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2015年11月 6日 (金)

PAN~ネバーランド、夢のはじまり~

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 「PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜」という映画を見ました。これまで「プライドと偏見」「つぐない」や「アンナ・カレーニナ」など、主にキーラ・ナイトレイ主演の映画で有名になったジョー・ライト監督。今回は男の子を描く・・・それはピーター・パンの物語の前日譚ですので、必然的にそうなるわけですが、独特の映像美で知られる同監督、今回もきわめて魅力的な世界観です。可能な限りCG処理ではなくセットを組んでの豪華な撮影で、例えば実物大の海賊船を何隻も建造してしまうなどして、製作費も150億円に上ったとか。ちょっと予算をかけすぎて、興行収支的には厳しくなるのでは、という見方もあるほどです。おそらくこれまで映像化されたどのネバーランドよりも絢爛豪華なのではないでしょうか。
 ピーター・パンの話は、有名なディズニーのアニメをはじめ、何度も映画化されてきました。前日譚にあたる話は今までもあったし、スティーヴン・スピルバーグ監督による後日譚「フック」という異色作もありました。ロビン・ウィリアムズとダスティン・ホフマン共演で、大人になって自分が何者だったか、そして空を飛べたことも忘れてしまった中年のピーターが登場するお話でした。さらにJ・M・バリーが原作小説を描くまでの姿を扱ったジョニー・デップ主演の「ネバーランド」という作品までありました。
 しかし、結局ピーター・パンという少年がどういう生い立ちで、どのようにネバーランドに渡ったのか、そして彼の宿敵ジェームズ・フックとはいったい何者なのか。このへんを描いた作品は珍しいと思われます。
 バリーの原作は、物語が描かれた1900~1910年ごろの英国を基本としていましたが、本作はもう少し後、1940年代の第二次大戦下を舞台にしているのも異色と言えるでしょう。これは「ナルニア国物語」の映画化時にも、同じく英独航空決戦のころを時代背景に選んでいましたが、空襲下の緊迫感ある環境が説得力を増すのと、古すぎず最近過ぎない設定として、第二次大戦あたりが今では適当、ということなのかなと思います。この設定のために、ファンタジー的な世界観と現実世界との往還がスムーズになる、というのは確かに感じます。
 ◆  ◆  ◆
 1930年ごろのロンドン。深夜のケンジントンの孤児院の前に、一人の赤ん坊を置いていく若い母親メアリー(アマンダ・サイフリッド)の姿がありました。軽々と高い鉄柵を乗り越える身のこなしは尋常ではなく、何か思いつめた様子にはただならぬ事情がありそうです・・・。
 そして12年後。ドイツとの戦争が始まった時代のロンドン。孤児院で育ったピーター(リーヴァイ・ミラー)と、仲間のニブス(ルイス・マクドゥーガル)は、ドイツ空軍の爆撃で混乱するどさくさに紛れ、悪徳院長バーナバス(キャシー・パーク)の秘密の隠し部屋を地下で発見します。そこで母親の手紙を見つけたピーターは、母親が特殊な事情があって自分を孤児院に預けたこと、そして自分には何か特別な運命があることを悟ります。院長の蓄財があまりにも莫大なものであることに不審を抱いた2人は、院長が孤児を売り払って金を得ているのではないかと推測。その推理は当たっており、ある夜、空中から次々に海賊たちが降りてきて、孤児をさらっていくのを目の当たりにします。
 結局ピーターはそのままビショップ(ノンソー・アノジー)が指揮する空飛ぶ海賊船にとらわれ、ニブスは辛うじて地上に飛び降りて逃げおおせます。海賊船は追撃してくる英国空軍のスピットファイア戦闘機と空中戦を演じながら急上昇し、ネバーランドに到着します。
 その地は恐ろしい海賊・黒ひげ(ヒュー・ジャックマン)が支配しており、拉致された孤児たちは鉱山で妖精の石「ピクサム」を採掘する重労働に酷使されることに。ここでのある一件でピーターが「空を飛ぶ能力」を持っていることを知ると、黒ひげは恐ろしい疑念にとらわれることになります。というのも、妖精国の王子と人間の娘メアリーとの間に生まれた子供が、やがてネバーランドに現れて、黒ひげを打倒する、という予言がこの国にはあるのです。一方、ピーターが知り合った炭鉱労働者フック(ギャレット・ヘトランド)は、ピーターを誘って炭鉱を脱走する計画を立案。現場監督のスミー(アディール・アクタル)の協力も得て、3人で空飛ぶ海賊船を奪ったものの、あえなく墜落。
 3人は黒ひげと敵対する原住民の村の王女タイガー・リリー(ルーニー・マーラ)に捕えられます。ピーターは3日の間に、本当に空を飛ぶ能力があること、妖精国の王子であり、黒ひげを倒す救世主であることを立証するように族長から要求されます。しかし、意識すると、どうしても空を飛ぶことが出来ず、ピーターは自信を喪失してしまいます。
 そんな間に、黒ひげの打つ手は早く、原住民の村を襲撃。スミーは黒ひげに寝返り、ピーター、フック、リリーは辛くも脱出に成功します。巨大ワニのすむ入り江を美しい人魚(カーラ・デルヴィーニュ)たちの助力で通過したピーターたち。フックはこのままネバーランドを見捨てて英国に帰る、と主張しますが、ピーターとリリーは妖精国に向かうことを決意します。その頃、黒ひげも妖精国の場所を示す地図を発見して、追いすがってきます・・・。
 ◆  ◆  ◆
 という展開でお分かりのように、ピーターは原作で語られるような、何となく乳母車から落ちて「大人になることをやめた」子供ではなく、そもそも妖精国の救世主として生まれた運命の王子であって、だから空を飛べるし、この地にある限り年も取らなくなる、というような話になっております。そして若き日のフックは、まだピーターと敵対していないどころか、むしろ仲間であった、という描写になっているのが非常に興味深いです。後にフック船長の副官となるミスター・スミーも、黒ひげの下で炭鉱の現場監督だった、という登場の仕方。また、後の日にピーターパンの片腕となるニブスは、すでにロンドンの孤児院時代からの旧友だった、というわけです。タイガー・リリーとフックがけっこう、いい中だったり、ティンカー・ベルが大事な場面で登場したり、といろいろと後日への伏線を張っております。
 主演のリーヴァイ・ミラーは撮影時に実際に11~12歳の子役ですが、立派な演技です。当然ながら大きな作品に出るのは初めてですが、いい役者さんになってもらいたいですね。ヒュー・ジャックマンは頭を剃りあげて、珍しい悪役に挑んでいます。ウルヴァリンともジャン・バルジャンとも全く異質の役柄ですが、嬉々としてやっている感じ。得意の歌声を披露するシーンもあり存在感たっぷりで魅力的でした。
 それで思い出すのが「レ・ミゼラブル」でジャックマンと共演していたアマンダ・サイフリッドの存在。登場シーンは多くないのですが、本当に重要なシーンで出てきます。ここは感動的です。生き別れた息子との悲しい再会・・・実にいいです。全編でいちばん、感動的なシーンはこの人が持って行った感じがいたします。
 タイガー・リリーを演じているルーニー・マーラは「ソーシャル・ネットワーク」や「ドラゴン・タトゥーの女」でよく知られている人気女優さんですが、実はこの人のお姉さんが「ファンタスティック・フォー」や「トランセンデンス」、それにリドリー・スコット監督の待機作「オデッセイ」にも出ているケイト・マーラ。整った顔立ちや清楚な雰囲気はよく似ていますね。ところでタイガー・リリーは従来のアニメなどではアメリカ先住民、つまりいわゆる「アメリカ・インディアン」として描かれていたわけですが、原作では明確にどういう人種だとは書かれていないそうです。それで本作ではあくまでも無国籍な「ネバーランドの原住民」ということで、村の人々も白人あり、アジア系あり、オーストラリアの先住民系あり・・・といった描き方にしていて、あえてこの役柄もこれまでのイメージを覆す白人女優を起用したようです。
 若きフック役のヘドランドは、今までいろいろと大作には出ており、ブラッド・ピット主演の「トロイ」とか、「エラゴン~遺志を継ぐ者」などで、頼れる戦士、だけど脇を固める渋い役どころ、という感じが多かったのですが、今回は大いに存在感を示したのではないでしょうか。
 注目だったのが、先ごろのヒット作「シンデレラ」で王子の警護隊長の大尉役でかなり話題となったノンソー・アノジー。ライト監督とは「つぐない」以来ですが、本作でも独特の演技で、作品の隠し味となっていました。こういう役者さんは監督からすると得難いでしょうね。
 バーナバス院長役のキャシー・バークは、ケイト・ブランシェットの出世作となった史劇映画「エリザベス」で、ブランシェット演じるエリザベス1世の姉メアリー1世を演じていた人のようです。いわゆる名脇役ですね。
 「アンナ・カレーニナ」でソロキナ公女役だったスーパー・モデルのカーラ・デルヴィーニュが出演しているのも注目。全体にライト監督は、やはり女優さんを綺麗に撮るのがうまい監督だと私は感じますね。
 全体的にいろいろな伏線から、成程と思わされる反面、前日譚としてみる場合、しかしこれで「あのピーターパンとちゃんとつながるのか」が今一つはっきりしない要素もあったりして、原作や従来のピーターパンになじみのある人には、幾分、不満が残るかもしれません。事実、欧米での公開後の評価にはそういうものもあるようです。
 ひょっとして、続編を作って、ピーターとフックがどうして反目するようになったのかとか、フックが片腕を失った顛末などを語る計画があるのでしょうか。ただ、現状ではこれが2部作とか3部作であるというアナウンスは聞こえてこないようです。しかし、私としてはこのキャストでもう少し後の時代、ウェンディーがネバーランドに来るまでの時期のお話を描いた作品を見てみたい気がいたしました。
 そうそう。第二次大戦を舞台にしているので、少ないながらドイツ空軍のハインケル爆撃機の編隊とか、英空軍のスピットファイア戦闘機、それに防空指令所の英空軍女性兵士たちといった描写もしっかりあり、これがなかなか力が入っていました。ドイツ軍の爆弾が、信管起動用の羽が回転してゆっくりと落下していくシーンなど、普通の戦争映画でも見たことがないほど念入りな描写で驚かされます。ファンタジー作品ほど、実際の戦争描写はむしろリアリティーの確保に努めるものなんでしょうね。

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