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2016年8月 4日 (木)

ターザン REBORN

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 映画「ターザン
REBORN」(原題:THE LEGEND OF TARZAN)を見ました。「ハリー・ポッター」シリーズで知られるデイビッド・イェーツ監督の新作です。

 ターザンと言えば、ジョン・カーターを主人公とするSFシリーズでも有名なエドガー・ライズ・バロウズが生み出した森の王者。誰でも知る物語で、何度も映像化されているわけですが、意外にも今世紀に入ってから本格的な実写映画化はこれが初めて。モーション・キャプチャー技術の進化によって、ターザンと動物たちとのふれあいなども、ごく自然に描けるようになるなど、今の時代にこの題材が取り上げられた必然性が分かる仕上がりになっております。

 

 1885年。ドイツ帝国の成立とフランスの没落など、勢力関係の変化が著しかった時代が本作の背景です。ベルリン協定により欧州列強国のアフリカ支配の図式が定まり、ダイヤモンドやオパールの眠るコンゴ盆地の広大な領地は、ベルギー国王レオポルド2世の私領として認められます。

 しかしベルギー王室は莫大な資産をつぎ込んだものの開発に失敗。負債をなんとしても取り返すべく、有能な外交官レオン・ロム(クリストフ・ヴァルツ)を現地に送り込みます。しかしこのロムは、単に国王のために働く忠臣ではなく、総督となることを夢見る野心家です。ロムは現地の有力な部族長であるムボンガ(ジャイモン・フンスー)と協定を結び、ムボンガが恨みを抱く一人の男を連れてこれば、ベルギー人に協力する、と約束させます。その男とは・・・?

 同じころ、英国政府でもセシル首相(ジム・ブロードベント)がコンゴ問題に介入する糸口を見つけようと思案していました。その思惑に乗じて、現地で奴隷使役や人身売買などの不正が行われていないか査察に入りたいアメリカの外交官ジョージ・W・ウィリアムズ(サミュエル・L・ジャクソン)。首相とウィリアムズが、ベルギー国王の招待に基づくコンゴ査察官になるよう説得している一人の男・・・それは英国貴族院議員にしてグレイストーク伯爵ジョン・クレイトン卿。しかしまたの名を、かつてコンゴの森林でジャングルの王者として君臨した「ターザン」(アレクサンダー・スカルスガルド)その人でした。

 初めは渋るジョンでしたが、ジョージの話を聞いて、現地の人の奴隷化を危惧し、アフリカへ戻ることを決意。やはりコンゴで育った妻のジェーン(マーゴット・ロビー)も、ジョンの反対を押し切って同行することになります。

 しかしこの「ベルギー国王からの招待」というのはロムの陰謀で、狙いはターザンその人でした。奇襲を受けて連れ去られる寸前、ジョージのおかげでジョンは命拾いしますが、ロムの軍隊はジェーンをさらって行ってしまいます。

 ジョンはジョージと共に、ジャングルに分け入り、ロムの後を追います。それはジョンの野生の目覚め、ターザンの復活を意味していました・・・。

 

 というようなことで、今作の特徴は、すでに文明社会に戻って英国の大貴族としての生活になじんでいたターザンが、再びジャングルに戻っていく、という点。だからこの作品のターザンは知性も教養も一流の人物で、単純明快な野生児などではありません。二つの世界に引き裂かれた矛盾ある存在、という原作で提示された通りのイメージで描かれます。いろいろな映画で大活躍する名優ステラン・ステルスガルドの息子アレクサンダーが、高貴さと野性を併せ持つこの人物の魅力を余すところなく好演しています。

 そして、なんといってもクリストフ・ヴァルツです。アカデミー賞を2度もとっているこの人、やればなんでも出来るでしょうが、やはり本作のような「一見、インテリ層で上品な紳士なのだけど、実はとんでもない怪物的な悪党」という役柄が一番、光ります。本作のロムという人物はまさにそのような造形で、ヴァルツが演じなければ成り立たなかったかもしれません。

 サミュエル・L・ジャクソン演じるジョージ・ウィリアムズも興味深い人物像です。博士号を持つアメリカの外交官で黒人、という設定です。しかしそれだけではなくて、映画の時代から20年ほど前には、南北戦争やメキシコ出兵、インディアンとの戦争で、悲惨な戦いを見てきた歴戦の勇士で、射撃の名手でもあります。「散々、インディアンを殺してきた俺は、今のベルギー人と全く同じだ」という彼は、黒人として迫害された立場と、メキシコ人やインディアンを殺害した立場を両方とも経験しており、そしてアフリカでの彼は、先祖がアフリカをルーツにしていながら文明社会の代表者であり、現地の人たちと交わる白人のターザンに比べれば、全くのよそ者です。こういう複雑な人物を配置したことで、作品に厚みが出ました。

 妻ジェーンを演じたのは、近年、注目されるオーストラリア出身のマーゴット・ロビー。生き生きとした演技が本作の魅力を大きく高めています。彼女は間もなく公開の「スーサイド・スクワット」でもヒロイン格で出演しているようです。

 首相役のジム・ブロードベンドは「ムーラン・ルージュ」「クラウド・アトラス」などで知られるアカデミー俳優。脇をしっかり固めて映画の格上げに貢献しています。

 今作は19世紀後半、ヴィクトリア時代を背景としており、ロンドンで主人公たちがまとう衣装は、素晴らしいの一言。ボタン配置がV字に配置される燕尾服など、私は欲しくなってしまいますね。また、冒頭ではベルギー正規軍の兵士たちが登場しますが、よく描けています。あのワンシーンにあれだけの軍服や小銃を用意するのは大変でしょう。

 また、当時の最新兵器としてマキシムが発明したばかりの機関銃が随所に登場します。まさに大量殺戮兵器の元祖である現代型の機関銃が出現したのが1880年代。世相も、戦争の形態も徐々に殺伐として、人間性を失っていく時代を象徴しているようです。

 あの時代の後、英国はアフリカでの勢力範囲を拡大していき、ズールー戦争やボーア戦争へと突入していきます。英国貴族であるターザンも、だんだん難しい立場になっていったのかもしれません。だから、ベルギー人を悪役とした今回の設定はなかなか巧妙だったといえます。実際にいわゆる「コンゴ自由国」ではあらゆる非人道的な政策がとられた、という話がありまして、史実をうまくとらえた脚本には賛辞を贈りたいと思いました。なお、ジョージ・ワシントン・ウィリアムズは実在の人物で、史実でもコンゴでの非道な政策を告発した人物。またレオン・ロムも実在のベルギー軍人で、コンゴで絶大な権力をふるったそうですが、亡くなったのはずっと後年の1924年のことだそうです。

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