【映画評 感想】スカイスクレイパー
映画「スカイスクレイパー」原題:Skyscraperを見ました。スカイスクレイパーとは「摩天楼」の意味ですが、本作はそのものズバリ、最新鋭の超高層ビルを舞台に繰り広げられる「密室パニック・アクション」という系譜の一作です。ということになれば、同様に高層ビルからのサバイバルや、テロリストとの死闘をテーマとした過去の大ヒット作品「タワーリング・インフェルノ」や「ダイ・ハード」が想起されますが、本作はそれらのリメイクではないにしても、影響を受けた、と製作側が公言しています。実際、一部では先行作品に話が似すぎている、との評もあるようです。
しかし、本作の主演・製作はドウェイン・ジョンソン。結局、この人が出ることで、映画も「ドウェイン印」の作品という印象になり、スティーブ・マックイーンでもなければ、ブルース・ウィリスでもない現代のお話、というイメージになるのは間違いないところ。
このところのジョンソンの活躍ぶりはすさまじく、「モアナと伝説の海」「ワイルド・スピード」「ジュマンジ」「ランペイジ/巨獣大乱闘」と、関わった作品は軒並みヒットを連発しております。今やアメリカを代表するアクション・スターになった、と言っていいでしょう。この人が、元々はプロレス界の大御所選手「ロック」だった、という事実も、既に若い世代の人は知らない、というほどに映画界で成功しました。
それでも、ドウェイン・ジョンソンというキャラは、その出自から言って、破格の身体能力を持っていることが前提の人物なわけです。別に特撮でもなく、何かの超能力でもなく、本当に格闘すれば相手をねじ伏せる戦闘能力があり、自動車を投げ飛ばせるような怪力の持ち主なので、いってみれば「本物のヒーロー」。画面の中だけのコミック・ヒーローとは勝手が違います。よって、今までは超人的な人物を演じることが多かったのですが、今回は新しい試みとして、ハンデのある身体障害者、かつてある事件に巻き込まれ、左脚を失った人物、という役柄に挑戦しています。
こうなると、さすがにロック様といえども、全力疾走はできないし、派手なキックも決まりません。特に段差を越える、よじ登るといったアクションのたびに、何をするにも制約があります。そういう意味で、ジョンソンが「普通の人」を演じる、いやむしろ「通常以上に制約が多い立場」を演じる、という点が、非常に目新しく感じます。これまでですと、ついつい「彼なら実際に、このぐらいの事はできるだろう」などと、どこか安心して見てしまったわけですが、本作での彼のアクションは、言ってみればパラリンピックの選手を応援しているような、どこかハラハラした感覚になるのが見どころです。
そんな主人公が、決死の難行苦行に立ち向かう理由が、愛する家族を助けるため、というのも巧妙な設定です。家族がビルの中で危険な目に遭っている、という状況でなければ、単なるビジネスマンであるこの主人公は恐らく、無茶な行動をとる必要はなかったでしょう。世界を救うとか、正義を行うのではなく、あくまでもファミリーのために一途に行動する、という要素が熱い共感を呼びます。
それからもう一点、本作の現代的な背景をみると、中国資本がバックにあるレジェンダリー製作の映画らしく、ビルが建つのは香港であり、出演者も中国系の人が多い、という点が挙げられます。これも、いかにも21世紀の映画です。
一方で、映画の終盤には、「燃えよ ドラゴン」や「007 黄金銃を持つ男」で印象的に使われたミラー・ルーム(鏡の間)を想わせるアクションもあり、先行作品へのリスペクトも強く感じさせています。
10年前、アメリカで発生した人質立てこもり事件。海兵隊を除隊後、FBIの特殊部隊指揮官を務めるウィル・ソーヤー(ジョンソン)は、現場に突入。しかし一瞬の隙を突いた犯人は自爆を図り、ウィルも瀕死の重傷を負います。
海軍病院に運び込まれた彼を手術したのは、アフガン戦線帰りの軍医将校、サラ(ネーヴ・キャンベル)でした。ウィルは左脚を失い、FBIを退職することになります。
そして現在。事件が縁でウィルはサラと結婚し、かわいい子供2人に恵まれました。経歴を生かして小さなセキュリティー会社を設立し、ビジネスマンとして活躍しています。
10年前の事件で、一緒に爆発に巻き込まれて負傷し、FBIを辞めたベン(パブロ・シュレイバー)が、香港での大きな仕事を紹介してくれます。中国の大富豪ジァオ・ロン・ジー(チン・ハン)の部下となったベンは、ジャオが7年がかりで建設した1066メートル、240階建ての世界最高層ビル「パール」の保安審査を依頼してきたのです。
ウィルはサラと2人の子供を連れて香港に赴きます。半年かけた書類審査でビルの構造や保安体制を頭に入れたウィルは、最終審査の日、家族を動物園のパンダ見物に送り出した後、ジャオと面会して審査結果を報告します。
その後、ベンと街に出たウィルは、ビルから離れたところにある管理センターを訪れようとしますが、途中で何者かに襲われて、鞄を盗まれてしまいます。ウィルは最終検査のために、全システムにアクセスできるタブレットを渡されていましたが、襲われる前に、鞄から上着のポケットにそれを移しており、盗まれずに済みました。
ところが、その事実を知ったベンの顔色が変わります。ベンのアパートに招かれたウィルは、豹変したベンから突然、暴行を受けます。ベンの狙いはタブレットで、窃盗犯もグルだったのです。
ウィルの左脚を攻撃してくる卑劣なベンの攻撃をなんとかかわし、その場を逃れたウィルでしたが、今度は謎の女テロリスト、シア(ハンナ・クイリヴァン)の攻撃を受け、タブレットを奪われてしまいます。シアの一団は管理センターを襲撃し、ウィルから奪ったタブレットを使い、ビルのシステムを乗っ取ってしまいます。
その間に、潜入していた国際テロリスト、コレス・ボタ(ローランド・ムーラー)がビルに火を放ち、大火災が発生します。シアが防火装置を切ってしまったので、火は瞬く間に燃え広がります。
サラと子供たちは、長男が体調不良を起こして早めに動物園を去り、この時には、ビルの上階にある宿泊室に戻ってしまっていました。家族がビルの中に取り残されたことを知ったウィルは、何とかしてビルの中に入ろうとします。
しかし、そんなウィルの行動を見た香港警察のウー警部(バイロン・マン)は、保安システムを熟知するウィルが、テロリストの一味であると疑い、部下に彼を逮捕するように命じます。
こうして、警察に追われ、テロリストとも戦いながら、燃え上がるビルの中に突入していくウィルは、愛する家族を守り抜くことができるでしょうか。そして、テロリストたちの狙いは何なのでしょうか…。
サラ役のネーヴ・キャンベルは、ホラー作品「スクリーム」シリーズのヒロインとして有名ですが、今回は子供を守って戦うお母さん、という役どころがカッコいいです。彼女を、元は戦地帰りのバリバリの海軍将校という設定にしたのが巧妙ですね。武闘派であるのは当たり前ですので、サバイバル・シーンでも、武器をとっても、格闘シーンでも、そういう人物像なら、全く違和感がありません。
ウィルが、外部の人間なのにビルの構造やシステムを、何もかも熟知している、という設定もうまいです。保安審査の担当者、というのは秀逸な状況を考えたものです。
今回のもう一人の主人公といえるのが、高さ1キロを超える240階建ての架空の摩天楼「パール」です。これが魅力的に描けないと、映画としても台無しになりかねませんが、技術監修に世界的に著名な設計家エイドリアン・スミスを据えて、実際にビルを建てるように設計してもらったそうです。同氏はドバイにある実在の世界最高のビル「ブルジュ・ハリファ」(828メートル、206階建て)の設計者ですが、なるほど、この人のおかげで、ビルの実在感、リアリティーは素晴らしいものがあり、本当にこんなビルがあるような感覚を覚えます。ちなみに「東京スカイツリー」は634メートル、地上160階で、今現在はブルジュ・ハリファに次ぐ高さがあります。
最後まで、一瞬の無駄も緩みもない構成は堅実で、この種の作品のお手本と言っていいかもしれません。このあたりは、やはり21世紀の映画です。
中盤からは濃密なアクション満載となりますが、私のように高いところが苦手な人間からすると、映画だと分かっていても足がすくむようなシーンが続出で、思わず手に汗を握ります。充実の一作です。
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