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2016年11月 2日 (水)

欅坂46の帽子と「ナチスのワシ」の意味。

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 アイドルグループ「欅坂46」がハロウィーンで使用した衣装が、ナチス親衛隊を思わせるとして問題になりましたね。ナチス親衛隊というのは、ドイツ国家の正規軍ではなくて、ヒトラーの個人的な私兵部隊です。
 それで、私も軍装史と服飾史の研究家として、「どれだけ似ているのだろう」と思ってみてみたのですが、正直のところ、黒いワンピースとマントは平凡なもので、あれだけなら全く問題にならなかったでしょう。確かにナチス親衛隊と言えば黒地に銀の装飾ですが、それがダメだと言ってしまったらリクルートスーツだってダメということになりかねません。
 完全にアウトだったのは制帽型の帽子ですね。これも、ああいう型の帽子そのものは、19世紀以来、世界中で使用されている帽子なので、特に問題ではない。あれがダメなら警察も消防も鉄道員もダメということになります。20161102131840



 決定的にアウト、なのは帽子の正面に付いていた「銀色のワシ」、ですね。あれは確かにどうしようもない。いわゆるナチス型のワシです(ただ厳密に言えば、親衛隊型ではなくて、国防軍型のワシ)。デザイナーさんは不用意だったですね。もちろんナチスのワシは、脚で例のハーケンクロイツ(鉤十字)をつかんでいます。欅坂の物はよく見ると、あの部分をほかのマーク、欅坂を意味するKでしょうか、に差し替えている。鉤十字を使っていないから大丈夫だろう、と判断したのでしょうが、いかになんでもあのタイプのワシで、黒地に銀色、というのは、確かに似過ぎていると思われてしまいそうです。

 さて、あのワシは何の意味かと申しますと。
 「軍装・服飾史カラー図鑑」の188ページ上、185ページ下、183ページ解説、189ページなどに書きましたが、あのワシは「帝国」の象徴です。単なる世襲の王政ではなくて、基本的には共和制を前提として、選挙で選出された皇帝をいただく国家が、あれを継承するのです。
 そもそもは古代ローマ帝国の国家章でしたが、その後、その流れをくむ、あるいはその精神を汲むとする国家がワシを国家章にしてきました。ロシア帝国、ナポレオン帝国、歴代のドイツ帝国などです。アメリカがワシを用いているのも、インディアンがもともとハクトウワシを崇めていたことも理由の一つとしていますが、古代ローマ帝国の影響下にあるのは明白です。
 そして、ナチス帝国もこれを流用し、ワシがハーケンクロイツ(鉤十字)をつかんだマークを採用しました。少なくとも1923年にはナチ党として使用し始め、問題になっている黒い親衛隊制服としては1932年、そしてナチス政権樹立後の1934年になると、本来、ナチ党と関係のなかった国家の正規軍(国防軍)の制服にも付けるようになります。20161102131937



 今回の欅坂の制服の帽子についているワシは、どう見てもナチス型のワシなので、言い逃れできないのは無理もありません。

 なお、ローマ帝国以来の歴代のワシの国家章・・・ナチス型のものは、非常にデザイン的に特徴があり、直線的なデザインとなっております。アメリカをはじめ、ほかの国家のワシ(場合によっては双頭のワシ)は、もうちょっと翼や形状が丸いというか、柔らかい。よって、ワシのマークそのものは別にアウトではないのですが、ああいう直線的なデザインで、下部に丸いマーク(本来ならそこに鉤十字が付く)のワシは「ナチスのワシ」と見なされてしまうのは致し方ない感じがします。ゲンダイの記事はあくまで記者さんがまとめたもので、私は事前に点検しておりませんが、ちょっと一読すると「ワシはナチスなのでアウト」とも読めてしまいますが、私が言った趣旨は少し違います。「ああいう直線的なデザインのワシはナチス独特のワシなのでアウトである」という方が正確です。さらに追加するなら、「帽章としてワシを用いることは、アメリカをはじめごく普通に行われているが、帽子のあの位置に独立したワシの徽章を付けるのは、ナチス時代の制服の特徴なのでやめた方がいい」ということもいえます。すなわち、ワシのマークはなんであってもすべてダメ、ということではない。

 ただいずれにしても、ワシは「帝国」の意味合いが強いので、そのへんの普通のファッションに、安易にかっこいいという理由だけで取り入れるのは、そもそもお薦めしません。当然ながら、欧米人はこのへん、日本人よりずっと知識があります。だから日本のデザイナーさんはもっと歴史を勉強してほしいし、自信がない場合は知識のある人に見てもらうべきだと思いました。
 
 ぜひ、「軍装・服飾史カラー図鑑」を読んでいただきたいですね(笑)。一般の方々が詳しく、こんなマニアックな知識を知るべきだとは言いません。でもデザイナーと名乗るような方は勉強しておく必要があると思います。

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コメント

妙な理屈ですね。ロシア ナポレオン ドイツ アメリカが採用してるなら
平凡なデザインて事。大正製薬も鷲のマークだし。

手を上げてる有り勝ちなポーズをあとからナチスと言ったり 一部の人しか知らないマークを詳細に調べ上げてからあたかも世界の常識であるかのように語ったりと アイドル叩きありきでのネットでの言い掛かりと全く変わらない。

秋元氏と懇意にしてる安倍首相、その反安倍派のネットでの執拗な秋元攻撃が騒ぎの発端でしたが、「外人の言い分」にすぐに迎合してしまう日本人の悪い癖がでてしまってるようにみえますね。

投稿: はちゃく | 2016年11月 6日 (日) 20時48分

はちゃく様

 コメントありがとうございます。実はあの記事は、ちょっと私が発言したこととずれている点がありまして、ワシそのものは古代ローマ以来の普遍的な紋章である、というのはご指摘の通り。
 しかし、今回問題になったマークは、直線的で、下部に丸い紋章の付いた「ナチス型」のワシに似ているのが問題になったのだろう、という趣旨でした。しかし記事を読むとワシ=ナチス、というように読めてしまい、私も不正確かつ論点が矛盾しているように感じました。その意味で仰せの通り、妙な理屈となっていたかもしれません。

 また、私はむしろ恐れたのは、ああいう流れの話が続くと、「なんとなく似ている」といった印象論だけで黒い服はナチスだとか、ああいう帽子はナチスだとか、どんどん極端な話になりそうだった点です。それで、ゲンダイの記者さんから質問があった際に、全体にはなんの問題もない服装であって、あえて問題があるなら帽子のあの位置に、ナチス型のワシがあることだ、と指摘したまでです。

 なお、欅坂46の皆さんについては、彼女たちにはなんらの責任も落ち度もなく、お気の毒だと思っております。それはそれとして、私は質問を受けたので、気がついたことを申し上げた、という次第です。

投稿: 辻元よしふみ | 2016年11月 6日 (日) 21時02分

辻元様 批判的な書き込みがあったようですが、私は辻元様の指摘がなければ、あの問題のどこが決定的な「アウト」な点だったか分かりませんでした。黒い服はいけないのか、マントもいけないのか、とまさに思っておりました。それで、全体には何の問題もなく、たった1か所、「ワシ」がナチス式のワシなのが反論できない部分だった、というご説明で、ああ、いけないのはデザイナー個人の不勉強で、欅坂46全体の問題ではないのだな、と理解できました。けして一部の人しか知らないマニアックな話で片づけない方がいい視点だと思いましたよ。それに、辻元様は現に防衛省に出入りされている方であって、現政権へのスタンスは知る人は知ってますんで、辻元様がまるで反安倍政権的な意味合いでこんなことを書いているわけでないことは、知っている人は知っています。最初のコメントしている人もちょっと偏ってるので気にしないことです。あと、「手を上げてる有り勝ちなポーズ」だって、初めから振付師は付けない方がいいですよね。そのぐらいの用心深さがなければ、このネット時代にアイドル・ビジネスなんて出来ないと私は思います。

投稿: ヒンデンブルク | 2016年11月 6日 (日) 22時43分

ヒンデンブルク様

コメントありがとうございます。私の意図を汲み取っていただきまして、恐縮でございます。仰せの通りでして、私も中央省庁にも出入りしておりますので、あまりこれ以上に何か差し出たことは申さないつもりでございます・・・ただいただいたお話で追記すれば、ドイツ本国では授業中に先生に挙手するときですら、指を伸ばしてはいけないそうでございます。拳を握りしめてから、指を一本立てて、挙手するそうでございます。そのぐらい徹底しております。もはや欧州では、「ありがちなポーズ」では済まないのだそうでございます。なお、さらに追記いたしますが、その後、道草様からのコメントにより、「欅坂46のデビュー曲『サイレントマジョリティー』の振り付けに含まれる右腕を高く上げるポーズは『モーセの海割り』をモチーフにしているという事を振り付けを担当したTAKAHIRO氏が以前から話しておられます、その振り付けの意味についても、ナチス式敬礼をモチーフにしている訳ではない」とのご指摘がありましたので、ここで合わせてご紹介します。このように、なんとなくカッコいいから、といったいい加減なものではなく、明確な根拠や意図を示せるのなら、冷静に、堂々と外国の方にも反論できるわけで、相手だってきちんと理解してくれるはずなのでございます。
 
 日本も、沢田研二さんの例以外にも、ステージ衣装や、人気マンガの登場人物、特撮ものの敵キャラなどで、そのものナチスというものが70年代から80年代まではごく普通にありました。海外でも、レッドツェッペリンのジミー・ペイジなどは親衛隊の帽子を被ってステージに立ったことがございいます。当時においては、あくまでもドイツ国内の規制であったと申せます。国境を越えればそんなにうるさくなかった。
 もちろん、日本の情報も日本語の壁に阻まれて、良くも悪くも、全く海外に拡散しなかった、おおらかで古き良き時代だったのでございます。80年代までは、ナチスはしょせん外国のもので、敗戦国日本としては、むしろ旧日本軍ものの方がタブーだったと思います。

 これが窮屈になってきたのは、95年のマルコポーロ廃刊事件当たりからだと思います。あのあたりから、外国の方々も日本国内の情報をよく把握するようになってきました。それ以後は、年々、窮屈になり、そしてネット時代となり、日本の国内法ではわいせつな服装でない限り、何を着ようが本当は全く問題ないわけですが、そろそろコミックマーケットでの仮装レベルでも、ナチス物は厳しくなってきそうな案配でございます。このへんは、もはや世界の趨勢なので、逆らってみてもどうにもならない、と思う次第です。
 
 

投稿: 辻元よしふみ | 2016年11月 6日 (日) 22時57分

基本的には辻元さんの主張を支持します。
ただコメント欄に「なお、欅坂46の皆さんについては、彼女たちにはなんらの責任も落ち度もなく、お気の毒だと思っております。」とコメントされていました。
仰る意味は理解できます。彼女達は新人のアイドルだからという事でしょう。しかしこれは小学校の学芸会ではありません。彼女達はお金を貰ってプロの芸能人として芸能活動をしているのです。ですからプロとしての配慮・自覚・覚悟が求められるのです。しかし彼女達はそれらを持ち合わせてはいなかったという事で厳しい言い方ですが今回の件で彼女達はプロでは無かった事が露呈してしまったのです。当然ながら最も責任があるのは衣装担当の人達でしょうが、唯々諾々と着てしまった彼女達に問題がないとは言えないと思います。

投稿: ササヤキオカミ | 2016年11月10日 (木) 01時34分

ササヤキオオカミ様

 コメントありがとうございます。仰ることは正論と存じます。プロであるからには、自分たちのパフォーマンスや衣装について、本人たちも無自覚であってはいけない、というのはその通りでございましょう。「大人たちの言うことを鵜呑みにしないで、自分たちで考えよう」というような歌詞が「サイレントマジョリティー」という曲にはあるようでございますが、まさにその通りなのかと思います。

 しかし、まず今回の件では、どういう経緯であの衣装を着たのか、私には全く分かりません。たとえば御本人たちが「この服装には問題はないのか」といった確認を事前に運営側に求めたのか、求めなかったのか、あるいは疑問を持った人がいたのか、いなかったのか・・・こういう部分は私には分かりません。

また、今回の件は、結局、単なるファッション的な視点では不足であって、私のようなかなり専門的な研究をしている者でないと、どこが問題であるのか、具体的に指摘できないような案件であったようで、新聞社から私に依頼があったのも、「日本人の普通の感覚では、なぜ外国人があんなに批判をするのかが理解できないので、教えてほしい」ということだったと思われます。そういうレベルの自己検閲を本人たちに求めるのは、現実的には難しいのではないでしょうか。普通に考えて不謹慎と分かるレベルの衣装なら、本人たちも拒否できるでしょうが、今回のような、細かいディテールのチェックというレベルの問題になると、運営側の責任が大きいと認識しております。

そういう意味で、こういうものを扱う場合には、専門的な立場の人の意見を聞いた方がよいのではないか、と考えております。

投稿: 辻元よしふみ | 2016年11月10日 (木) 11時27分

お返事を頂き、ありがとうございます。辻元さんよりあの衣装を着るに至った経緯や御本人たちが確認を求めたか、疑問を持った人がいたかが分からないとの事。当然だと思います。何故なら秋元氏・運営側は非を認めて謝罪はしましたが経緯の詳細をコメントする事もありませんでしたし、今後の対策についても秋元氏がチェックしますだけでした。もちろん秋元氏がチェックする事も良いですが秋元氏にチェックされなければ気付かない事が大きな問題なのです。また御本人たちは今のところ一切コメントしていないようですから御本人たちが確認を求めたか疑問を持ったのかも分からないままなのです。このような事後の対応を見ていても事の本質を考えているのではなく、批判を受けたからさっさと謝罪して騒動を収束させようと考えているとしか思えません。つまり知らなかっただけではなく、批判を受けてから(つまり知ってから)の対応も問題であると思います。今現在、欅坂のメンバーが自分達の着用した衣装が批判を受けている事を知らない訳がないでしょう?それでも彼女達は対外的には口を閉ざして何もコメントしていないのです。それからあの衣装について専門的な研究をしていないと指摘できないとの事ですが、私はファッションの専門でも何でもあませんが、あの衣装を見ればナチスの軍服をモチーフにしたのだなと分かりますよ。例えばあの衣装を街角で見せて「どこの軍服だと思いますか?」とアンケートを取れば多くの方はナチスの軍服と言うと思うます。もし欅坂のメンバーが全く分からなかったとしても今現在は分かっているはずなのだからブログでも何でも良いから衣装についてのコメントをすべきだと思います。衣装を着た当事者なのだから。

投稿: ササヤキオカミ | 2016年11月10日 (木) 22時05分

先程のコメントで言い忘れていたのですが、私はあの衣装を着用する事が絶対に悪いとは言うつもりはありません。私は着ませんが。例えば鉤十字や鉄十字を使えば批判を受けるでしょうが鉤十字は完全なコピー(パクリ)だし、鉄十字もナチスドイツができるよりも前から使われていたものです。例えば六芒星を旗印にしたテロリストができて多くの人々を殺害したらイスラエルは国旗から六芒星を消すかと言えば絶対に消さないと思います。つまりマークや衣装が悪いのではなく非人道的行為が悪いという考え方です。そしてそのような考え方があっても良いと私は思います。

投稿: ササヤキオカミ | 2016年11月10日 (木) 22時19分

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