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2017年7月11日 (火)

【映画評 感想】パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊

 パイレーツ・オブ・カリビアン・シリーズの新作「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」PIRATES OF THE CARIBBEAN DEAD MEN TELL NO TALESを見ました。原題は死んだ者は何も語らない、つまり「死人に口なし」の意味です。20170710231446


2003年にシリーズが開始して以来、すでに14年。撮影開始時にまだ30代だったジャック・スパロウ役ジョニー・デップも50代半ばになっています。ディズニーランドの「カリブの海賊」を基に製作された軽い娯楽作品だったものが、こんなに長く続く大河シリーズに成長するとは、当初は誰も思わなかったと感じますが、今作は特に、大ヒットした第一作のテイストを取り戻しつつ、壮大なスケール感も加えた快作ではないかと個人的に思いました。

一作目の「呪われた海賊たち」にあった軽妙なコミカルな味わいとドタバタ感。あれがよかったという人は多いと思います。その後、二作目「デッドマンズ・チェスト」、三作目「ワールド・エンド」と予算が増えるほどに話が壮大になったのはいいのですが、ちょっと重々しくなり過ぎ、悲愴な感じになりすぎ、という声もありました。そこで、四作目の「生命の泉」では、出演陣も一新してリブートを図ったもののようですが、率直に言って番外編的な展開で、今度は地味になってしまった印象が否めませんでした。

 三作目は、それまでのシリーズを支えてきたウィル・ターナーとエリザベス・スワンの恋が成就はしたものの、ウィルが深海の悪霊デヴィ・ジョーンズの呪いを受け、幽霊船フライング・ダッチマン号に乗って永遠に海をさまよう身になることで、引き裂かれてしまう、という悲劇的な幕切れで終わりました。

 本作は、そのウィルとエリザベスの間に生まれた息子ヘンリー・ターナーが活躍します。そして嬉しいことに、ウィル役にオーランド・ブルーム、エリザベス役にキーラ・ナイトレイが復帰しています。このシリーズで名を上げて、今では押しも押されもしない大スターとなった2人がこの世界に帰って来てくれたことは、初期からシリーズを見ている人には感動的ですらありますね。

 

 幽霊船に捕らわれの身となってしまった父ウィル・ターナー(ブルーム)の呪いを解こうと誓った息子、ヘンリー・ターナー(ブレントン・スウェイツ)は、英国海軍に志願して水兵見習いに。彼は伝説の海賊ジャック・スパロウ(デップ)を探し出し、すべての海の呪いを解除するという幻の秘宝「ポセイドンの槍」を探し出すことを心に決めています。

ヘンリーの乗る軍艦は「魔の三角海域」に差し掛かり、恐怖の悪霊サラザール艦長(ハビエル・バルデム)の幽霊船に襲われ沈没します。サラザールは他の乗組員を皆殺しにした後、恨みのあるジャック・スパロウに、いつか仕返ししてやると伝えるように告げ、ヘンリーだけを解放します。

 生き残ったヘンリーは英植民地セント・マーティンの海軍施設に収容されますが、逃亡兵として処刑されることになります。そんなヘンリーを助け出したのは、18世紀にはまだ異端とみなされた女性天文学者カリーナ(カヤ・スコデラリオ)でした。彼女もまた、父が残したガリレオ・ガリレイの日記を手掛かりに、伝説のポセイドンの槍を見つけようとしており、ヘンリーに興味を持ったのでした。しかし、科学的な知識を持つカリーナは街の人々から誤解され、結局、魔女として告発されてしまいます。

 そのころ、セント・マーティンでは銀行の開業式典が挙行されていました。華々しく最新式の金庫が紹介されると、あにはからんや、金庫の中に忍び込んでいたのはジャック・スパロウその人でした。ジャックの金庫強奪の計画は失敗し、そのドタバタに巻き込まれたカリーナも捕まります。

 逃げ延びたジャックは、酒場でラム酒欲しさに、肌身離さず持ってきた秘宝「北を指さないコンパス」を手放してしまいます。しかしそれは大きな過ちで、コンパスは手放されると、持ち主が最も恐れる敵を解放する、という特性を持っていました。そして、魔の三角海域に長年、閉じ込められていたサラザールは行動の自由を得てしまいます。

 やがて、当局に捕えられたジャックは、見せしめとして、カリーナと共に公開処刑されることとなります。監獄でジャックは、伯父のジャック(ポール・マッカートニー)と再会します。

 処刑場に現れて、ジャックとカリーナを救い出したのは、ヘンリーと、ジャックの片腕ギブス(ケヴィン・R・マクナリー)たちでした。父の呪いを解きたいヘンリー、やはりまだ見ぬ父の残した日記の謎を解きたいカリーナ、そしてサラザールの呪いを封じなければならなくなったジャック。三者ともポセイドンの槍が必要であることで思惑が一致し、こうして一行は海に乗り出します。

 同じころ、サラザールの幽霊船に襲われた海賊バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)も、サラザールに協力して、やはり因縁のライバル、ジャックを追い求めることになります。こうして役者はそろい、伝説の秘宝が眠る未知の島を目指して、話は急展開していきます…。

 

1774


 ということで、軍装史や服飾史の研究家として一言申せば、シリーズの初期からおそらく
20年以上が経過していることを、登場人物の服装がしっかりと表現していると感じました。物語の途中、ジャック・スパロウが処刑されかけるシーンでは「最近、フランスで開発されたギロチン」が使われるのですが、ギロチン(断頭台)が登場するのは史実ではフランス革命後の1792年。すなわち、今回の映画の時代設定はほぼ、この前後で間違いありません。そして、本作で登場する英国海軍の軍人たちが身にまとっているのは、1774年~1795年の間に使用された軍服に見えました。上の写真のような、紺色の生地に白い襟やベスト、白い半ズボン。金ボタンで金糸の刺繍に、金色のエポレット(正肩章)。そして、髪型は白い巻き髪のウィッグ、三角帽、という具合です。前作でバルボッサ船長が着ていたのは、明らかにこれより古いタイプ、1774年よりも前に使用されていたタイプに見え、さらにシリーズの初期でノリントン代将などが着ていたのも、やはりその頃の軍装に見えました。つまり、服装が新しい時代のものに変化しているようなのです。この後、1795年になると、あのネルソン提督がトラファルガー海戦で着ていたタイプの物に更新され、帽子の形も二角帽となってきます。

 今回の作品でも、ジャックや他の登場人物はほぼ、三角帽を被っています。しかしバルボッサだけは、当時、流行の最先端である二角帽(あのナポレオンが被っていたタイプ)を用いていて、彼が裕福で新しい物好きだったことを示しているようです。二角帽は、フランス革命を契機に「新時代の帽子」として世界的に急速に普及した形式です。

 こうして、徐々に服装が変化して行く様で、カリブの海賊が気ままに活躍する時代が終わりを告げ、近代的な国民国家と近代的海軍、特に大英帝国の海軍が世界の海洋を支配する19世紀が迫りつつあることを予感させているように思います。衣装を担当したペニー・ローズは、荒唐無稽な娯楽作品といいつつも、そのへんをしっかりと時代考証で裏付けし、見る人に感じ取らせようとしているのだと感じました。

Photo


 一方で、海賊退治を専門とするスペインの軍人だったサラザールたちの着ているのは、銀色を基調としたかなり珍しい服装です。
18世紀末から19世紀初めのスペイン海軍の軍装は、上の写真に掲げたような、赤い襟が付いた紺色の軍服だったと思われるのですが、サラザールたちは恐らく、正規のスペイン海軍の軍人と言うより、海賊退治を専門とする私設海軍であり、国家の私掠船免許を持って正規海軍に準じた待遇を受けている民間船、という設定なのではないでしょうか。

 とにかく2人のオスカー俳優、ハビエル・バルデムとジェフリー・ラッシュの演技と存在感が圧倒的です。正直のところ、ジョニー・デップが食われてしまっています。ジャック・スパロウは徐々に本シリーズのアイコンとして、狂言回し的な立場になりつつある気もします。若い2人、「マレフィセント」の王子役で一躍、注目されたスウェイツと、「メイズ・ランナー」シリーズで有名になったスコデラリオの生き生きとした演技もいいですね。特にスコデラリオはハリウッドでも図抜けて目立つほどの美貌の持ち主。今後の活躍が期待されます。

 ポール・マッカートニーの出演シーンも見逃せません。実はあまりに演技がうまいので、かえって彼だと分からない感じです。才能のある人は何をやってもうまいのですね。

 そして、出番は少ないながら、オーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイの登場するシーンはとにかく感動的です。ここを見なければ、このシリーズを見てきた意味がありません。

 本作が、初期シリーズの味わいに対するリスペクトを持ちつつ、微妙な相違点も感じさせるのは、どこかこれまでと違う明快さ、脚本の分かりやすさがあると思います。監督はノルウェーから大抜擢されたヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリの2人監督。脚本は「インディ・ジョーンズ」シリーズや「スピード2」のジェフ・ナサンソンが担当し、シリーズの中でも映画としての流れの良さ、ストーリーの無理のなさが本作の長所であると感じました。要するに、これまではどこか雑然としたストーリーが持ち味だったのですが、今回はスマートな作風に感じます。ここは北欧的な洗練が加わったのかもしれません。

 このシリーズが今後どうなるのか、継続するのか否かは分かりませんが、この時点でひとつの集大成的な作品として結実したように思います。若い2人の成長を今後も見てみたい、という気は大いにしますね。

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コメント

今日、観に行きました。
話の内容より、豪華な衣装を
観察していました。
前日にアンティークのお店で
ボタンを買い、
店員さんが「洋服の歴史で
ボタンの装飾もすごい。
それに比べて日本は江戸時代まで
着物と帯で、ボタンがなかった。」と
言っていました。
だから軍服のレースやボタンに注目して見ていました。勧めてくださりありがとうございました。

投稿: 大福 | 2017年7月14日 (金) 22時20分

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