« 講演会(21日、東京家政大)の風景です。 | トップページ | 【映画評 感想】猿の惑星:聖戦記 »

2017年10月28日 (土)

【映画評 感想】アトミック・ブロンド

20171027005307


シャーリーズ・セロンが東西冷戦時代の秘密諜報員を演じた映画「アトミック・ブロンド」
Atomic Blondeを見ました。監督は「ジョン・ウィック」のデヴィッド・リーチ。原作として、 アンソニー・ジョンストンとサム・ハートによるコミック『The Coldest City』があるそうです。

 「マッドマックス」最新作で頭を剃り上げて不屈の女戦士フュリオサ大隊長を演じ、アクション・スターとしても名声を得たセロンですが、本作のような本格的な武闘シーンをこなすことは、今までなかったと思います。ハリウッドでも最高の美女、という名をほしいままにしてきたうえ、これで最強の美女という称号も得て、それはもう無敵状態といえますね。徹頭徹尾、彼女の魅力を観賞するのが正しい作品だといえますが、本当にすさまじいバイオレンス・シーンに戦慄すら覚えます。東ベルリンの廃屋で繰り広げられる7分半にわたるノーカット一発撮影のリアルな格闘は、まことに鬼気迫るものがあります。

 なんでも同時期に「ジョン・ウィック2」の役作りをしていたキアヌ・リーブスを相手にセロンがスパーリングした、という話もあります。いっそのこと、次回作は競演してもらいたいものです。それほど激しい格闘シーンが延々と続きます。が、それだけでなくて、もっと驚かされることに、本作には百合シーン(つまり女性の同性愛)がかなり濃密に描かれます。セロンのお相手を務めるのは、「キングスマン」に出てからハリウッドで瞬く間に人気者となったフランスの女優ソフィア・ブテラ。こちらも元々が有名なダンサーで身体能力抜群の美女ですが、この超ド級美女の百合対決が見ものです。こういうのが好きな人は見逃せません。なぜ唐突に同性愛描写が、と思う人もいるかもしれませんが、「スパイは情報を得るためなら手段を選ばず、ためらわないで何でもやる」という一面を描きたかったのだ、といいます。

 体当たり演技に挑む彼女たちの引き立て役として、男優陣が配置されているわけですが、そこはしっかり芸達者な人たちが、手堅く演技しています。敵なのか味方なのか、最後までヒロインを翻弄する何を考えているのか分からない諜報員に、X-menのプロフェッサーX役ですっかり有名人になったジェームズ・マカヴォイ、またヒロインの無責任な上司役に、癖のある役をやったら当代一の名優トビー・ジョーンズ、という具合で、彼らの好演も非常に素晴らしいです。

 このお話は、198911月の10日間ほどの間にベルリンで起きた出来事です。この年、ポーランドとハンガリーで相次いで共産政権が崩壊。119日に東西ベルリンを分かっていた壁が破壊され、12月には米ソ首脳会談で冷戦終結が合意されました。それから1年もたたない翌年10月には東西ドイツが統一し、9112月にはソ連も解体してしまいます。まさに激動の時代でした。今現在、40歳代以上の方ならリアルタイムの鮮明な記憶を持っている方が多いでしょう。

 この映画では、全編でうるさいぐらいに80年代の音楽がかかりますが、特に当時のドイツと言えばネーナの「ロックバルーンは99」ですね。その他、クラッシュとかデペッシュ・モードとか、あのあたりで子供時代から青春真っ盛り、といった世代には、ラジオやMTVで聞いた思い出のある曲が並び、印象的に使用されています。まさにその世代であるシャーリーズ・セロン本人もすごく懐かしい、と言っているそうです。

 本作の冒頭は、当時のレーガン米大統領がゴルバチョフ・ソ連書記長に「冷戦を止めましょう」と呼び掛ける映像で始まりますが、そこですかさず「本作は、その冷戦終結の物語ではない」というメッセージがかぶさります。

 ところがです、最後の最後まで見ていると、実はやっぱり「その物語」だったということになるのですが…。

 

198911月。東ドイツの政治体制は動揺し、市民のデモでベルリンの壁の崩壊も目前に迫っていました。そんな中、ベルリンで活動していた英国情報部MI6のエージェント、ガスコイン(サム・ハーグレイブ)は、ソ連秘密警察KGBの殺し屋バクチン(ヨハンネス・ヨハンネソン)に殺害され、東ドイツの秘密警察シュタージが収集した極秘資料、すなわち「世界中で潜入活動しているあらゆる国のスパイの名簿リスト」を仕込んだ時計を奪われてしまいます。しかしバクチンはKGBの上官ヴレモヴィチ(ローランド・モラー)にそのリストを提出せず、闇市場で売って大もうけしようと姿をくらましてしまいます。

このリストが世間に知れ渡れば、各国の疑心暗鬼や国民世論の混乱から、冷戦がさらに40年も続くほど世界情勢が一変するかもしれません。事態を憂慮したMI6の長官C(ジェームズ・フォークナー)は、主任のグレイ(トビー・ジョーンズ)に命じて、英国情報部で最強の女性スパイ、ロレーン・ブロートン(セロン)を呼び出します。ロレーンは西ベルリンに赴き、MI6のベルリン支局長パーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)と合流しますが、彼女の赴任は初めからKGBに知られており、いきなり危険な目に遭います。実はロレーンはCからリストの奪取以外にも密命を受けていました。MI6に所属しながらKGBに情報を流している二重スパイ「サッチェル」の存在を確認し、その人物を確定したうえで、秘密裏に抹殺することになっていたのです。そこでロレーンは信用できないパーシヴァルと距離を置きつつ、独自の情報収集に当たります。その中で、フランス情報部の新米エージェント、デルフィーヌ(ブテラ)と知り合ったロレーンは、彼女の情報から、ますますパーシヴァルの怪しげな行動に不信感を覚えます。さらにロレーンは、デルフィーヌと仕事を越えた親密な関係となり、同性ながら激しい恋に落ちます。

ここで、英国情報部と協力関係にある米中央情報部CIAの幹部カーツフェルド(ジョン・グッドマン)がロレーンに接触してきます。例のリストが表に出れば、世界中の情報部員が命を落とすことになる、もちろん君も私も、と彼は警告し、CIAもロレーンの行動を監視していることをほのめかします。

その頃、パーシヴァルはシュタージの幹部スパイグラス(エディ・マーサン)と接触し、彼を西側に亡命させようと提案します。というのも、スパイグラスは例のリストに載っている諜報員全員の名前を暗記している、というのです。独自のルートで現地の協力者メルケル(ビル・スカルスガルド)や、表向きは高級時計店カール・ブヘラに勤める工作員「時計屋」(ティル・シュヴァイガー)の手引きで東ベルリンに潜入したロレーンも、結局、パーシヴァルの計画に協力してスパイグラスの亡命を手助けすることにします。

しかし、今回も情報はKGBに筒抜けになっており、ヴレモヴィチの率いる暗殺者たちが襲ってきて、ロレーンは絶体絶命のピンチに陥ります。彼女はスパイグラスと共に、西ベルリンに無事、脱出出来るのでしょうか。命がけの死闘が始まります。

そんな中で、パーシヴァルはまた不審な行動を取っていました。彼はリストを持っているバクチンと密かに接触していたのです…。

 

というようなことで、お話はこの後、あっと驚きの結末までノンストップで突き進んでいきます。

非情な内容なのにどこかにユーモアやペーソスがあった「ジョン・ウィック」と比べても、かなりストイックなスパイ映画です。殺伐とした作品であることは間違いありません。もしこれが男性スパイのアクションなら、全く陰気くさい作品になっていたことでしょう。やはりシャーリーズ・セロンあっての企画、といっていい一作ですが、とにかく一瞬も目を離せないほど、すさまじい描写の連続です。

そこへまた、美女2人の大胆な絡み…。なんとも見せ場を心得た映画です。爆音BGMとともに、大スクリーンで見たい作品ですね。

カール・F・ブヘラは実際に高級時計を提供して協力しており、また当時の東独の名車トラバントも500台も集められて登場しています。スーツを着たMI6の幹部の上着は、あのバブル期を思い出させるゴージ(縫い目)の低い大きな襟で、CIAのカーツフェルドはアメリカのエリート階級らしくボタンダウン・シャツを着ているなど、芸の細かい大道具、小道具、衣装も相まって、全力で1989年を再現しているのが興味深いです。言うまでもなく、東ドイツ軍の制服はカッコいいです。ナチス時代とほとんど変化していないので有名ですが、マカヴォイが制服を着ているシーンだけ異常にカッコいいのが笑えます!

スマホもパソコンもインターネットもない最後のアナログ時代。しかしそれ以外のアイテムはなんでも出そろっていて、時代劇と言うほど古くなく、しかし現代とも異なる独特の空気感がそこにはありました。冷戦期のスパイたちも、あの時代だからこそ存在できたといえます。

あの頃、自分もバブル期の街をさまよっていたんだな、と、世代的にもそんなことを思った一作でした。

|

« 講演会(21日、東京家政大)の風景です。 | トップページ | 【映画評 感想】猿の惑星:聖戦記 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122224/65972893

この記事へのトラックバック一覧です: 【映画評 感想】アトミック・ブロンド:

« 講演会(21日、東京家政大)の風景です。 | トップページ | 【映画評 感想】猿の惑星:聖戦記 »