アトランナの息子で、アーサーの異父弟にあたるオーム(パトリック・ウィルソン)はアトランティス王位を継ぎ、さらに七つの海底国家を統合して海の皇帝である「海洋の覇者(オーシャン・マスター)」を名乗ろうと野心を募らせていました。そればかりでなく、地上の世界に侵攻し、全世界を治める覇王となる、という途方もない考えに取りつかれています。古来の取り決めにより、地上侵攻のためには、少なくとも四つの国の同意か服属が必要とされています。アトランティスの分家で、アトランティスに匹敵する有力な海底国家ゼベル国の王ネレウス(ドルフ・ラングレン)は、オーム王の考え方を危険視しています。また、アトランティスの重臣で軍の参謀を務めるバルコ(ウィレム・デフォー)も、オーム王の侵略的な性格を危惧しています。彼は密かに地上のアーサーを育て、アトランティスの情報を教え、武芸を仕込んで、見守ってきた存在です。

 ネレウス王の娘で、オームの婚約者でもあるメラ王女(アンバー・ハード)は、アーサーのもとを訪れ、地上に危険が迫っていること、海底の世界にやって来てオームの暴走を止めてほしいことを訴えます。しかしアーサーはバルコから、母親アトランナが、地上の人間と交わって子供を産んだことを理由に処刑された、と聞かされており、自分の存在が母アトランナを苦しめ、ついには死に追いやった、と自責の念にとらわれており、海底の世界に行くことを拒み続けています。

 しかし、そんなある日、「地上の国の潜水艦」がアトランティスを攻撃してきます。オームは地上への報復を唱え、ネレウスもそれに従わざるを得なくなります。ところが、その潜水艦というのはオームが演出した狂言で、あの海賊デビッド・ケインが加担して行われた謀略だったのです。

 大津波が地上を襲い、父親トムが危うく命を落としそうになるに及び、ついにアーサーはメラと共に海底に赴くことを決意します。そこで彼はバルコから、真の王位継承者を名乗るには、アトランティスの初代アトラン王(グレアム・マクタヴィッシュ)がどこかに秘匿した伝説の武器、トライデントを手に入れる必要がある、と聞かされます。

 まもなく捕えられたアーサーは、王位をかけてアトランティスの国民が見守る中、オームと決闘することになります。長年かけて準備万端を整えていたオームに歯が立つはずもなく、敗北寸前のピンチに陥りますが、見かねたメラがアーサーを救出。そして2人は、アトラン王のトライデントを求めて、アフリカのサハラ砂漠、さらにイタリアのシチリアへと探索の旅に出ますが、その行く手には思わぬ敵が待ち受けていました…。

 

 といったことで、非常に濃厚なドラマが展開しますが、脚本の整理がよいので、分かりにくいこともなく、といって話が飛び過ぎることもなく、巧みな演出に感心しました。過去の話と現在の話があり、海底にいくつもの王国があり、地上の世界も次々に舞台が変わっていくので、下手な脚本だと、何が何だか分からなくなる、という恐れが十分にあるわけで、事実、そういう実例もこの手の作品には多いわけですが、本作は実に見事だと思います。

 キャスティングも非常に凝っていると思います。

 主演のモモアの存在感と、ワイルドなのにチャーミングな人柄はまさにこの映画の核。真っ赤な髪に染めたアンバー・ハードは、強気でじゃじゃ馬なお姫様、という役柄には、まさにはまり役ですね。この主演の2人の魅力が作品を支えているのは言うまでもありません。

なんといってもいい味を出しているのがウィレム・デフォーの古武士のような風格。髪型も日本の武士のようなスタイルで、デフォー本人が「日本のサムライのイメージで」と求めたからこうなったそうです。確かに黒澤明の映画に出てくる戦国時代の侍大将のような、静かな佇まいの中に威厳のあるキャラに仕上がっています。

 ドルフ・ラングレンがこういう形で出てくる、というのも意表を突かれました。人間核弾頭などと呼ばれ、「ロッキー」シリーズで知られるアクション・スターですが、今回は、アクションは若い人たちに譲り、思慮深い国王として存在感を示しています。

 敵役となるパトリック・ウィルソンは、「オペラ座の怪人」以来、「アラモ」「プロメテウス」など、あちこちの映画で顔を出すほか、ジェームズ・ワン監督の大ヒット実話ホラー「死霊館」シリーズで活躍する人。オーム王は原作では一見してダークな悪役ですが、今回は出来るだけモモアのワイルドなアクアマンとは対照的なキャラにしているとか。金髪で徹底的にきれい目なルックスにして、むしろ原作のアクアマンの印象に近い感じです。

 ニコール・キッドマンとテムエラ・モリソンの恋愛ドラマは、この作品の中で時間は短いながら中核ともいえる部分で、監督も「この2人のパートが好き」と言っています。さすがの実力者2人で、しっかりと見せてくれます。モリソンと言えば「スター・ウォーズ」のジャンゴ・フェットで有名で、「モアナと伝説の海」ではモアナのお父さんの役もやっていました。

 アトラン王役のマクタヴィッシュは、「ホビット」シリーズでドワーフの勇者ドワーリンを演じて注目されました。それから、甲殻類の国の王ブラインの声をジョン・リス=デイビスがやっていますが、こちらは「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでドワーフのギムリ役として有名な人で、今回も特徴的な声ですぐにそれと分かります。

 最も驚いたキャストが、深海でアトラン王のトライデントを守る怪物カラゼンの声を演じた人。なんとジュリー・アンドリュースなのです! 1964年の「メリー・ポピンズ」や65年の「サウンド・オブ・ミュージック」の、あの人です。アクアマンもビビる、すごいド迫力のナレーションでしたが、後で配役を知ってなるほどと思いました。圧倒的な存在感とか、長い時間を経て生まれた自信と威圧感を自然に発する人、ということでこういうレジェンド的な名優を起用したのでしょうが、素晴らしい着想です。

 とにかく見ていて、映像、アクション、ドラマのバランスがよく、いい作品だと思います。あまりよく知らないキャラクターなので、という理由で敬遠するのはもったいない一作ですね。これだけヒットしたので、きっと続編もあるのではないか、と思います。

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