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2017年1月 4日 (水)

【映画評 感想】ヒトラーの忘れもの

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 この1月3日、
2017年の「初映画」として「ヒトラーの忘れものLAND OF MINE」という作品を観賞いたしました。新年早々に見る映画としては甚だ陰惨な内容でしたが、しかし素晴らしい作品です。ぜひ多くの方に見ていただきたい一作です。銀座・和光のすぐそばの映画館「シネスイッチ」で公開しています。

 本作はデンマーク・ドイツ合作映画でして、デンマーク語の原題はUnder Sandet(砂の下)。ドイツ語の原題は Unter dem Sand – Das Versprechen der Freiheit(砂の下―自由への約束)というもの。そして、英語のタイトルLAND OF MINEは「地雷の地」というような意味合いです。このMINE(マイン、ドイツ語読みではミーネ)は地雷を意味する単語で、本作の隠れた主役です。第2次大戦中のドイツ軍の42年型対戦車地雷Tellermine 42 (T.Mi.42)や、対人地雷SミーネS-Mineが多数、登場します。

 邦題の「ヒトラーの忘れもの」というのは、なかなか秀逸だと思います。日本の場合も、捕虜となった日本兵が旧ソ連に強制労働させられたシベリア抑留がありましたが、本作で取り上げるのは、戦後になってデンマークの地雷除去を強制されたドイツの少年兵たちの物語です。よって、ヒトラーの忘れもの、とは、ドイツ敗北後もデンマークの海岸線に残されたドイツの地雷を表すと共に、祖国ドイツから見捨てられた少年兵たちを示すともいえます。

 大戦中、北欧進出を狙ったナチス・ドイツ軍は、足場として1940年にデンマークに進駐します。この際、デンマーク王国は何もできないまま、無抵抗でドイツ軍の軍門に下ってドイツの保護国となったため、王室が海外亡命することも、国軍が徹底抗戦することもありませんでした。つまり、デンマークから見るとナチス・ドイツは普通の意味で交戦国ともいえず、非常に微妙な立場となってしまいました。

 そのため、1945年にドイツが敗北し解放されたデンマークでは、この地域を管轄したイギリス軍の意向が大きくものを言いました。戦時中、連合軍の反攻を恐れたドイツ軍は、デンマークの海岸線に、実に200万個以上の地雷を敷設しました。これを除去するのには膨大な労働力と費用、時間を要しますが、英軍はデンマークに対し、地雷の除去を国内に残って武装解除されたドイツ兵たちにやらせることを提案します。戦争の捕虜を強制労働させることは国際協定違反ですが、この場合、デンマークから見てドイツ兵は戦時捕虜といえない、というのがその根拠でした。本来、後々になって面倒な国際問題になりかねない話ですが、デンマークとしては英国の「命令」を拒否する立場にはありませんでした。

 こうして、2000人を超えるドイツ兵が戦後も(建前としては自発的に)デンマークにとどまり、危険な地雷除去作業を強制されることとなりました。ドイツ軍のデンマーク占領部隊は後方任務だったために、二線級の兵力ばかりでした。ゆえに強制労働させられた兵士たちはプロとは言えず、ほとんどがヒトラー・ユーゲント(ヒトラー少年団)から徴兵され、急ごしらえで編成された国民擲弾兵Volksgrenadierに属する1318歳の少年兵たちだったと言います。

 デンマークとしては、自分たちの国の戦時中の不甲斐なさや、ドイツ軍への憎しみ、そして英国への卑屈な感情・・・さまざまなものが交じり合ったため、少年兵たちは歪んだ憎悪のはけ口の対象となり、1000人を超える者がここで悲惨な最期を遂げたそうです。

 

 1945年5月、ナチス・ドイツが降伏し、デンマークのドイツ兵たちも武装解除されて祖国に戻っていきます。その中に、ドイツ兵への憎しみを露わにするデンマーク軍のカール・ラスムスン軍曹(ローラン・ムラ)の姿がありました。

 デンマーク陸軍の工兵指揮官エペ大尉(ミケル・ボー・フルスゴー)は、ドイツの少年兵を集めて、地雷除去作業の訓練をさせます。慣れない仕事であり、すでに訓練中に地雷で爆死する者も出る中、エペは非情に少年たちをしごきます。

 そして、ある海岸に配属された11人の少年たちを監督することになったのが、エペの部下であるラスムスン軍曹でした。ラスムスンは、海岸に埋められた地雷をすべて除去したら、祖国に帰してやる、と少年たちに約束します。少年兵の中でも、将校だったヘルムート(ジョエル・バズマン)と人望のあるセバスチャン(ルイス・ホフマン)の間で対立が深まり、まともに食料も配給されない中、病気や飢え、疲労が重なり、やがて地雷で爆死する者もあらわれます。この過酷な状況を見て、初めはナチスに対する憎しみにかられ、彼らに辛く当たっていたラスムスンも、一人の人間として疑問を抱き始めます。祖国の戦争犯罪の償いをこの少年たちだけに一身に負わせる一方、自分たちはなんの責任も負わないデンマーク軍部の方針に、です。

 多くの犠牲を払いながら、ついにその海岸の地雷除去を完了した少年たちに、悲劇が待ち受けていました。さらに、少年たちへの「自由の約束」を踏みにじるような事態に・・・。少年たちは本当に祖国に帰ることができるのでしょうか。そして、最後にラスムスン軍曹がとった意外な行動は・・・。

 

 ということで、ひたすら陰惨なお話なのですが、デンマークの海岸線は抜けるように青い空と海、白い砂浜が広がっており、対照的なトーンです。本作は各映画賞で絶賛され、東京国際映画祭でも「地雷と少年兵」という仮タイトルで上映されました。アカデミー賞海外作品賞の候補作品にもなっています。

 衣装デザインも各賞を受賞するなど評価されていまして、少年兵たちの服装や、デンマーク軍兵士の軍装なども非常によくできています。

 まず、ラスムスン軍曹はデンマーク軍の兵士でありながら、英国軍空挺部隊の赤いベレー帽に、空挺部隊の徽章を付けた英国のバトルドレス(戦闘服)を着て、連合国を意味する星のマーク(本来、米軍のマークですが、この時期には西側連合軍一般を示す標章として使用されました)を付けたジープを乗り回しています。彼の立場は独特で、おそらく戦時中は英国に亡命して英軍兵士として戦い、エリート部隊である空挺部隊で活躍、祖国に英雄として帰ってきた、という設定です。だから、戦争中も何にもできずに傍観していたと思われる上官のエペ大尉やほかの軍人が、デンマーク軍の通常軍服を身に付けているのと際立った対照を見せています。ラスムスンと、他のデンマーク軍の将校たちとは微妙な力関係にあります。ラスムスンは軍人としては下士官に過ぎない一軍曹ですが、ドイツ軍との実戦を経験し、戦勝国の兵士として凱旋した人間であり、戦時中に何もしなかった軍部の上官たちに対しても物怖じしません。一方、エペ大尉たちの方も、英国帰りの軍曹に屈折した感情を抱いており、煙たく思っています。そのへんの人間関係も、この作品を深いものにしています。

 少年兵たちは当然、いろいろな部隊から集められた、という設定であり、同じ少年兵と言っても、国民擲弾兵の腕章を付け、立派な正規軍将校用の軍服に少尉の階級章を着けているヘルムートと、まだヒトラー・ユーゲントの黒いスカーフを首に巻いているセバスチャンの服装の対照性など、その人の立場を示す細かい設定がなされています。

 出演者たちは、長編映画初主演のムラをはじめ、ほとんどが無名の新人です。特に少年兵役にはドイツでキャスティングされ、全く演劇経験のない子供たちも含まれますが、そこに非常にリアリティーがあります。慣れない任務に駆り出される経験不足の少年兵、という役柄そのままだからです。

 ドイツの少年兵の悲惨を扱う映画では、過去にも名作「橋(ブリュッケ)」がありましたが、本作で扱うのは、戦後になってドイツとデンマークの友好関係の中で、両国のどちらの国民からもタブー視され、やがて完全に忘れ去られてしまった「不都合な真実」です。これを世に暴き出した問題作として、大きな反響を呼んだものです。

 なお、本作で名を上げたマーチン・サントフリート監督、次回作はなんと日本を舞台にするそうです。アカデミー俳優ジャレッド・レトや、浅野忠信を主演に据えて製作中で、今度は日本の戦後を背景にしたものになるとか。それはぜひ見てみたい作品ですね。

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