« 2018年3月 | トップページ | 2018年5月 »

2018年4月21日 (土)

【映画評 感想】パシフィック・リム:アップライジング

Photo


  「パシフィック・リム
: アップライジング」Pacific Rim: Uprisingを見ました。大ヒットした2013年の「パシフィック・リム」の続編です。前作は、なんといっても日本の怪獣映画の大ファンであるギレルモ・デル・トロ監督の作家性、こだわりが強烈な主張をしている映画でした。当然、2作目も同監督がやる予定だったのですが、そこに影響を与えたのが製作会社レジェンダリーの中国映画配給大手による買収話です。この動きのために、待機作品の順番が入れ替わるなどして、製作が遅れることになり、デル・トロ氏は本作の監督を断念。製作、アドバイザーとして関与することになりました。代わって取りかかったのが、アカデミー賞13部門ノミネート、監督賞など4冠の「シェイプ・オブ・ウォーター」だったわけです。また、前作で主人公だったチャーリー・ハナムも同様の理由により、「キング・アーサー」の主演を優先することになり、このシリーズからは姿を消すことになってしまいました。

 そういう経緯もあって、一時は本作の製作が危ぶまれる向きもあったようです。しかし出来上がってみますと、何しろ最後の決戦の地は日本、それも東京です。さらに怪獣が目指しているのは富士山、というわけで、昔の日本の怪獣映画に対するオマージュの詰まった作品となりました。本当はそこに、法的枠組みの中で懸命に「事態に対処」しようとする自衛隊、といった「シン・ゴジラ」にまで連なる描写があれば、いかにも日本らしくて言うことなしですが、本作の世界観では通常の政府や軍隊・自衛隊・警察などの組織は影が薄く、専門のカイジュウ向け軍隊があるので、ここはむしろ科学特捜隊やウルトラ警備隊が活躍するウルトラマン・シリーズに似ているともいえます。

しかしまあ、東京での戦闘シーンで「住民は皆、退避した。戦闘可能!」というセリフがありまして、1200万人を超える世界最大都市、東京の住民が瞬く間に「退避」できるのか、と(笑)。「東京ナメんな!」と思うところですが、おそらく、日本の警察とか自衛隊の苦闘が、その一つのセリフで表されているのかも、と想像いたしました。

 あるシーンでは、お台場ではないようですが、都心にガンダム像が立っている描写があります。このためにちゃんとガンダムの製作会社サンライズの許諾も得ているそうで、日本人から見ても興味深い一作になりました。

 前作を支えたもう一人の主人公、イドリス・エルバはストーリー上、戦死してしまったので出られません。しかし結構、回想シーンや写真などで登場しています。その息子という設定でジョン・ボイエガが出ていて、本作の主役を務めています。「スター・ウォーズ」新シリーズで帝国からの脱走兵を演じている彼ですね。また、一作目のヒロイン、菊地凛子さんと、前作で活躍したドイツ系学者コンビの役で、チャーリー・デイとバーン・ゴーマンが再演しているのも嬉しいです。この2人、後半では真の主役というほど活躍します。実は今回のアップライジング(反乱、暴動)というタイトルは、彼らの行動にかかわっているのです。クリント・イーストウッドの子息スコット・イーストウッドと、日本の千葉真一さんの子息の新田真剣佑(あらた・まっけんゆう)さんが出ているのも注目点です。

 前作はどんな話だったかというと、2013年に突如、太平洋に姿を現した謎の巨大生物カイジュウに対処するために、各国が協力して環太平洋防衛軍PPDCを結成。人類とカイジュウの10年以上にわたる死闘が展開されました。カイジュウと戦うためにドイツで開発されたのが、適性のある2人のパイロットの精神がそろわないと制御できない巨大ロボット兵器イェーガー。最後は2025年、スタッカー・ペントコスト司令官(エルバ)らが犠牲となって、カイジュウが異世界から現れる海底の「裂け目」に至る通路を確保。そこにローリー(ハナム)と森マコ(菊地)が乗り込む旧式イェーガー「ジプシー・デンジャー」が突入し、機体を自爆させて裂け目を封鎖、2人も生還した、というものでした。

 その後、作中では明確に言及されていませんが、どうもローリーはこの時の戦闘の後遺症で病に侵され、マコを残して亡くなった、という設定のようです。

 

 それから10年がたった2035年。カイジュウが現れなくなり、人類は復興の道をたどっています。しかし、カイジュウはいつか再来するかも、という危機感は薄れておらず、PPDCも、前の戦争時にあった解散や縮小といった議論は起こらず、戦力の維持に努めています。そんな中、英雄スタッカー・ペントコストの息子、ジェイク・ペントコスト(ボイエガ)は、かつては父の背中を追ってイェーガー・パイロットになりましたが、命令違反により軍籍を剥奪され、以後は英雄の息子という名前を隠すように荒んだ生活をしています。ある日、軍の廃棄場からイェーガーの部品を盗み出そうと潜入したジェイクは、やはり部品泥棒で、独力で小型のイェーガーを組み立てたという才気溢れる少女アマーラ(ケイリー・スピーニー)と出会います。

 アマーラと共にPPDCに逮捕されたジェイクは、今や同軍の最高位、事務総長となっているマコ(菊地)から、これまでの犯罪を免除する引き換えとして、軍に復帰し、パイロット候補生の指導教官になるよう要請されます。マコは父スタッカーの養女として育てられたので、ジェイクから見て義理の姉でもありました。同時にアマーラも才能を見込まれて入隊することになり、2人はパイロット候補生の養成課程が所在する中国・モユラン基地に移されます。

 ここでジェイクを待っていたのが、候補生時代の同期ネーサン(イーストウッド)です。模範的な軍人に成長しているネーサンは、問題を起こして軍を除隊したジェイクにあからさまな嫌悪感を抱き、一触即発の図式に。一方、孤独に育ってきたアマーラも、同世代の少年少女ばかりの生徒隊の中では浮いた存在で、なかなかうまく溶け込めない様子です。

 しかしネーサンによると、意外なことに間もなくイェーガー部隊は全員、解雇されるかもしれない、といいます。というのも、中国の軍需企業シャオ産業を率いるシャオ・リーウェン社長(ジン・ティエン)が遠隔操作できる無人イェーガーの大量配備計画をPPDCに売り込んでおり、これが評議会で承認されれば、有人イェーガー部隊は必要なくなる、というわけです。しかし最高責任者であるマコは、無人イェーガーがハッキングなどで乗っ取られる可能性などを危惧して、計画の受け入れに乗り気ではない様子です。

 この件について各国代表が話し合うため、オーストラリア・シドニーでPPDC評議会が開催されます。軍の主力イェーガー「ジプシー・アベンジャー」に搭乗して会場警備することになったジェイクとネーサン。そこに突然、所属不明で誰が乗っているかも分からない謎のイェーガー「オブシディアン・フューリー」が現れ、会場を襲撃します。マコは敵を見て、それがどこで作られたものか、素性をすぐに見抜きましたが、完全な情報を伝える暇もなく、乗っていたヘリが墜落します。

 マコの情報を解析した結果、シベリアの奥地にある軍の廃工場を示していることが判明します。モユラン基地司令官チュアン将軍(マックス・チャン)の命令を受けて出撃したジェイクとネーサンは、案の定、そこに姿を現したフューリーを倒しますが、コクピットに人の姿はなく、なんとカイジュウの脳が操縦していたことが判明します。一体、誰がこんなものを作ったのか?

 そのころ、シドニーの事件を受けて、シャオ産業の無人イェーガー計画が承認され、緊急に世界中に配備されます。指揮を執っているのは、前の戦争時にカイジュウの脳とリンクし、世界を救う契機を作った科学者ニュートン(デイ)です。彼は軍を辞めて、今ではシャオ産業の技術部長となっていますが、シドニーの悲劇的な事件もビジネスチャンスと放言するシャオ社長の態度は傲慢なもの。ニュートンは、かつて共に戦った旧友の科学者ハーマン(ゴーマン)に、実は社長には無断で無人機を操作出来る仕掛けを施してある、と秘密を暴露します…。

 

 ということで、結構、込み入った話を2時間のハイスピードで驀進する感じで、割と古典的な作風だった前作とはテンポが違います。巨大ロボット「イェーガー」も、前はズシン、ズシンと鈍重に歩くマジンガーZを思わせるものでした。今回は洗練されて身軽になり、どちらかといえばエヴァンゲリオンかトランスフォーマーのような印象に。このへんはしかし、10年間の技術進歩の結果、といわれれば納得は出来るかもしれません。

 どうしても戦闘シーンがメインになるので、人間模様とか、背景とかのドラマ面は前作より雑に感じる部分もあります。もうひとひねり欲しかったな、という感じもありますね。

 日本人的に見ますと、最後にカイジュウ軍団とイェーガー部隊が戦う決戦の地、東京の描写が…これ、本当に東京? 中国語みたいな看板も多いようですが? まあ2035年ということで、相当に変わっているのかもしれません。遠景に東京タワーやスカイツリーもあって、東京を描こうとしているのは分かります。ただもうちょっと、現実の東京に似た街並みにしても良かったような気はいたします。

 それに、東京に限らず、どこの都市であってもですが、身長80メートル、重量2000トンもある巨大ロボットやカイジュウが歩き回ることは、本当に出来るのだろうか? 地盤がどんどん沈んで、泥田か雪の中を歩くように、すぐに足が抜けなくなり、身動き出来なくなるのでは、とも思います。

 それに、日本人として最も気になるのは、東京の市街地のすぐ背後に富士山がそびえているところですね。こんなに近くないよ! ほとんど山梨県あたりの街のように描かれているのがなんとも奇妙です。カイジュウは巨大だから足も速いのかもしれませんが、それにしても東京から富士山の山頂まで行くには、もっと時間がかかるようにも思います。

 とまあ、真面目に考えてしまうと、突っ込みどころは多々ある感じの作品なのですが、娯楽作品としての出来栄えは素晴らしいものがあります。謎が謎を呼ぶ序盤から、意外な急展開、そして後半の怒濤のクライマックスへ、という流れは、こういう映画のお手本のようです。強敵を前にして、決死の突撃を覚悟する少年少女ばかりの候補生部隊の姿には、胸が熱くなります。いかにも日本のこの手の映画や漫画などの作品にありそうな展開ですが、やはりいいですよ、このへんは。大画面でぜひ!

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2018年4月18日 (水)

ETRO銀座にローマ店からジャコモ店長が来日。

Da2g1irv4aayj04


 先日、ETROのローマ店から、ジャコモ・カピュアーノGiacomo Capuano店長が一
年ぶりに来日しました。ジャコモ氏の見立てで、辻元玲子はこの赤い服を買いました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月10日 (火)

今年も我が家の甲冑を出しました。

  Daw4pwavqaagbhj


  5
月が近いので、我が家の甲冑を出してみました。胴丸タイプで、実際に着ることができます。Daw3o3vaaeogys


Daw4nlhu8auf8xg

Daw4byju8aau2fo

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月 8日 (日)

【映画評 感想】レッド・スパロー

Photo


  映画「レッド・スパロー」
Red Sparrowを見ました。あの「ハンガー・ゲーム」のコンビ、フランシス・ローレンス監督とジェニファー・ローレンス主演のスパイ映画です。27歳にして4度もアカデミー賞にノミネートされ、すでにオスカー女優となっているジェニファーですが、何をやっても見事にこなしてくれる演技力は確かにすごいものです。

予告編を見て、てっきり近頃よくある「冷戦時代のソ連KGBのスパイ」の話と思いこんでいましたが、本作は、現代のロシアのスパイを取り上げているのです。しかしこの映画の描き方だと、今のプーチン体制のロシアは、かつてのソ連と全く体質の変わらない全体主義国家、という感じになっています。このへんはどうなのだろう、と思う反面、まさに今年の3月あたりから、英南部ソールズベリで起きた元ロシア・スパイの暗殺未遂事件を巡って、英国をはじめ米仏独などの西側諸国と、ロシアが外交官の追放合戦を繰り広げております。元スパイを暗殺するために、化学兵器の神経毒まで用いたのではないか、と言われており、「やはりロシアになっても体質はソ連のままなのね」と世界中に思われたのは間違いありません。

それでなくとも、ソチ冬季五輪の閉幕後、強引なクリミア併合や、アメリカ大統領選挙、英国のEU独立投票などへの干渉、国内の反政府運動への容赦ない弾圧など、ロシアのえげつない手法が徐々に明らかになって、やっぱり元KGB将校であるプーチン大統領が率いる国、相変わらずの全体主義国家なのだろう、というイメージが強まっているのは間違いないところです。ローレンス監督も「初めは現代のテーマとして観客に共感されるだろうか、と思ったが、最近のロシア情勢の変化でリアリティーが増した」ということをパンフレットで述べております。「こんなのはあくまで映画であって、実際はこんなわけないだろう」と笑い飛ばせないところが、大いに問題なのかもしれません。

 

 モスクワのボリショイ・バレエ団の新進スターであるドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)。母親のニーナ(ジョエリー・リチャードソン)は病身のため身体が不自由ですが、ドミニカがスターになったため、その治療費や介護費もバレエ団が持ってくれています。

 しかしある日の公演で、パートナーのコンスタンチン(セルゲイ・ポルーニン)が大きくジャンプした後、間違って着地し、ドミニカの脚を折ってしまいます。大手術となり、当然ながら主演を降板。さらにこのままいけば、引退に追い込まれ、バレエ団も解雇されて、病気の母親を抱えたまま路頭に迷うことになってしまいます。

窮地に立ったドミニカに、今まで疎遠にしていた亡き父の弟ワーニャ・エゴロフ(マティアス・スーナールツ)が声をかけてきます。彼はロシア情報庁(旧ソ連の情報部KGBの後身組織)の副長官にまで出世していました。叔父エゴロフは、政権にとって邪魔になっている有力政治家ウスチノフ(キルストフ・コンラッド)が、元々、ドミニカの大ファンであることを利用し、これに色仕掛けで近寄るようドミニカに命じます。その引き換えに母親の面倒は国家が保証する、と約束するので、ドミニカは断れなくなります。

 叔父の指示通りにウスチノフに接触したドミニカは、ホテルで強引にレイプされかけますが、寝室から護衛を退室させ油断したウスチノフは、その場で暗殺されてしまいます。叔父の強引なやり口にドミニカは怒り、口封じのために殺されることを覚悟します。実際、情報庁のザハロフ長官(キーラン・ハインズ)はドミニカを処分するよう命じますが、エゴロフは姪に優れたスパイの才能があることを見抜き、諜報部門の責任者コルチノイ大将(ジェレミー・アイアンズ)に、ドミニカをスパイとして養成するよう推薦します。

 こうしてドミニカは、秘密のスパイ養成所に送り込まれますが、そこは厳格で冷徹な女性監視官(シャーロット・ランプリング)の指導の下、相手の心理を手玉に取り、あらゆる手段を講じてハニートラップを仕掛けるスパイ「スパロー(雀)」の養成学校でした。

 厳しい訓練に耐えたドミニカを、エゴロフは呼び戻します。彼が与えた任務は、アメリカに情報を流しているロシア高官の内通者を探り出すことでした。彼女はブダペストに飛び、ロシア側の内通者と接触しようとしているCIA諜報員ナッシュ(ジョエル・エドガートン)に接近します。さて、CIAに内通しているロシア側の人物とは誰なのでしょうか…。

 

 といった展開ですが、「現代のロシア」と言われても、どうしても「冷戦時代のソ連」に見えてしまう陰湿な雰囲気、独特の重い空気感が見事です(ロシアの人が見たらどう思うのでしょうか)。そして、出ている主要キャストにほとんどロシア系の人はいないにもかかわらず、使っている言語も英語であるにもかかわらず(とはいえ、かなりロシアなまりの英語にしているようですが)見事にロシアに見えます。

あのジェニファー・ローレンスがロシア人のスパイ役? と初めに聞いたときは若干の違和感を覚えたわけですが、実際に見ると、陰のある本物のロシア人に見えてしまいます。冒頭ではボリショイ・バレエ団の花形スターという役なので、かなり長い時間、実際にバレエを演じて見せていますが、これもレッスンが大変だったそうです。また、スパイ養成所や、実際のスパイ活動のシーンとなると、役柄から何度も全裸になる必要がありました。こういう作品は初めてだったそうで、気迫の体当たり演技です。Photo_2


ここでちょっと私らしく、「軍装史研究家」らしいことを書きますと、本作ではプーチン政権下で導入されたロシア軍のM2008制服が多数、登場します。コルチノイ将軍が着ている緑色のジャンパー形式の略装や、最後にドミニカが受勲するシーンで軍人たちが着ている青緑色のM2008パレード装などは大いに目を引きました。この場面で、ドミニカは少尉の肩章を付けており、正規の将校として任官したようですね。さらに、左の胸に小さな金色の星型の勲章を付けていますが、これは旧ソ連の「ソ連邦英雄」制度を引き継ぐ「ロシア連邦英雄」という称号を示すものです。一見するとごく小さな勲章ですが、実はロシアにおいて最高位の栄典です。これを受勲すると、年金が高額保証され、医療費や家賃、光熱費、鉄道などの交通機関は無料、スポーツ観戦や観劇なども特別優遇されるなど、破格の待遇を受けます。その受勲式の直後のシーンでドミニカは、古巣であるボリショイ劇場の貴賓席に座っていますが、これも英雄としての待遇を示しているのだろうと思います。きっと彼女の栄典で、病気のお母さんも安泰となったことでしょう。

バレエのシーンでドミニカのパートナーを演じているのは、世界的なバレエ・ダンサーのセルゲイ・ポルーニン。この人は「オリエント急行殺人事件」にも出ていましたが、これから映画界にも本格的に進出してきそうです。

 恐ろしい女性将校の役にシャーロット・ランプリングというのも適役ですね。「愛の嵐」でナチス収容所の女性役で有名になったこの人には、確かに制服とか、収容所といったイメージがつきまといます。ことさら恐ろしげにしないでも、任務とあれば顔色一つ変えないでどんな残酷な行為でもしてみせそうで、そこが怖いですね。

 叔父エゴロフ役のスーナールツという人が、どうも若い頃のプーチン氏に似ている感じがしてなりません。実際、そういうイメージなのでしょうか。微笑んでいても目が笑っていない、裏と表だらけの、全く信用できない人物、という雰囲気が漂っています。

 エゴロフの上司ザハロフについて、字幕で「ザハロフ参謀」とありましたが、あれは誤訳ではないでしょうか? Chief Zakharovと原語では言っていましたが、これは英語でChief of staffが「参謀長」なので、そこから類推して「参謀」としたのかもしれません。しかし、Chief of staffChief(チーフ)は「長官」、staff(スタッフ)が「参謀」の意味ですから、チーフだけなら参謀という意味はどこにもなく、組織の長という意味合いしかありません。よってここは「ザハロフ長官」とするべきだと思われます。

 この話、ドミニカがスパイ学校に強制的に入れられるまでの展開もいろいろ刺激的なのですが、彼女がスパイとなってブダペストに乗り込んでからは二転三転して、最後はあっと驚く結末に到達します。実にスリリングです。相手をはめてやろう、というスパイばかりが登場してきますので、主人公を始め、誰が本当のことを言っているのかさっぱり信じられない感じになってきます。

 007のような活劇と違い、派手なカーチェイスや撃ち合いはなく、中心になるのは人目に付かない心理戦とハニートラップと、拷問、暗殺です。原作者ジェイソン・マシューズはCIAに長年、勤務した人で、原作小説『レッド・スパロー』はアメリカ探偵作家クラブが主宰する権威ある文学賞、エドガー賞の「2013年長編小説新人賞」を受けています。

話の雰囲気が現代よりも少し前の時代のように感じるのは、おそらく原作者の現役時代を反映しているからで、今現在の諜報員はもっとIT系、デジタル系の任務が多いのでは、という気がしますが、それにしても、スパイという仕事の日常を描くディテールの生々しさが印象に残る一作でした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月 7日 (土)

【映画評 感想】ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

Photo


  映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」
Darkest Hourを見ました。アカデミー賞で6部門ノミネートされ、主演のゲイリー・オールドマンが主演男優賞、そして特殊メイクを担当した日本の辻一弘さんがメイクアップ&ヘアスタイリング賞に輝いたことで、一躍、日本でも注目作品となりました。オールドマンは全くチャーチル首相に似ていないので、辻さんがいなければ決して出来なかった映画、ということですね。

重厚な大河戦争ドラマかと思う方もいるかもしれませんが、これは第2次大戦初期の1か月ほどの出来事を描いており、その間の英国首相チャーチルを中心とした人間ドラマを軸としています。脚本が「博士と彼女のセオリー」のアンソニー・マクカーテンということで、非常に感動的な物語に仕上がっているのが見事。映画館では泣いている人もかなりいらっしゃいました。終盤の盛り上げ方は素晴らしいです。

チャーチル首相と言えば「理想の政治家」といったアンケートで必ず首位を争う人物で、世界史に残る大政治家です。しかしその名声の高さゆえに、従来、チャーチルとは要するに「英国の強いリーダー」という印象しかなかったのではないでしょうか。

しかし、初めから完成された強い指導者、などいないわけで、本作はむしろチャーチルがいかに指導者として成長していったか、を描いています。194059日にチェンバレン首相が辞任してチャーチルが後継に指名され、64日に有名な「決して降伏しないNever surrender!」演説をして、挙国一致でナチス・ドイツと対決する体制を固めるまでの1か月間。しかしこれが簡単なことではなくて、この間にフランスは敗北し、ダンケルク海岸で30万人に近い英国陸軍は全滅寸前。ナチス軍の勢いに押され、浮き足だった英国内では講和を唱える声も強かったわけであります。ここで国民が団結したのは、チャーチルという指導者が現れたから、なのですが、そんな彼にしても、後になってこの時期を「最も暗い日々」Darkest Hourとして回顧したほどでした。

いわば、この1か月が、本当に歴史が変わる可能性があった時期でした(ヒトラーから見れば、この1か月こそ唯一の勝利のチャンスだったといえます)。事実、後になってヒトラーの側近、ゲッベルスは「チャーチルさえいなければ、英国はとっくに降伏して、第2次大戦は終わっていたのに」と言ったそうです。ここでまず英国を倒し、それから日本と協力してソ連を攻める。その間、アメリカが参戦しなければ放置し、必要なら最後に孤立したアメリカを日本軍と挟み撃ちする、といった手順で行けば、ヒトラーの野望は決して絵空事だったわけではありません。その意味で、邦題はちょっと作品の内容と合っていないのでは、という評もあるようですが、歴史的に正しいものともいえるでしょう。

前に、ヒトラーの第三帝国の崩壊と死を描く「ヒトラー最期の十二日間」という映画がありましたが、それに応じてみると、本作は「チャーチル最初の二十七日間」ということになります。そして前者では、ヒトラーの元にやってきた新人秘書ユンゲは、ヒトラーが親切で穏やかな紳士であることに驚くわけですが、やがて総統の狂気と冷酷さという本質に触れていき、彼が自らの帝国を投げ出すところを目撃します。一方の本作では、チャーチルの元にやって来た新人秘書のレイトンが、チャーチルの怒声に脅えて泣き出すところから始まります。しかし、イヤな親父だったチャーチルは、徐々に人々の尊敬を勝ち得て国王からも信任され、ついに英国宰相として人々の民心をつかんでいきます。こう見ると、非常に好対照な2作品であるように思えてきます。

 

 1940年5月、ナチス・ドイツ軍は電撃的に西方作戦を展開し、ベルギーは降伏。フランスも風前の灯火という状況に陥りました。長年にわたって、ドイツ総統ヒトラーに対し宥和政策をとり、その侵略行為を黙認してきた英保守党のチェンバレン首相(ロナルド・ピックアップ)は弱腰外交と批判され、求心力を失いました。

 挙国一致の戦時内閣を組閣することに賛成した労働党のアトリー党首(デヴィッド・ショフィールド)は、条件としてチェンバレンの退陣と、それに代わる「強力なリーダー」の擁立を要求。閣内では現役の外相であり、国王ジョージ6世(ベン・メンデルスゾーン)の友人でもあるハリファックス卿(スティーヴン・ディレイン)を首相に待望する声が高まりますが、彼は慣例的に組閣できない貴族院議員であり、就任を辞退します。

 国民と野党から人気が高かったのは、一貫して反ヒトラーを唱えてきた海軍大臣ウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)ですが、彼は第1次大戦時にも海相としてガリポリ作戦を立案し敗北。その後、蔵相として金本位制に失敗し、第2次大戦では北海での作戦行動で海軍部隊の多くを喪失しており、おまけに大酒飲みの浪費家で、与党の保守党内では全く信任されていませんでした。国王も、兄で先代のエドワード8世(後のウィンザー公爵)がアメリカ人女性シンプソン夫人と結婚して退位する際、チャーチルがその結婚を後押ししたとして、嫌悪感をチャーチルに抱いている始末でした。

 こうして四面楚歌の中、組閣を命じられるチャーチルの元に、新人の女性タイピスト、エリザベス・レイトン(リリー・ジェームズ)がやって来ますが、発音が聞き取りにくく、気難しいチャーチルに脅えて泣き出してしまいます。それを優しくなだめたクレメンティーン・チャーチル夫人(クリスティン・スコット・トーマス)は、「嫌われ者でなく、誰からも愛される首相になってほしい」と夫を諫めつつ励まします。

 英国首相となったものの、与党の支持をつなぎ留めるには、閣内に政敵の前首相チェンバレンや、ハリファックス卿を入れないわけにはいかず、ドイツとの早期講和を望む声が絶えません。味方と言えば側近の陸軍大臣イーデン(サミュエル・ウェスト)だけでした。

 ここでチャーチルと英国にとって最大の危機が訪れます。フランス軍が壊滅し、大陸に派遣した30万人近い英国陸軍の主力がダンケルク海岸に取り残され、帰国出来なくなってしまったのです。これを救出するために、アメリカのルーズベルト大統領(声:デヴィッド・ストラザーン)に駆逐艦の譲渡を要望しますが、米国内の反対の声が強く却下されます。首相付き軍事顧問のイスメイ大将(リチャード・ラムスデン)はフランス作戦の敗北を宣言し、戦闘機総監のダウディング空軍大将(アドリアン・ラウリンズ)は航空部隊の本国撤収を強く要求します。ハリファックス卿の元にはイタリア首相ムッソリーニから和平調停の提案があり、一挙に流れはドイツとの講和に傾きます。

ある深夜、名案が閃いたチャーチルは、旧知のドーバー海峡管区司令官ラムゼー海軍中将(デヴィッド・バンバー)に電話を掛けます。それは、第2次大戦初期の転換点となったダンケルク撤退作戦「ダイナモ」を指示するものでしたが、これが上手くいくかどうかは全くの未知数で、危険な博打のようなものでした。

高まる講和論の中で半ば絶望し、疲弊しきったチャーチル。彼の私室に深夜、一人の来客が訪れます。それは全く思いがけない人物でした…。

 

 それにしてもゲイリー・オールドマンのチャーチルがぎょっとするほど感じが出ています。目が本物より優しい感じですが。ストライプのスーツは、実際にチャーチルが愛したロンドンのテーラー、ヘンリー・プールで仕立てたそうです。そして、チャーチル独特の声、癖が強いしゃべりを完全にものにしています。物まねというのではなく、史実にないようなシーンあるいは想像したシーンでも、本人ならきっと、こういう時はこうしゃべるだろう、という意味での演技力です。これだけやれば、ゲイリー本人と、メイクの辻さんにオスカーがもたらされたのも当然と思えます。

 その他の実在人物も、かなり本物に似ているのです。チェンバレンやイーデン、アトリーなども非常に似ています。あまりルックスを似せることに熱心でない史劇も多いのですが、本作は明らかに一見して再現している、という要素を追求しています。この辺は、「アンナ・カレーニナ」のときも見る者を驚かせた凝りに凝ったカメラワークと共に、当代きっての映像派で、史劇を得意とするジョー・ライト監督のこだわりなのでしょう。

 新人タイピスト役のリリー・ジェームズもいいですね。「シンデレラ」で一躍、大スターの仲間入りをした人ですが、気品のある雰囲気が古風な役柄に実に似合う人です。深刻になりがちな内容の中で、この人のはつらつとした演技が大いに救っています。彼女が演じたエリザベス・レイトンも実在した人物です。

 国王役のベン・メンデルスゾーンは近年、色々な作品で活躍していますが、近作で言えばスター・ウォーズ・シリーズの「ローグ・ワン」で演じた、帝国軍技術将校の役でしょう。今回は「英国王のスピーチ」の主人公で、コリン・ファースの当たり役となったジョージ6世ということですが、今作ではすでに例の吃音を乗り越えた後なのでしょう、堂々たる君主として、そして初めはウィンザー公の一件もあって毛嫌いしていたチャーチルを強く支持する指導者として、いい味を出しています。この国難の時期に、チャーチルと並び、もし国王がジョージ6世でなく、ウィンザー公ことエドワード8世のままであったら、やはり歴史はどうなっていたか分かりません。エドワード8世は親ナチス的な言動を公然としていた国王で、もしナチスが英国を支配下に置いたら、ヒトラーはウィンザー公を国王に復位させただろう、と言われています。

 それにしても、昨年はクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」という映画もヒットしたわけですが、あの作品で登場した凄惨な戦闘をしている時に、司令部や議会では、本作で描かれたようなやり取りがあり、指導者たちも四苦八苦していた、ということが分かると一層、興味が深まります。英国において、この緒戦の苦しかったダンケルク戦の時期が再び注目されているのはなぜなのでしょうか。EU離脱が決まり、国際的孤立と、国内世論の分断が深まっていく英国で、何かこの時期と、それを指導したチャーチルからヒントを得たいという願いが出てきているのかも知れません。確かにチャーチルは、大局を見通す信念の人で、長いものに巻かれない人、安易な人気取りに迎合しない人です。そのために、戦争の末期には選挙に敗れ、政権を労働党のアトリーに譲ることになります。

 チャーチルは独裁者から民主主義を守り抜こうとして戦い、そして民主主義によって政権を追われたわけです。まことに色々と考えさせられる一本でした。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2018年3月 | トップページ | 2018年5月 »