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2017年2月 4日 (土)

【映画評 感想】ドクター・ストレンジ

 引く手あまた、今を時めく俳優の一人であるベネディクト・カンバーバッチですが、ついにマーベル・シネマティック・ユニバースの世界に登場! 同シリーズの通算14作目「ドクター・ストレンジ」Doctor Strangeで主演、ということで、カンバーバッチに以前から注目している我が家としましては、当然、見に行った次第です。Photo


 考えると、テレビシリーズSHERLOCK(シャーロック)のシャーロック・ホームズとか、カーン(スター・トレック)、アラン・チューリング(エニグマ・ゲーム)など、天才的知性を持ち、高慢ちきで鼻持ちならないけれど、孤高の人で、不器用で、カリスマ性の高い魅力的な男、というのをやることが多かったカンバーバッチ。「ホビット」シリーズでの悪龍スマウグ役もまた、そういうキャラの一典型だったといえましょう。してみれば、天才的外科医から稀代の魔術師に転向したドクター・ストレンジというのは、まさにこの人のための役柄、という感じがあります。実際、もしカンバーバッチ以外の人がやったら、本当に単なるイヤなヤツ、身の程知らず、井の中の蛙・・・というキャラになりかねなかったと思われます。多忙を極めるカンバーバッチに三顧の礼を尽くし、テレビシリーズ続行中のSHERLOCKの制作サイドにも協力してもらい、なんとかスケジュールを調整して出てもらった、という関係者の努力が実った作品といえるのでしょうね。

 

 天才神経外科医の名をほしいままにしているスティーヴン・ストレンジ(カンバーバッチ)。今日もER(救急救命室)で、元恋人で同僚のクリスティーン・パーマー医師(レイチェル・マクアダムス)の懇願を受け入れ、主治医のウェスト医師(マイケル・スタールバーグ)の意向を無視して難しい手術を強行、見事に成功させます。

 地位、名誉、金銭をすべて手に入れ、成功街道をひた走り、いささか天狗になっているストレンジですが、あるパーティーに向かう途中、自慢のスポーツカーの運転を誤り崖から転落、九死に一生を得る重傷を負い、人生は暗転します。

 病院でウェストが救急処置をしましたが、彼の手に負えるものではなく、ストレンジは外科医として致命的な、両手の自由を失います。ストレンジは、あらゆる方法を駆使して手を治そうと試みますが、ついに望みを絶たれ、すべての財産も使い果たしてしまいます。ずっと見守ってくれたクリスティーンに八つ当たりして彼女も離れていってしまう始末。そんな中、ストレンジは担当の療法士から、脊髄を損傷しながら奇跡的に全快した人物がいると聞かされショックを受けます。その男、バングボーン(ベンジャミン・ブラット)はストレンジに、ネパールの「カマー・タージ」という秘密の僧院に行けば、回復の見込みがあると告げます。

 オカルト的な話には本来、懐疑的な唯物論者のストレンジですが、今はそんなことをいっている余裕はなく、ワラにもすがる気持ちでネパールに。そこで悪者に襲われて危ないところ、謎めいた男モルド(キウェテル・イジョフォー)が助けてくれ、カマー・タージに案内してくれます。そこで出会ったのは、何千年の時を生きていると思われるケルト人女性の大魔術師、エンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)でした。彼女は、傲慢で物質に偏重した考え方に満ち満ちているストレンジに、宇宙と生命の壮大な秘密を見せつけ、並列する多元宇宙の中に存在するこの物質世界はほんの一部でしかない、という真理を告げます。初めは受け入れられなかったストレンジですが、幽体(アストラル体)となって身体から離脱する経験を経て、いったん、その正しさを理解すると、エンシェント・ワンを師として仰ぎ、元より優秀な人物であるがゆえに、次々に奥義を学んでいきます。あまりに先走ったことを学ぼうとするあまり、書庫番のウォン(ベネディクト・ウォン)にたしなめられたりもしますが、短い期間にストレンジは多くのことを身に着け、エンシェント・ワンも彼の才能を認めるようになります。

 ところで、エンシェント・ワンには、かつて愛弟子であるカエシリウス(マッツ・ミケルセン)という男がいました。カエシリウスはその後、カマー・タージを離れ、暗黒の宇宙の意志であるドゥマムゥを信奉するように。彼はウォンの前任の書庫番を殺害してエンシェント・ワンの蔵書を盗み出し、禁断の儀式を行ってドゥマムゥをこの世界に導き入れようと画策していました。

 ロンドンのエンシェント・ワンの拠点を襲ったカエシリウスの一味を、たまたまそこに居合わせたストレンジがたった一人で迎え撃つ羽目になりますが、戦闘の経験のない彼はいきなり大ピンチ。カエシリウスの部下ルシアン(スコット・アトキンス)の攻撃で瀕死の重傷を負ったストレンジは、魔術を使ってアメリカの病院に飛び、クリスティーンに助けを求めます。しかしそこにアストラル体(幽体)となったルシアンが現れ、今度こそ絶体絶命に。ドクター・ストレンジは危機を脱し、世界がドゥマムゥの手に落ちるのを阻止出来るのでしょうか・・・。

 

 というような展開で、もう現在の映像技術の限界、というような、ほかで見たこともないような映像が次々に飛び出します。スピリチュアル世界そのものを扱った内容であり、また宇宙と生命の神秘そのものを扱っているテーマでもあり、ちゃちな視覚効果では子供だまし、という感じになりかねません。マーベルがこの題材を14作目まで温めていたのも、技術的な進歩がやっと、やりたいことに追いついた、ということだと思います。

 これを見せられると、ああ、よくいう「幽体離脱」という経験は、本当にきっとこうなのだろうな、というものすごい迫真性があります。ずいぶんそのへんのスピリチュアル的知見も研究して作られた映像なのだろうと感心します。

 原作コミックでは老人の男性であるエンシェント・ワンを大胆に女性にするとか、本来、悪役であるモルドを、少なくとも最初はストレンジの最も頼れる兄貴分として設定するとか、この映画ならではの変更点がいろいろありますが、これも計算しつくされてのことと思われ、非常によく出来ているな、と思いました。

 監督はスコット・デリクソン。キアヌ・リーヴス主演のSF「地球が静止する日」がいちばんよく知られている作品でしょうが、その他の作品ではホラーやオカルト系のものが多く、ジェリー・ブラッカイマー製作の実録ホラー「NY心霊捜査官」を監督して話題を呼ぶなど、実は心霊系が得意な監督です。そんなデリクソン監督が本作に大抜擢されたのも理解できます。実際、単なるヒーロー・アクションもの、という枠では捉えられないのがこのドクター・ストレンジという作品だと思われます。

 音楽も凝っていて、全体の担当はマイケル・ジアッチーノ。スター・ウォーズの新作「ローグ・ワン」もこの人のスコアでした。ちなみにこの人、テレビゲーム「メダル・オブ・オナー」で有名になってから映画音楽の世界に参入し、「カールじいさんの空飛ぶ家」でアカデミー賞を受賞、その後も「ミッション・インポッシブル」シリーズを手掛けるなど、今、最も注目される作曲家です。また挿入曲も興味深く、手術のシーンでかかる曲はアース・ウィンド&ファイアーの「シャイニング・スター」、車の運転中に流れるのがピンク・フロイドの「星空のドライヴ」・・・ストレンジは70年代ぐらいの楽曲が好きなわけでしょうね。

 カンバーバッチの説得力ある演技はもちろん、アカデミー女優のティルダ・スゥイントンや、「ローグ・ワン」でも演技が絶賛されたマッツ・ミケルセンといった実力派が固めて、決して子供向けの浅いコミック作品という感じにしていません。非常に深遠な哲学的な作品に仕上がっております。といって、娯楽作品としても極上で、アベンジャーズ・シリーズとの絡みもしっかり配置されており(ワンシーンですが、「マイティ・ソー」のクリス・ヘムズワースも登場します)まことに良くできた作品でした。

 そのヘムズワースの登場シーンでは、ソーの弟、ロキ(トム・ヒドルストン)の名前にわざわざ言及。次作ではこのへんと絡むのでしょうか、楽しみですね。

 そうそう。マーベルの総帥で、全ての映画にワンシーンは出ているスタン・リー氏(なんと94歳)が本作にも登場! ロンドンのバスの座席で、オルダス・ハクスリーの『知覚の扉』The doors of perceptionという本を読んでいる老人、という役柄でカメオ出演していますよ。この本というのは、『すばらしい新世界』などで知られる作家ハクスリーが、自身のメスカリン(幻覚剤)体験を描いたもので、人間の知覚がごく制限されたものしか認識していない、ということをテーマにした内容です。同書の題名が、ロックバンド「ドアーズ」の名前の由来であるのも有名な逸話です。

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