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2016年11月 5日 (土)

日刊ゲンダイに「欅坂46の衣装 どこがアウトなのか」掲載。

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 本日、発売の「日刊ゲンダイ」
11月7日号(週末特別版)、4ページ下の「街中の疑問」コーナーにて、私、辻元よしふみが「欅坂46の衣装 どこがアウトなのか?」という記事でコメントしておりますので、ご覧いただけましたら幸いです。

 記事の一部を紹介しますと・・・。

「『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)の著者で服飾史評論家の辻元よしふみ氏はこう分析する。・・・ワンピースやマントは確かに黒色で、ナチスの親衛隊をイメージさせなくもありませんが、デザイン的にはごく平凡。帽子もどこにでもある19世紀以来の官帽子で、これがダメなら世界中のお巡りさんや警備員が訴えられます。ただ一点、帽子に付いていた“銀色のワシ”が決定的にアウトです」

「ワシのマークは・・・辻元氏によれば、そもそも古代ローマ帝国の国家章で、その後、ロシア帝国やナポレオン帝国、ドイツ帝国などが採用。米国がワシを用いているのもその影響だ。ナチス帝国もこれを流用。ワシが鉤十字をつかんだマークを親衛隊や国防軍の制服に採用したといういきさつがある」Photo_7


「・・・ナチスのワシは足で輪の中の鉤十字をつかんでいますが、欅坂46のものは鉤十字を他のマークに差し替えています。デザイナーは“鉤十字を使っていないから大丈夫”と判断したのでしょうが、軽率でしたね」

「もし意図的な差し替えなら、それがナチスのマークで、“そのまま使ったらやばい”ということを把握していた証拠だ。過去には沢田研二も“そのまんま”な衣装を着てトラブルになった。写真や映像があっという間に世界中に拡散される今、・・・これからの忘年会シーズン、そのコスプレがアウトかセーフか、着る前に冷静に考えた方がよさそうだ」

 

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 (写真は上から、1978年のヒット曲「サムライ」の舞台衣装を着た沢田研二氏、ナチス第三帝国、古代ローマ帝国、ロシア帝国、ナポレオンのフランス帝国、ドイツ帝国、アメリカ合衆国のワシ)

 ということで、あくまでも「あの衣装」のどこがアウトなのか、について語っております。私はあくまで服飾史と軍装史の研究家ですから、欅坂46のその他の要素、歌詞とかパフォーマンス、全体のイメージなどについては承知しておりません。なんでもナチス式敬礼のような右腕を高く上げるポーズも披露していたように聞きますが(追記:その後、道草様からのコメントにより、「欅坂46のデビュー曲『サイレントマジョリティー』の振り付けに含まれる右腕を高く上げるポーズは『モーセの海割り』をモチーフにしているという事を振り付けを担当したTAKAHIRO氏が以前から話しておられます、その振り付けの意味についても、ナチス式敬礼をモチーフにしている訳ではない」とのご指摘がありましたので、ここでご紹介します。道草様、ありがとうございました)。しかしおそらく、アメリカのユダヤ系団体サイモン・ヴィーゼンタール・センターも、日本のアイドルグループについて詳しく知っているわけはなく、最初はツイッターやブログに載った写真だけを見て「アウト」と判断したはずです。そして、彼らだって無闇に文句を付けて、逆に難癖だ、と反論されてしまっては元も子もないので、決定的にアウトだから自信を持って批判を始めたはずです。その決定的な部分は、どう見ても「ワシ」である、と申している次第です。仮にあの部分に、たとえばオレンジ色のカボチャとか、お化けとか、または漢字で「欅坂46」などと書いてあったとしたらどうでしょう? 少なくともアウト、というには根拠が薄弱で、また欅坂サイドもそれなりの反論が出来たに違いない。
 なお、私は欅坂メンバーの皆さまは気の毒な被害者だ、と思っております。本人たちには、なんらの落ち度もない。私は、問題があったのはあのワシのデザインだけである、と申しているわけでして、要するにデザイナー個人の不勉強が最大問題である、と言いたいのであります。仮にあのワシが、たとえば同じくワシであってもアメリカ軍のワシだったら?(それはそれで、なんの意味があっての意匠かは意味不明でしょうが)、しかし少なくとも在米の団体は抗議の対象にできなかったでありましょう。

 

 なお、ローマ帝国以来の歴代のワシの国家章・・・ナチス型のものは、非常にデザイン的に特徴があり、直線的なデザインとなっております。アメリカをはじめ、ほかの国家のワシ(場合によっては双頭のワシ)は、もうちょっと翼や形状が丸いというか、柔らかい。よって、ワシのマークそのものは別にアウトではないのですが、ああいう直線的なデザインで、下部に丸いマーク(本来ならそこに鉤十字が付く)のワシは「ナチスのワシ」と見なされてしまうのは致し方ない感じがします。ゲンダイの記事はあくまで記者さんがまとめたもので、私は事前に点検しておりませんが、ちょっと一読すると「ワシはナチスなのでアウト」とも読めてしまいますが、私が言った趣旨は少し違います。「ああいう直線的なデザインのワシはナチス独特のワシなのでアウトである」という方が正確です。さらに追加するなら、「帽章としてワシを用いることは、アメリカをはじめごく普通に行われているが、帽子のあの位置に独立したワシの徽章を付けるのは、ナチス時代の制服の特徴なのでやめた方がいい」ということもいえます。すなわち、ワシのマークはなんであってもすべてダメ、ということではない。

 ただいずれにしても、ワシは「帝国」の意味合いが強いので、そのへんの普通のファッションに、安易にかっこいいという理由だけで取り入れるのは、そもそもお薦めしません。当然ながら、欧米人はこのへん、日本人よりずっと知識があります。だから日本のデザイナーさんはもっと歴史を勉強してほしいし、自信がない場合は知識のある人に見てもらうべきだと思いました。

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コメント

欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティー」の振り付けに含まれる右腕を高く上げるポーズは「モーセの海割り」をモチーフにしているという事を振り付けを担当したTAKAHIRO氏が以前から話しておられます、その振り付けの意味についても。
ナチス式敬礼をモチーフにしている訳ではない事を日本を代表するダンサーであるTAKAHIRO氏の名誉のために書かせていただきます。

投稿: 道草 | 2016年11月 7日 (月) 07時43分

道草様

コメント有難うございます。なるほど、そうでしたか。「モーセの海割り」をイメージしていたのですか。なんとなく付けたポーズでなく、ちゃんと根拠がある、と示せることは素晴らしいことですね。いただいたお話を基に、本記の内容を修正させていただきます。

ナチス型のワシについても、それをハロウィーンの衣装で使用する根拠があって、相手が納得するような正統性があれば、ちゃんと通用したはずでございますね。日本のアイドルは今や世界が注目するものですから、関与する人たちも常に緊張感を持っていただきたいと改めて思います。

投稿: 辻元よしふみ | 2016年11月 7日 (月) 10時30分

日刊ゲンダイ掲載の、少々乱暴な切り口に違和感を感じて、こちらのブログに辿り着きました。
恥ずかしながら、辻元さまの解説を拝見するまで、どういった点が問題視されているのか測りかねておりました。

「『軍帽の特定の位置に、翼の直線的な、鷲の紋章がデザインされている点』が、ナチスドイツを連想させる」という、理解で相違ございませんでしょうか?

私はデザイナーの端くれでございます。ミリタリーとキャラクターの組み合わせは大きな土壌であり、本件は他人事でないと感じておりました。

イデオロギーの対立が感情の氾濫につながっている中、冷静な示唆をありがたく思っています。


追伸−−
デザインをしていますと、各国のイデオロギーやタブーに細心の注意を払うよりは、作品の審美的な部分に注意を払いたいというのが、本心です。

辻元さまのような博学な専門家に、審査機関のような役割を担っていただければ、クリエイターたちは安心して想像の翼を羽ばたかすことができるだろうにと、歯がゆい思いが致しました。

投稿: 風車 | 2016年11月 7日 (月) 19時30分

風車様

コメントを戴きましてまことにありがとうございます。仰せの通りでして、鷲章の形状と位置がよろしくなかった、という認識を持っております。お書きになったとおりのご理解でよいと存じます。制帽のあの位置(クラウン部)に直線的な鷲章を付ける、というのが第三帝国時代の特徴的な識別になっております。

 他国ですと、国家章やその他の意匠と、鷲が一体化したようなデザインの帽章が多く、アメリカ軍のものなどが典型でございます。なぜあの時代のナチス・ドイツにおいて、ああいう鷲の配置が多いかというのも理由があり、つまりドイツ帝国時代までの制帽は、下部(鉢巻き部)に帝国の国家章、上部のあの位置には、それぞれの領邦(つまりプロイセン王国とか、バイエルン王国といった帝国を構成する国家)の国家章を別々に付けていたのでございます。
 
 その後、国家をナチス党が奪い取っていくわけですが、その乗っ取りの結果、上部にあった地方の徽章(つまり地方自治の象徴)を廃止し、ナチス帝国を意味する鍵十字付き鷲章に置き換えたのです。ドイツはもはや、地方に自治権のない全体主義国家である、という意味合いです。そういう、ヒトラーとナチスが国家を乗っ取って私物化した過程が、あの国家章と分離した鷲という配置を生んでおります。

 なお、親衛隊については、初めからヒトラーの私兵組織でありますが、あちらはプロイセン王国以来、存在した近衛軽騎兵の黒い制服を踏襲し、フリードリヒ大王が制定したドクロ章をパクって使用、そして、やはり上部にナチスの鷲を配置しました。こちらは、王政時代以来のエリート部隊のイメージをナチスが乗っ取った証し、といえましょう。

 このように、制帽上部のナチスの鷲は、国家をがんのように浸食していった全体主義の形跡そのものといえるのでございます。

 ところで、全くありがたい仰せを戴き感激しております。私は、まだまだ不十分ながら、お目付け役と言いますか、懇意のデザイナーさんについては、アドバイザーとして活動しておりまして、その中にはコシノジュンコ先生の事務所などもございます。また、中央省庁においての活動も、まさにナチスだけでなく、他国の軍隊や警察はもちろん、国内の他の組織との比較や検討をし、制服や装備の意匠、デザイン、階級章などについて不適切なものは排除するようなアドバイザーとして活動しております。

 出版活動は、何しろ苦労ばかり多く、一冊出すのに三年も四年もかかり、その間は全く収入なし、で持ち出しばかりになりがちです。前の本を出す際は、どうしても実物を見たくなって甲冑や銃器のレプリカを大量に買い込み、大赤字となりました。

 このように労ばかりで報われない研究を続けておりますが、今回のような事例でいくらかでも社会にお役に立てたのなら幸いでございます。風車様も、もし私でアドバイス出来ることがある場合は、微力ながらお力添えしますのでぜひ、お声がけくださいませ。

 ご激励、ありがとうございました。

 

投稿: 辻元よしふみ | 2016年11月 7日 (月) 20時13分

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