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2017年2月 5日 (日)

【映画評 感想】マグニフィセント・セブン The Magnificent seven

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 黒澤明監督の代表作を一つ挙げろ、といわれれば、人それぞれでしょうが、
1954年の「七人の侍」を推す人は多いでしょう。私は個人的に、黒澤監督は特に戦国時代ものを撮るときが最も面白い、というのが持論でして、「七人の侍」か「隠し砦の三悪人」か「影武者」か、と感じております。おそらく、西部劇のような作品を日本で撮るなら、背景としては戦国時代じゃないのか、というのがあると思います。アウトローが跋扈していておかしくない時代、です。同時に、黒澤作品と言えばこの人、三船敏郎さんが一番、輝くのも戦国ものと思われるのですね。「七人の侍」はまた、Seven Samuraiの名で国際的にも有名であり、多くのハリウッド監督にも影響を与えたと言われます。先日のスター・ウォーズ新作「ローグ・ワン」の監督も、徐々にすご腕の仲間が集まってチームを組み、絶体絶命の困難な任務に立ち向かう、という要素で「七人の侍」を意識した、と発言していたようですね。

 それで、公開当時、その「七人の侍」に惚れ込んだ名優ユル・ブリンナーがリメイクに乗り出し、自ら主演してこれも西部劇史上に残る名作となりましたのが、1960年の「荒野の七人」The Magnificent Sevenだった次第です。こちらは、その時点でほぼ無名の新人だったスティーヴ・マックイーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、ロバート・ヴォーンらの出演者が本作を契機に人気を得て、その後、そろって大スターになりました。

 そしていま、21世紀になってこの原案をそのままに、アントワン・フークワ監督の手で新作西部劇「マグニフィセント・セブン」The Magnificent Sevenが制作される、という一報を聞いて驚いたものです。ということで、見に行って参りました。

 

 南北戦争の余韻が残る1879年、アメリカ西部の小さな町ローズ・クリーク。この町にサクラメントの悪徳資本家ボーグ(ピーター・サースガード)が目を付けました。近くにある金鉱山の経営のため、この町を乗っ取って独り占めにし、拠点とする計画です。開拓した住民たちは3週間以内に立ち退くように強要されました。勇気ある青年マシュー(マット・ボマー)は抗議の声を上げますが、ボーグに射殺されてしまいます。

 マシューの妻、エマ(ヘイリー・ベネット)は、友人のテディ(ルーク・グライムス)と共に、ボーグの横暴から町を救ってくれそうな腕利きのガンマンを探すことに。そしてある町で、見事にお尋ね者を始末したチザム(デンゼル・ワシントン)を見て、懇願します。初めは取り合わなかったチザムですが、ボーグの名を聞くと心が動き、エマたちの力になることを約束します。

 さらに、チザムが追っていたお尋ね者のバスケス(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)、早撃ちの名手でカードと女が好きなファラデー(クリス・ブラット)、南北戦争時代からのチザムの知人で、かつて南軍きっての狙撃兵だったグッドナイト(イーサン・ホーク)、その相棒でナイフの使い手である東洋人ビリー(イ・ビョンホン)、往年はインディアン狩りで名を上げたものの、今では時代が変わり失業している怪力男のジャック(ヴィンセント・ドノフリオ)、さらにひょんなことから仲間に加わる一匹オオカミのコマンチ族戦士レッド・ハーベスト(マーチン・センズメア)が集結し、まずはローズ・クリークを占拠しているボーグの手下、22人を血祭りに上げます。

 町の人々は怯えつつも、頼もしい7人のガンマンの登場に勇気を振り絞り、ボーグと闘うことを決意。

 しかし、怒りに燃えたボーグは百人を超える大軍を編成し、ローズ・クリークを襲撃することにします。決戦まで残された時間は1週間。7人のガンマンと、町の人々の運命やいかに・・・。

 

 というようなわけで、大筋の所では「七人の侍」「荒野の七人」と変わらないわけですが、細かいところはけっこう相違します。中心人物チザムが黒人である、というだけでなく、メキシコ人のバスケス、東洋人のビリー、インディアンのレッド・ハーベストまで参加してまさに多人種軍団になっています。あえて分類すれば、7人のうち4人が有色人種、というわけで、現代的な西部劇解釈、といえるかと思います。時代考証的には、南北戦争が終わり、奴隷解放令が出た後の1870年代末なので、黒人のガンマンがいてもありえない話ではないし、日本もすでに明治時代となっている時期、ビリーがどこの出身か明言されませんが、このぐらいの時代になると中国、韓国、日本などから来た東洋系のガンマンがいても決しておかしくはない、ということです。が、実際にそういうことがどの程度あり得たか、というとそれはまた別問題で、やはりこのあたりは、リアリティーと言うより、自身も黒人であるフークワ監督の意識、というのも反映しているのかもしれませんけれど、しかしパンフレットによれば、監督も出演者も、そんな人種的なことはあまり意識しておらず、ひたすら娯楽作品として面白い7人の組み合わせを考えたところ、いろいろな人種になった、と言っているようです。実際、フークワ監督の「トレーニング・デイ」でオスカー受賞したデンゼル・ワシントンがここで中心人物として起用された、というのは、あくまでも監督の人脈の中で最高の俳優を求めたらこうなった、ということなのかもしれません。

 今作が、二つの原典と違う点で言えば、経験の浅い若造、というのが7人の中にいません。「侍」における勝四郎、「荒野」におけるチコにあたる人物です。彼らは町の農民の娘と恋に落ちる、という話があったんですが、今回はそのへんバッサリとありませんし、必然的に未熟な若者の成長物語という部分もありません。それから、やはり「荒野」ではチコが担っていた部分と思いますが、「侍」で三船が演じた菊千代のような型破りな人物、というのもいません。まあ今作ではジャックがいくぶん、そうなのかもしれませんが、菊千代の人物像が「侍」で体現しているものが、いかに作品を深くしていたか、というところを思うに、ちょっと今作は物足りない感じもあります。ただ、そういう町の人との関わり的な部分をカットし、戦闘シーンを増量したことで現代的なテンポの映画になっている、のも事実なので、このへんは配分が難しいところです。

 一方で、旧作へのリスペクトという面も大いにあり、特にチザムが全身黒ずくめの衣装であることは、明らかに「荒野」でユル・ブリンナーが演じた7人のリーダー、クリスの影響でしょう。コマンチ族戦士の名前「レッド・ハーベスト」は、ダシール・ハメットのハードボイルド小説『血の収穫』Red Harvestに由来しますが、実はこの小説は、黒澤明監督の別の名作「用心棒」(1961年)の原案の一つとされています。

それより何より、本作では最後の最後になって、「荒野の七人」のあの1960年のテーマ曲(エルマー・バーンスタイン作曲)が思い切り、流れます。ずっと、この有名なテーマ曲をマイナー調にしたような曲が作中で流れていたのですが、やはり本歌取りだったのですね。ちなみに本作の音楽を担当したのはジェームズ・ホーナー。これまでどんな作品の曲を手がけたかといえば、「タイタニック」「アバター」「コマンドー」「コクーン」「マスク・オブ・ゾロ」「トロイ」「アポカリプト」「薔薇の名前」「フィールド・オブ・ドリームス」「グローリー」「ブレイブハート」・・・とまさに巨匠中の巨匠ですが、2015年6月に飛行機事故で亡くなり、本作が彼の遺作となってしまいました。

 「七人の侍」が西部劇と決定的に異なるのは、封建時代の日本の侍と農民は身分違いであり、農民が金で武士を雇用する、などというのが本来は非常識。そもそも、そこを乗り越えて共闘することが難しい、という要素です。ここがストーリー的にも面白いわけですが、やはり西部劇だとそのへん、あまり深くならないのは致し方ないですね。別にガンマンと町の農民で、どちらが偉い、というわけでもありませんので。

 ともかく、フークワ監督もデンゼル・ワシントンも、「この時代に、今後、西部劇が作れるかどうか分からないから、とにかくやった」と発言しているようです。本当にそれはその通りで、特撮が通用せず、ひたすらきついスタントやトレーニングで昔ながらの撮影をするしかない西部劇は、なかなか新しい作品が作られないジャンルとなってしまいました。これは日本の時代劇もそうでしょうが、やはり志のある人たちが作り続けていかないと、ノウハウが廃れてしまう分野じゃないでしょうか。そういう意味でもまことに貴重な一作だと思います。

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