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2017年4月22日 (土)

【映画評 感想】グレートウォール

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 「グレートウォール
THE GREAT WALL」という映画を見ました。万里の長城をテーマにした本作は、昨年、中国の映画館チェーンを経営する「大連万達グループ」の傘下企業になったレジェンダリー・ピクチャーズが、中国市場向けに製作した映画、という見方をされがちですが、そういう先入観を持たないで見てみると、これがなかなかの快作です。

 レジェンダリーと言えば、これまでも「ダークナイト」などのバットマン・シリーズや、「300 :スリーハンドレッド」「タイタンの戦い」「ジャックと天空の巨人」「パシフィック・リム」「GODZILLAゴジラ」「ドラキュラZERO」「インターステラ―」「ジュラシック・ワールド」「スティーヴ・ジョブズ」「クリムゾン・ピーク」「ウォークラフト」、そして公開中の「キングコング 髑髏島の巨神」…と、見ているとマニアックというか、必ずしも万人向けを狙っていない、というか、かなり趣味性の強い映画を数々、製作してきた会社でありまして、嗜好が合うらしく、私も今、挙げた作品は、ほとんど見ています。

 今回も、中国市場を意識して、といってもそれで単純に中国人観客への一般受けを狙った作風を打ち出してきているわけでは決してない模様です。特に今作は、チャン・イーモウ監督のハリウッド・デビュー作品という一面もあります。イーモウ監督の独特の芸術的色彩感覚と映像美は、これまでも「HERO」「LOVERS」「王妃の紋章」などの世界的ヒット作を生み出してきました。また、コン・リーやチャン・ツィイーといった女優をスターに育てた監督でもあります。評価は高い監督ですが、決して万人に受ける、という作風の人でもありません。

 また、日本人の立場から見ると、北京五輪ディレクターという「国策監督」であり、南京事件を取り上げた映画「金陵十三釵(きんりょうじゅうさんさ)」を作った監督である一方で、高倉健主演の「単騎、千里を走る」の監督でもあり、なんとも賛否両論の出そうな人ではあるのですが、まあ今回はそのへんも先入観を持たないことにしておきます。

 本作では、ジン・ティエンという国際的には無名の28歳の女優をフィーチャーしてきましたが、これが魅力的です。さすがにイーモウ監督はヒロインの描き方がうまい。レジェンダリーつながりもあるのでしょうが、この人は公開中の「キングコング 髑髏島の巨神」にも出演しており、さらに「パシフィック・リム」の続編にも出演する予定だそうで、一気に国際的なスターダムに上りそうな予感がいたします。

 本作は、火薬が武器に使用され始めた12世紀、宋の時代の中国を舞台にしております。厳密に言えば北宋(9601127)なのか南宋(11271279)なのか、微妙な時代と言えますが、あるいはこの映画に描かれた事件が北宋の弱体化を招いた、という設定なのかもしれません(追記:その後、海外で出回っている情報では、本作に登場する「皇帝」は、北宋の4代・仁宗皇帝(在位:1022~63)と設定されていることが分かりました。だとすると、映画のパンフレットなどでうたっている12世紀ではなく、11世紀ということになるのですが、どうなっているのでしょう)。ともかく、火薬は唐代には中国で発明されたと言われます。中国の歴代王朝はこれを機密として、門外不出の扱いにしていましたが、モンゴル支配下の元王朝で銃器が開発され、13世紀にはアラブ世界、欧州に伝わり、それから17世紀ぐらいにかけて、欧州の軍の近代化が急速に進んでいくわけです。

しかし12世紀の当時においては、圧倒的に中国の方が先進的で、国家の正規軍である「禁軍」も存在したことに比べれば、十字軍時代の欧州の騎士団は、軍事的には古式蒼然たるものでした。おまけに金次第でどこにでも仕える傭兵稼業の兵士たちも跋扈して、混沌とした状況でした。このへんは、中国人向けのひいき目を勘案しても、確かに中国の方が先進的な国であった時期であると思います。そういう時代背景のもとに、建造に1700年もかかったという万里の長城に秘められた別の意味合いを語るのが本作であります。

 

 12世紀のある時。十字軍崩れのイングランド出身の傭兵ウィリアム(マット・デイモン)と、相棒のスペイン人傭兵トヴァール(ペドロ・パスカル)は、契約主の命令で黒色火薬を求めてはるばる欧州から中国を目指していました。火薬を持ち帰れば、莫大な報賞が約束されているのです。しかし馬賊に襲われて仲間は次々に命を落とし、最後は2人だけとなって砂漠地帯の山中の洞穴に逃げ込みます。ここでウィリアムは、得体の知れない緑色の化け物に襲撃されますが、剣でその化け物の片腕を切り落とし、撃退します。

 さらに馬賊に追われた2人は、宋王朝の軍隊が守備する巨大な「万里の長城」に至ります。後方から馬賊が迫る中、選択肢は他になく、2人はシャオ将軍(チャン・ハンユー)が指揮する宋の守備隊に投降します。

 守備隊の女性幹部の一人、リン・メイ司令官(ジン・ティエン)はなぜか流暢な英語を操り、ウィリアムたちを尋問します。守備隊の参謀であるワン軍師(アンディ・ラウ)は、ウィリアムがたった一人で化け物を撃退したという話を聞き、大きな関心を持ちます。その緑色の化け物とは、その時代から約2000年の昔、飛来した隕石から出現した異世界の化け物で、なんでもむさぼり食らう恐ろしい存在。中国では饕餮(とうてつ)と呼ばれる凶暴なモンスターです。アリの生態に似ており、1匹の女王が全体の頭脳として群れを支配しており、60年周期で繁殖して攻めてくるといい、ちょうどこの時が、再び饕餮が長城をめがけて攻め込んでくる直前の時期なのでした。長城も、異民族への備えだけでなく、むしろこの化け物を防ぐために築かれたのだと言います。

 饕餮の大軍が初めて攻め込んできたとき、ウィリアムとトヴァールは目覚ましい活躍を示し、シャオ将軍やリン・メイから一定の信頼を得て、自由を得ます。また、ウィリアムはここで一人の若い士官候補生ポン・ヨン(ルハン)の命を助け、彼から厚い信頼を得ます。

ところで、砦には思いがけなくも、もう一人のイングランド人がいました。やはり火薬を求めて中国までやって来て、ここの守備隊に捕まり、25年もの間、軟禁されているバラード(ウィレム・デフォー)という老人です。彼がいるために、リン・メイやワン軍師など、一部の者が、流暢な英語やラテン語を使え、欧州の事情にも一定の理解がある理由が分かります。バラードは仲間が出来たことに勇気づけられ、3人で火薬を盗み出して、次の饕餮の攻撃があった際には、ひそかに逃げだそうと提案します。トヴァールは一も二もなくその提案に飛びつきますが、ウィリアムは、命がけで人々の生活を守ろうとしている長城の守備隊を見捨てて逃げ出す行為に疑問を抱きます。

 ある日、饕餮の奇襲を受けてシャオ将軍が戦死し、リン・メイが後任として長城守備隊の将軍に就任します。

 やがて、ウィリアムが饕餮に襲われた際、胸に方位を知るための磁石を入れていたことが、饕餮の動きを鈍らせたのではないか、という事実が分かります。磁石の磁界が、女王の指令を受け取れなくする効果があるようなのです。

 この事実を確かめるべく、次の攻撃では饕餮を生け捕りにしよう、とウィリアムはリン・メイに進言します。しかし逃げ出すつもりのトヴァールは激しく反対します。すぐに饕餮の大軍が長城に攻め寄せますが、バラードとトヴァールは火薬を求めてこそこそと逃げだし、一人、残ったウィリアムは饕餮の群れの中に決死の覚悟で飛び込みます。それまで半信半疑だったリン・メイもウィリアムの勇気に心を動かされます。トヴァールも結局、ウィリアムの行動に従い、不本意ながら今回の脱走は見送りました。

 しかし、饕餮の攻撃はまだまだ続きます。饕餮の弱点が磁石にあることを知った朝廷の勅使シェン特使(チェン・カイ)は、自分の手柄として皇帝(ワン・ジュンカイ)に披露したいがために、生け捕りにした饕餮を宮廷に運び込みます。一方、リン・メイたちは饕餮の本隊が山脈に穴を開けて通路を造り、長城を迂回して都に向かった事実を知ります。その混乱に乗じて、またトヴァールとバラードは脱走を企てます。さて、ウィリアムはどういう選択をするのでしょうか。さらに、都を饕餮に襲われれば、中国はおろか、次は世界中が襲撃されて人類は終焉を迎えるかもしれません。リン・メイたちはこの危機をどう乗り切るでしょうか・・・。

 

 ということで、とにかく素晴らしい映像です。「王妃の紋章」でも圧倒されましたが、この色彩感覚と、人海戦術のすさまじさは中国ならでは。長城のセットにしても、ハリウッド側が張りぼてを提案したところ、中国側の大道具さんは、レンガを積み上げて本物の長城のようにセットを築いたそうです。一方でハリウッドの一流どころが全力で支援しており、原案はあの「プロデューサー」のメル・ブルックスとアン・バンクロフト夫妻のお子さんのマックス・ブルックス、脚本は「プリンス・オブ・ペルシャ」のカルロ・バーナードとダグ・ミロ、衣装は「アバター」のマィエス・C・ルベオといった布陣です。本編1時間43分という短い時間でたくさんの情報を処理する脚本は非常に冴えていてテンポが良く、現代的です。また、特に衣装は見事で、禁軍に属する五つの部隊の鮮やかな色彩の甲冑が、史実をふまえながらもスタイリッシュで、色彩の魔術師たるチャン・イーモウ監督のこだわりに応えた素晴らしい出来栄えです。

 アンディ・ラウやルハンといった、中国では大人気のスターやアイドルを起用しており、みんなとてもいい演技をしていますが、やはり外国人の目で見ると、今回はジン・ティエンのための映画、という感じ。本当に彼女が魅力的です。近年、ボーン・シリーズはもちろん「インターステラ-」「オデッセイ」「エリジウム」などいろいろな映画で大活躍のマット・デイモンも引き立て役に徹している感じです。

なんでも、出演者一行が宿泊したホテルにたくさんの花束が届き、それが大人気のアイドル歌手であるルハンにあてたものであることを知って、デイモンはびっくりしたとか。同時に、自分は中国ではあまり知名度がないことにがっかりしたそうですが(笑)、いえいえ、実は正義感の強い誠実な頼れる男、という役柄は彼にピッタリです。

 今、いろいろな話題作が封切りされていますが、アクション好きな方なら大画面で見てほしい一作ですね。私たちは「これは劇場で見て良かった」と心から思いました。

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