« ムーショップ(東京・東銀座)に行く。 | トップページ | 仲秋の名月、なんですね。 »

2015年9月17日 (木)

キングスマン

20150917221038


「あなたはスパイ映画は好きですか」
「最近のシリアスなスパイ映画は苦手ですな。でも、子供のころは好きでした。昔のああいうスパイ映画では、とにかく悪役が魅力的でしたね」
 こんなセリフににじみ出る、最近のやたらとシリアス路線に走った、国際テロ組織と闘うバイオレンス・アクション満載の国際スパイ映画の数々への苦言・・・。まあはっきり言って、近年の007シリーズなんかへの不満、と受け止めて間違いないですよね。同シリーズがシリアス路線に舵を切ったときには好評だったものの、そのうち「普通のアクション映画とどう違うの?」という声が強くなったのも事実。もっとお色気あり、おふざけあり、きついジョークあり、おバカなコミカル・シーンあり、そんな不謹慎と言っていいような初期の007シリーズみたいなスパイ映画が見たい! そんな声に対する回答の一つと言っていいのが、今回、私が見てきた映画「キングスマン」Kingsman: The Secret Serviceじゃないでしょうか。実際、当の007シリーズも原点回帰して、年末に封切の新作では、ついにあのスペクターが敵として復活するそうです。シリアスな国際テロリスト集団との戦い、はもう現実世界のニュースで見過ぎておなかいっぱい、という昨今を象徴しているのかもしれません。
 メガホンをとるのは「キック・アス」で世界中を驚かせた、「不謹慎なアクション映画」を撮らせたら当代一と言っていいマシュー・ヴォーン監督。主演は「英国王のスピーチ」でアカデミー賞受賞のコリン・ファース、脇を固めるのがサミュエル・L・ジャクソン、80歳代になっても大活躍のマイケル・ケイン、「スターダスト」「キック・アス」以来、ヴォーン監督のお気に入りであるマーク・ストロング・・・と実力派の名優で固めてはおりますが、ほかの出演者はほとんど無名の新人クラスで、決して話題性で人が入る映画ではありません。しかし、蓋を開けてみると、1月末に英国で公開以来、すでに4億ドル以上の世界的メガヒットを飛ばす快作となりました。
 私が行った浦安市内の映画館も、国内封切から1週間もたっていないのにパンフレットは売切れとなっていました。場内では「今年見た映画の中で文句なしのナンバー1だ!」といたく感動している方もいました。
 はっきりいって、ケレンミの塊みたいな映画です。サヴィル・ロー仕立ての高級な英国スーツにこうもり傘、オックスフォード・シューズに指輪、万年筆・・・そのどれもが実際はいろいろな仕掛け満載の「秘密兵器」という、いかにも昔のジェームズ・ボンドを思わせる設定。ことに後半になると、初期の007映画どころか、人々が体内に埋め込んだ小型爆弾が爆発して小さなキノコ雲が立ち上る、という完全に漫画的な、とぼけた演出などもあり、このへんは明らかに007シリーズの中の番外編、異端作として有名な「007カジノロワイヤル」(ダニエル・クレイグのシリアスな「カジノ・ロワイヤル」ではなくて、60年代に作られた伝説的おふざけ映画)へのオマージュと思われます。ここまでやるか、とにんまりさせられる作品です。
 ◆  ◆  ◆
 「キングスマン」はどこの国にも所属しない秘密諜報組織で、表向きはロンドンのサヴィル・ローの高級紳士服店として正体を隠しながら活動しています。今から15年前、中東で作戦中のキングスマン・メンバーは、ハリー(ファース)、ランスロット(ジャック・ダベンポート)と正式メンバー候補生を加えたチームで敵の基地を奇襲しますが、ハリーのミスで、優秀な候補生が戦死してしまいます。責任を感じたハリーは未亡人ミッシェル(サマンサ・ウーマック)と遺児の元を訪れ、困ったときには連絡するように、と言い置きます。
 そして現在。世界中で要人が何者かに誘拐される事件が続発する中、拉致された地球気候学者アーノルド教授(マーク・ハミル)を救出に向かったランスロットは、両脚の義足に刃を仕込んだ謎の女ガゼル(ソフィア・ブティラ)にあえなく惨殺されてしまいます。そこに現れたのはガゼルの雇い主であり、億万長者にして熱心な環境活動家のヴァレンタイン(ジャクソン)でした。ヴァレンタインはアーノルドに、自分に協力するように求めます・・・。
 ランスロットの突然の殉職に慌てたキングスマンのリーダー、アーサー(ケイン)は、ハリーたち「円卓の騎士」にランスロットの後任となる新人候補を推薦するように求めます。
 その頃、ミッシェルは町のごろつきの親分ディーン(ジョフ・ベル)の愛人という立場に零落しており、成長した遺児エグジー(タロン・エドガートン)も札付きの不良どもにからまれて警察のお世話になるような失意の日々を送っています。その急場を助けたハリーは、エグジーの目の前でディーンの手下たちを鮮やかに倒してのけると、父親の跡を継いでキングスマンの候補生試験を受けないか、とエグジーを勧誘します。
 キングスマン候補生となったエグジーですが、その訓練は命の保証もないほど厳しく、教官のマーリン(ストロング)は血も涙もない命令を次々に強要します。そんな中、心優しい女性候補生ロキシー(ソフィー・クックソン)とは友情を育んでいきますが、名門出身のチャーリー(エドワード・ホルクロフト)とはことごとに対立します。
 一方、ヴァレンタインは世界中の人々にスマートホンやパソコンに搭載するSIMカードを配布し、通話もインターネットも一切、無料でできる、ということで世界に衝撃を与えます。瞬く間に全地球のネット環境を支配した彼には、おそるべき狂気の計画がありました。そして、アメリカ合衆国の大統領や、スウェーデンの首相(ビヨルン・フロベルグ)、王女(ハンナ・アルストロム)と次々に自分に協力してくれそうなVIPに接触、仲間になった者には首筋にチップを埋め込んでもらい、仲間になることを肯定しない者はそのまま監禁していました。
 ハリーは、一度は誘拐されながら、ランスロットの死後、無事に解放されたアーノルド教授に不審を抱き、直接、接触しますが、ハリーの目の前でアーノルドは首筋に埋めたチップが爆発して即死してしまいます。
 ハリーは事件の背後にヴァレンタインがいることを確信して直に接触しますが、かえってヴァレンタインにキングスマンの正体を握られてしまいます。
 同じころ、キングスマンの最終選考まで残ったエグジーは、最後の最後で落ちてしまい、ランスロットの後任にはロキシーが選ばれます。失意のうちに帰宅したエグジーでしたが、ハリーはそんなエグジーを見離しません。ヴァレンタインがアメリカ南部のある狂信的な教会で、何かのテストを試みていると知ったハリーは単身、その教会に乗り込みます。エグジーもハリーが送ってくる映像を見守りましたが、そこでは想像を絶するような惨劇が待ち受けていました・・・。
 ◆ ◆ ◆
 ということで、新感覚とかスタイリッシュとか、超過激といった形容はすでに鬼才ヴォーン監督にとっていつものことなのかもしれませんが、それにしても本作はまことに斬新です。こういうスパイ映画が見たかったんだ、というオールド・ファンを満足させながら、単なる懐古趣味ではなく、今までの常識を吹き飛ばすようなアイデアと仰天のアクション、そして残酷極まりないヴァイオレンスの合体・・・おそらく最初に007映画が登場したときに、当時の観客が感じただろう驚きをほうふつさせる何かが、この映画にはありますね。音楽の使い方も巧みで、印象的なメインテーマと、昔のロックの名曲をちりばめた場面転換が巧妙。特に「教会の惨劇」で流れるレーナード・スキナードの「フリー・バード」は効果満点でした。凄惨そのものの殺戮シーンなのに、奇妙な明るさに満ちて楽しいダンス・シーンのように見えてしまうのはこのBGMのおかげ。それがいかにクレイジーな世界を示しているのか、という表現の仕方がうまいです。
 本当にほとんど新人に近いタロン・エドガートンが、だんだん成長して見事な英国製諜報員、鼻につくようなブリティッシュ・スパイに成長していくのが本当に面白いです。序盤で死んでしまう可哀そうなランスロット役のダベンポートは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズでノリントン代将を演じていた人です。そして、アーノルド教授役が、あの「スター・ウォーズ」シリーズのエピソード4~6でルーク・スカイウォーカーを演じたマーク・ハミル。ひょっとして「スター・ウォーズ」新作のための肩慣らしとしてこの映画にも出たのでしょうか?
 スウェーデンの首相役と王女役は、実際にスウェーデンの俳優さんたちで、国際作品ではあまり見かけませんが、母国では有名な人たちのようです。
 とにかく人はいっぱい死にますし、非常に不謹慎と言えば不謹慎な映画です。しかし高度に知的で、独特の世界観にはまる人続出なのはうなずけます。英国ファッションが好きな方必見なのは言うまでもありません。コリン・ファースもマイケル・ケインも、最初の方だけのダベンポート、終盤のエドガートンも見事なスーツを着こなしてくれています。確かに大スクリーンで見ておきたい一作です。
 

|

« ムーショップ(東京・東銀座)に行く。 | トップページ | 仲秋の名月、なんですね。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122224/62301097

この記事へのトラックバック一覧です: キングスマン:

« ムーショップ(東京・東銀座)に行く。 | トップページ | 仲秋の名月、なんですね。 »