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2016年3月25日 (金)

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件

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 イアン・マッケラン主演の「
Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」Mr.Holmesという映画を見ました。サー・アーサー・コナン・ドイルの原作によれば、名探偵シャーロック・ホームズは、1878年ごろから元軍医のジョン・ワトスンと組んで、ロンドンはベーカー街221Bの事務所を拠点に活躍し、ワトスンの書いたホームズものの作品で一躍、有名人になりますが、仇敵モリアーティ教授との戦いの後に失踪。その後に活動を再開し、ワトスンが結婚してホームズの元を離れると、1904年頃には探偵業を引退し、サセックスの田舎で養蜂業を営んだことになっています。しかし、1914年の第1次大戦の時期には、政府に乞われて復帰し、ドイツのスパイ組織を相手にまたも活躍。国王からサーの称号を授かる話もあったのですが、辞退したようです。戦後はフェイドアウトして、いつしか忘れ去られていった・・・そういう感じです。

 さてそれで、本作の舞台というのはなんと、第2次世界大戦後の1947年。ホームズはまだ生きていて年齢も93歳! そして、第1次大戦の後の1919年に、彼が完全な引退を決めた痛恨の「未解決事件」の顛末を振り返っていく・・・そんな流れになっています。

 

 第2次大戦終結から2年がたった1947年。サセックスの田舎に向かう汽車に、93歳のシャーロック・ホームズ(マッケラン)の姿がありました。ホームズは、敗戦後の焼け野原の日本まで行って、梅崎氏(真田広之)の世話になり、記憶力の減退を抑えるのに効果があるという山椒の木を手に入れ、戻ってきたのです。

 久しぶりに家に戻ってみると、家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)は相変わらず気が利かず、その息子のロジャー(マイロ・パーカー)は留守中に勝手にホームズの書斎に入り、書きかけの回顧録を読んでいたことを知ります。しかし、ホームズはロジャーが非常に高い知性の持ち主で、素晴らしい推理力と理解力を持っていることに気付き、気に入ります。

 ホームズが書いている回顧録というのは、30年近く前、1919年に彼が手がけた最後の事件に関するものです。実は少し前に、ホームズの兄で、英国政府で秘密の任務に就いていたらしいマイクロフト・ホームズ(ジョン・セッションズ)が亡くなり、彼が日々を過ごした「ディオゲネス・クラブ」に残された遺品に、かつての相棒ワトスンが書いたホームズものの作品集がありました。ホームズは改めてそれを読み返し、彼が完全引退を決めた1919年の「ケルモット事件」に関する記述が、どうも自分の記憶と合わない、と感じました。さらにワトスンの小説を基にした映画も見ましたが、鹿撃ち帽を被ってインバネス・コートを羽織ったホームズ役の俳優(ニコラス・ロウ)に違和感を持ったばかりか、事件の結末も全く真相と異なっている、と思ったのです。

 しかし、ホームズは記憶力が急速に減退していました。主治医のバリー医師(ロジャー・アラム)が心配するほどの症状で、もはや目の前にいる人の名前すら思い出せない状況。だからこそ、はるばる日本まで行って、特効薬とされる山椒の木を手に入れようとしたのです。

 老いたホームズは、ロジャーを助手代わりにして、「最後の未解決事件」をなんとか復元しようと悪戦苦闘します。記憶の中では、トーマス・ケルモット氏(パトリック・ケネディ)の依頼で、アン・ケルモット夫人(ハティ・モラハン)の行動を尾行し、アンが夫に無断で入り浸っていると思われる音楽家シルマー夫人(フランシス・デ・ラ・トゥーア)の身辺を探っていたところまでは、ワトスンの小説や映画と一致しています。でも、結末が違う。しかしその肝心の結末が、思い出せないのです。どうして自分は探偵業を引退することになったのか、その一番、大事な部分が思い出せないことに、ホームズは苛立ちます。

 一方、急速にホームズに接近していくロジャーの姿は、母親であるマンロー夫人を不安にしました。彼女はホームズには秘密裏に、転職先を探し始めます。そして、ロジャーと共にホームズの下を離れ、ポーツマスのホテルの従業員になる決意を固めるのでした・・・。

 

 19世紀末のヴィクトリア女王の時代に全盛期だったシャーロック・ホームズ。彼の二つの「戦後」が描かれているのが興味深いです。第1次大戦が終わった後の1919年当時、すでにトップハット(いわゆるシルクハット)を被り、フロックコートにボタンアップ・ブーツを身に着けた初老のホームズのいでたちは、かなり時代遅れだったと思われます。そして、第2次大戦も終わった1947年、英国の描写では、まだドイツ軍の爆撃機の破片が野原に見られる状態で、梅崎の招きで赴いた日本では、進駐軍が跋扈しており、原爆の落とされた広島は一面の焼け野原、という状態。ヴィクトリア時代の英国紳士然としたホームズは完全に浮いた存在です。そんな中で、最後の自分探しに挑むホームズ。名探偵の最後の敵は、自分の老化であった、というのが非常にユニークです。

 特にホームズと日本の関わり、というのが驚かされる本作の内容ですが、原作でもホームズは、日本の武術を身に付けており、そのためにモリアーティ教授との戦いでも死なずに済んだ、ということになっています。戦後の日本を描く描写がなかなかの力の入りようで、闇市に群がる人々、復員兵にGIたち・・・ちょっと日本人から見ると、それでも「?」という部分もあるのですが、よくこれだけやるな、という気がします。本作の撮影で、主要な俳優たちは来日していませんが、風景の再現のために実際に日本でもロケしているそうです。

 梅崎氏の失踪してしまった父親にまつわる謎、というのが物語の中で並行して語られるのですが、これはどうも兄マイクロフトがらみの話であった、という流れになっており、マイクロフト・ホームズは要するに、後のMI6のような秘密組織を統括していたのではないか、という描き方が興味深いです。大いにありそうな話です。

 なんといってもマッケランの「老け演技」がすごいです。初老時代の演技とは全く異なるのですが、見事ですね。それにロジャー役の子役マイロ・パーカー君が素晴らしい。映画出演4作目だそうですが、これは注目されそうです。映画の中でホームズ役を演じるのが、「ヤング・シャーロック」でホームズ役だったニコラス・ロウだ、というのも面白いです。

 原作シリーズへの敬意と理解をしっかり表現しつつ、誰も見たことがないホームズの晩年を描く、というかなり困難な内容なのですが、出演陣の確かな演技力でしっかり見せています。いわゆる老人問題を描いた作品としても秀逸です。どんなに優秀な頭脳も衰えるのですね。辛口で知られる映画批評投稿サイト「ロッテン・トマト」でも、本作は非常に好意的に取り上げられているそうです。

 衣装の部分では、やはり1919年のホームズのフロックコート姿が素晴らしい。1947年のホームズが、相変わらず付け襟式のシャツを着ているのも興味深いです。梅崎氏役の真田広之の着ているダブルの背広も見事なものですね。

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