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2017年12月16日 (土)

【映画評 感想】オリエント急行殺人事件

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「オリエント急行殺人事件」
Murder on the Orient Expressを見ました。「シンデレラ」「マイティ・ソー」など大ヒット作の監督として、また「ダンケルク」などでの演技派俳優としても知られるケネス・ブラナー。彼が、ギネスブックから「史上最高のベストセラー作家(なんと10億冊以上!)」として認定されているミステリーの女王、アガサ・クリスティの小説に挑んでメガホンを執った一作です。

製作にリドリー・スコットが名を連ね、脚本のマイケル・グリーンは、「LOGAN/ローガン」「エイリアン: コヴェナント」「ブレードランナー 2049 」と今年、話題になった大作に軒並み関わっている売れっ子です。

さて、「オリエント急行殺人事件」というタイトルを聞くと、あの名探偵エルキュール・ポアロが登場するアガサ・クリスティの有名な小説であるというだけでなく、今、40歳代以上の方なら、1974年に大ヒットした同名の映画を思い出すことでしょう。この映画化では、アルバート・フィニーがポアロを演じ、アカデミー賞6部門ノミネート、宣教師役のイングリッド・バーグマンがアカデミー助演女優賞を獲得しました。

その他に、ご存じデビッド・スーシェが演じたテレビ・シリーズ「名探偵ポワロ」の中の一作にも、同じ原作のドラマがありました。

ミステリーですから、結末を言ってしまえばネタばらしそのものです。だからそれについては何も申しませんが、アガサ・クリスティが原作を発表したのは80年以上も前の1934年のこと。当時としては非常に大胆な結末に読者が驚いた一作でした。また、あの大西洋横断を初めて成功させたチャールズ・リンドバーグの子供が誘拐された1932年の事件(つまりわずか2年前に起きた、記憶に生々しい事件)を、小説中に取り込んだことでも話題となりました。

小説発表から40年を記念して制作された著名な先行映画もあることから、この作品の犯人は誰か、といったことはかなり知れ渡っております。そういう中での再映画化、というのはかなり勇気が要ると思うのですが、やはりこの、シャーロック・ホームズと並ぶ世界的に有名な探偵の新しい像を示してみたい、という欲求が強かったのでしょう。エルキュール・ポアロ(ポワロ)というと、おしゃれで小太りで、初老の紳士。頭脳派だけれど自分でアクションすることはまずない、というイメージでした。しかしケネス・ブラナー自らが演じるポアロは、本人もステッキを扱えば達人クラスの武闘派、という描き方で、これが新鮮です。事実、戦前期までの紳士がステッキを手放さなかったのは、単なるおしゃれアイテムではなく、19世紀半ばに、日常的に剣を帯びる習慣が廃れた後、代わりとなるステッキを護身用に持って歩く、という意味合いが強かったといいます。だから、もともと警察官出身のポアロが、護身として杖術が出来るというのも、不自然ではありません。

また、ポアロと言えばヒゲですが、原作では「立派なヒゲ」で、時として相手から滑稽と思われた、というような描写があります。クリスティは相当に大げさなヒゲをイメージしていたらしく、1974年版の映画制作時、存命だった彼女は、ポアロ役アルバート・フィニーのヒゲを見て、がっかりした、という逸話があるようです。そんなこともあり、今作でのケネス・ブラナーのポアロは、顔の下半分を埋めるような巨大な口ヒゲを生やしています。ブラナーは、原作者の表現を重視したため、と言い、「犯人はこのヒゲを見てポアロを滑稽な人物と思い、油断してボロを出す。それがポアロのやり方」と説明しています。つまり、コロンボ警部のよれよれのコートと同じような効果がある、というのですね。

 今回の映画化では、登場人物の設定や名前が、原作や1974年版から、かなり変わっており、その大きな意図は、人種問題を色濃くフィーチャーしている、という点にあるようです。黒人やラテン系の登場人物も加わって、そういう視点が現代的なテーマとして浮上してきます。

 加えて、お話の冒頭でいきなり、聖地エルサレムにおけるキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の争いごとが出てくるなど、まさにタイムリーな話題を持ってくるあたり、決して古色蒼然とした懐古趣味の映画ではないよ、という主張が垣間見えてきます。

 映像的にも凝りに凝っていて、さりげないワンシーンが冴えています。たとえば殺人現場を映すのに、上にカメラを置いて鳥瞰図にして撮る、といった工夫があちこちに見られて、派手な特殊効果はなくとも、見せ方で21世紀の映画であることを訴えている感じです。

 

 では、ネタバレしない程度にお話の冒頭をご紹介しますと…。

 

時は1934年の冬。聖地エルサレムで、教会から盗難された聖遺物を見つけ出し、見事に犯人を逮捕して解決に導いた世界的名探偵エルキュール・ポアロ(ブラナー)。その後はしばらく、事件捜査から離れて、イスタンブールで休暇を満喫するつもりでした。

しかし、英国領事館の役人がやって来て、また難事件が発生、という一報をもたらします。すぐにロンドンに戻らなければならなくなったポアロは、イスタンブール発でフランス・カレーに向かうオリエント急行に乗ろうとしますが、バカンスのシーズンでもないのに、なぜか1等客室は満室でした。そこで、オリエント急行を運営する国際寝台車会社の重役である旧友ブーク(トム・ベイトマン)のコネを利用して、無理やり、その日に発車するオリエント急行に飛び乗ります。

ポアロは車内で、アメリカ人の富豪ラチェット(ジョニー・デップ)から声を掛けられます。ラチェットは何者かから脅迫を受けており、殺されるかもしれない、と脅えています。それで、著名な探偵のポアロに警護を引き受けてほしい、と依頼します。しかし、ラチェットの人相に凶悪なものを感じたポアロは、これを断ります。

その夜、突然の雪崩発生で、オリエント急行はバルカン半島の山中で運行を停止。除雪作業がすむまで車内の人々は動けなくなってしまいます。

そんな中、朝になってラチェットの他殺体が発見されます。身体を12か所も刺されて死亡しており、ポアロはブークの依頼を受けて捜査を開始します。

犯人は1等客室の乗客の中にいると思われましたが、全員にしっかりしたアリバイがあることが分かり、ポアロは困惑します。しかし、調べてみると死んだラチェットという人物の正体はとんでもないものでした。さらに、車内の乗客は一癖ある人物ばかりで、各人が何か隠し事をしているようであり、不自然なものをポアロは感じ始めます。

 ラチェットの秘書で会計担当者だったマックイーン(ジョシュ・ギャッド)、ラチェットの執事マスターマン(デレク・ジャコビ)、生真面目すぎてどこかエキセントリックな女性宣教師エストラバドス(ペネロペ・クルス)、人種差別的な意見を公言するオーストリアの学者ゲアハルト・ハードマン教授(ウィレム・デフォー)、富裕なロシアの亡命貴族ドラゴミロフ公爵夫人(ジュディ・デンチ)と、それに仕えるメイドのドイツ人女性ヒルデガルテ・シュミット(オリヴィア・コールマン)、黒人の医師アーバスノット(レスリー・オドム・ジュニア)、室内で犯人に襲われたと主張する遊び好きの未亡人ハバード夫人(ミシェル・ファイファー)、聡明な家庭教師メアリ・デブナム(デイジー・リドリー)、バレエ界のスターでもあるハンガリー貴族アンドレニ伯爵(セルゲイ・ポルーニン)と、その妻で病弱なエレナ伯爵夫人(ルーシー・ボイントン)、中米出身の成功した自動車セールスマン、マルケス(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)、それから1等車の車掌で南仏出身のピエール・ミシェル(マーワン・ケンザリ)。この中の誰かが犯人なのか、それとも外部から犯人が侵入したのか。

ポアロが導き出したのは驚くべき結論でした…。

 

 なんといっても豪華で優雅な世界観です。オリエント急行の列車を完全に再現したセットは、実際に走行も出来るというのだから驚かされます。衣装も華麗なる1930年代の雰囲気を出しつつ、現代的なスタイリッシュさもあり、見事です。ポアロのシャツの付け襟の下からスタッドボタンが見え隠れし、見事な着こなしですが、しかしオシャレすぎるということもない。今回は戦うポアロ、ですからね。衣装は「エリザベス」シリーズや「オペラ座の怪人」「マイティ・ソー」などで有名なアレクサンドラ・バーンです。

豪華といえば、スターの競演です。大スターの勢ぞろいで、1974年版に負けていない感じですが、やはりその旧作でショーン・コネリーが演じた「アーバスノット大佐」という人物が、今作では1930年代には珍しかったと思われる黒人の医師ドクター・アーバスノットに差し替えられているのが、特に大きな変化でしょう。イングリッド・バーグマンが演じた北欧系の宣教師が、ペネロペ・クルス演じるスペイン系のエストラバドスに、さらにイタリア系だった自動車ディーラーがラテン系のマルケスになって、人種的な部分が前に出ている配役になっております。

ケネス・ブラナーとは盟友といえるジョディ・デンチとデレク・ジャコビの重鎮2人が重厚感を加えております。ジャコビは「シンデレラ」でも病身の国王の役で感動を呼んでくれましたね。その他、ジョニー・デップやミシェル・ファイファー、ウィレム・デフォーなどおなじみの大物俳優、女優は紹介の必要もない面々でしょう。いずれも定評ある演技派で、見せ場で実力を遺憾なく発揮しています。特にデップの悪党ぶりは見事! この人が本当に悪そうでないと、この作品は成り立たないですよね。

 新進・気鋭の出演陣で注目なのが「スター・ウォーズ」新3部作のヒロイン、レイ役で知られるデイジー・リドリーです。同じ12月にスター・ウォーズの新作と、このクラシックなミステリーに出て、相乗効果を狙う作戦なのでしょうか。それは見事に成功しそうです。全く違う世界観の映画で、存在感を示す彼女は、今後も伸びていきそうですね。

レスリー・オドム・ジュニアはトニー賞受賞のミュージカル・スター、セルゲイ・ポルーニンは著名なバレエダンサー、マヌエル・ガルシア=ルルフォは「マグニフィセント・セブン」でメキシコ人のガンマンを演じて注目されました。ジョシュ・ギャッドは「アナと雪の女王」のオラフ役と、「美女と野獣」のルフウ役で一躍、人気者に。それから、車掌役のマーワン・ケンザリは今後、実写版「アラジン」に悪役ジャファーとして出演するという話ですが、どんな映画になるのでしょうか。

 この映画の最終部分は、ポアロが途中で列車を降り、エジプトで起きた殺人事件の捜査に向かうところで終わります。1974年の映画も、その後、「ナイル殺人事件」(1978年。ポアロ役はピーター・ユスチノフ)という次作につながったのですが、今作の後もやはり、「ナイル…」に向かっていくようです。

 本作の配給会社20世紀フォックスが、ディズニーに買収される、という報道が流れました。経営問題に関係なく、次作の「ナイル…」が無事に制作されることを期待します。クラシックな装いながら、やはり21世紀のポアロ、だと思います。アガサ・クリスティの作品が、こうして新たな命を吹き込まれて次代に受け継がれていくのは、とても大事なことだと感じました。

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