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2017年4月15日 (土)

【映画評 感想】 帰ってきたヒトラー

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千葉県浦安市のディズニーランド併設のショッピングモール、イクスピアリにある映画館シネマ・イクスピアリでは、今「舞浜で名画を!
 キネマ・イクスピアリ」と題して、毎月1本ずつ、1週間だけ限定で、最新の映画ではない少し前の話題作や、クラシックな作品を公開する試みをしています。今や、昔あちこちにあった「名画座」はほとんど壊滅してしまいましたので、大スクリーンで見逃した名作が再映されるのは素晴らしいことです。

 それで、この14日までやっていたのが、2015年に話題になったドイツ映画「帰ってきたヒトラーEr ist wieder da」でした。昨年夏に日本でも公開され、かなり評判になったのですが、私たちはこの時期、自分たちの本『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)の最終追い込みに入っており(刊行は8月)、さらにNHKの番組「美の壺」の取材を受けていた時期でもあり、この映画を見る余裕はありませんでした。

 それが、ここに来て思いがけない舞浜登場、ということで、見て参りました。

 もう昨年に流行った作品ですので、ここでくどくど説明する必要もないと思いますので簡単に書きますが、要するに、1945年に自決したはずのナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーが、なぜか2014年のベルリンに蘇ってしまい、初めは時代の変化に当惑するものの、迫真の「ヒトラー物まね芸人」として人気者になってしまう、という話です。インターネットにSNS、テレビが完備した現代こそ、プロパガンダの天才であるヒトラーには、まさに水を得た魚のように活躍出来る理想的な環境である、という現実。おまけに、時代は移民排撃と反グローバリズムに明け暮れ、まさにナチス時代前夜のような世相。テレビ番組に出演することになるや、嫌悪されるどころか視聴者から絶大な人気を得たヒトラーは、最後には彼を「本物のヒトラー本人が蘇ったのでは?」と気がついたテレビ局の契約社員を精神病院に送り込み、さっそうとオープンカーに乗って叫びます。「これは好機到来だ!」

 とにかくヒトラー役のオリヴァー・マスッチが素晴らしく、本来の彼は全くヒトラーに似ていないのですが、特殊メイクにより顔貌は40歳頃の最盛期のヒトラーにそっくり。声色といい、いかにも言いそうなセリフといい、演説の前にわざと黙り込んだり、初めに意表を突くようなテーマで話し始めたり・・・まことにヒトラーの言いそうなこと、やりそうなことを徹底的に再現して、現代の世相に持ち込んでいるのがすごいです。

 そして、実際にヒトラーの特殊メイクのまま、ドイツ各地で突撃撮影をして、道行く人に語りかけたり、政治家に突撃取材したりしているのですが、そこで当惑したり、腹を立てたり、逆にヒトラーに意外にも親しみを込めて接する市民の姿を描いていきます。このへんはもうドキュメンタリーですね。かなり、危険な撮影だったと思いますが、このマスッチ本人も、スタッフもすごい勇気ですね。

 終盤になって、おそらくテレビ局の経費で作ってもらった、という設定なのでしょうが、金色の「総統用鷲章」が輝く革製のコートに身を包んだヒトラーは、有名な肖像画そっくりで、知っている人ほど慄然とするでしょう。

 この原作は2012年に刊行されてドイツでベストセラーとなり、映画制作は2014年ということで、トランプ氏の当選とか英国のEU離脱といった動きが目に見えて表れるより前に作られたことを考えると、原作者ティムール・ヴェルメシュ、デヴィット・ヴェント監督始め、制作した人々の慧眼には恐れ入ります。

 そして、ずっと見ていると、まるでイタコが口寄せしているかのような巧みな演技力で語られる「ヒトラーの主張」が、かなり正しいもののように思えてくるのがすごいです。そういうふうに見ている人が思ってしまう、というのが映画の力ですね。

 名画シリーズのおかげで、公開時に見逃した作品を改めてスクリーンで見られて幸運でした。今後もこういう試みを続けて戴きたいですね。

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