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2018年9月20日 (木)

『海軍善玉論の嘘』(是本信義著、光人社NF文庫)

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『海軍善玉論の嘘‐誰も言わなかった海軍の失敗』(是本信義:光人社NF文庫)が刊行されました。著者の是本信義先生は、防大
3期、海上自衛隊で艦長、司令、幕僚、総監部防衛部長等を歴任された方で、退官後は経営者としても成功され、軍事知識とビジネス視点を組み合わせた著書を多数、出しておられます。

「いままでの日本海軍にたいする既成概念を一切ご破算にし」(あとがき)、旧海軍に関する美談や「嘘」を喝破する筆致が痛快です。スマートな海軍のイメージに引きずられ、ひとり陸軍と東条首相だけが悪者だった、という世間でありがちな議論は明らかに問題があり、歴史を見る目が曇るものと私も危惧しており、有益な一冊です。米内、山本、井上の3提督は確かに、一度は日独伊の三国同盟を阻止したわけですが、それ以外の局面で一貫して平和論者だった、というのは嘘である、という指摘が本書の眼目。

 その他に、日露戦争の頃からの流れを踏まえて、そもそも大局論として対米開戦が無理筋だったのに、それをやってしまった問題、ジョミニ~マハン流の戦術に偏った思想、ハンモックナンバーに固執した人事上の問題、粗雑な意思決定の問題、兵器の問題(たとえば大和とアイオワ級が撃ち合ったらどうなるとか、日本軍にVT信管があったら…などミリタリー好きな人々が言い募る大砲やら装甲やらの個艦性能うんぬん以前に、指揮管制装置の差が大きいので初めから勝負にならない可能性)、および弾薬などの互換性もなかった問題、陸海軍が戦時においても全くバラバラのまま最後まで行ってしまった問題、個々の作戦の失敗の問題、さらに山本五十六など指揮官の資質の問題…と、旧海軍の欠点というテーマで横断的、巨視的に一本にまとめ上げられた労作です。

 旧海軍を愛する立場の人からは、激しい反論も出そうなテーマをあえて取り上げられた是本先生の剛毅さと、海自高級幹部ご出身という強い説得力が、後世への教訓として何としても世に問いたい、という一本通った強靭な芯を、本書に生み出しています。

 海自の要職を経験された後、企業経営もされた是本先生ならではの鋭い指摘が、随所に光り、人事や意思決定の項などは特にそれを感じます。日本の企業はとにかく意思決定の面で遅れている、と言われることが多い昨今、まことに重要な示唆があります。

 本書は、単行本『誰も言わなかった海軍の失敗』(2008年)の文庫本化。2018919日発行、定価760円+税、文庫判248ページ。

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