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2015年7月17日 (金)

ターミネーター:新起動/ジェニシス

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 1984年のロサンゼルス。突然、深夜の公園に全裸で出現したターミネーターT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、望遠鏡をのぞいていた街のチンピラ3人組に「服をよこせ」と要求します。1作目の「ターミネーター」でおなじみのシーンです。しかしそこに待ち受けていたのは、なんと年老いたもう一体のT-800(シュワルツェネッガーの2役)でした。こうして新旧のT-800が激しく戦う光景に、見る者はあっけにとられることになります…。

 というわけで、まもなく68歳になろうというシュワちゃんが12年ぶりに殺人アンドロイド、ターミネーターとして帰ってきた「ターミネーター: 新起動/ジェニシス」Terminator Genisysを見ました。ここで注意したいのが、タイトルは「ジェニシスGenisys」であって、「ジェネシスGenesis」ではない点ですね。ジェネシスはフィル・コリンズやピーター・ガブリエルが結成していたバンド名が思い浮かびますが、旧約聖書の「創世記」を意味します。
 が、本作の「ジェニシス」というのは、そのジェネシスという言葉と、システムsystemのシスを組み合わせた造語で、新時代の創世記を語るに足る革命的なコンピューター・システムの名称として登場します。今やクラウド・コンピューティングが常識となって、コンピューター・システムもネットの中でどこが中心というのでもなく働くイメージが常識化しています。よって、最近のSF作品でもそういう描き方が多く、ターミネーター・シリーズでも「ターミネーター3」で、人類の敵の中枢である軍事人工知能「スカイネット」というものが、特定の拠点に存在するメイン・コンピューターではなく、ネット上に偏在する破壊不能なシステムであるように描かれておりました。やはり、インターネットどころかパソコンも普及していなかった(日本でいえば、ようやく初歩的なワープロが出回り始めた)1984年の第1作当時の設定のままでは、いろいろ不都合が出てきている模様。何しろ1作目、ターミネーターやカイルがサラ・コナーの居場所を突き止める方法は公衆電話の電話帳だったわけで、1984年にはそれで簡単に分かる、と彼らも知っていたんでしょうね。そういう部分も含め、基本的にその1作目「ターミネーター」と、2作目「ターミネーター2」を下敷きにしてリブート(再起動)するための作品、というのが今回の位置づけであるようです。
 監督はテレビ・シリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で有名になり、「マイティー・ソー/ダーク・ワールド」でメガホンをとったアラン・テイラー。ターミネーター1と2の監督ジェームズ・キャメロンは、これこそ自分にとって納得のいく「3作目」だといって本作を激賞したそうです。
 本作は、1作目で描かれた歴史改変、つまりスカイネットにより、タイムマシンでターミネーターが1984年に送り込まれるところは全く同じです。しかし、すでにタイムマシンを使った大きな歴史の変更がそれ以前から行われ、随分と変わってしまった別の時間軸の歴史が描かれます。この、「変わってしまった歴史」を描く手法は、J・J・エイブラムズ監督が「スター・トレック」シリーズのリブートで使うなど、SFものではよく見られるものですが、古くからのファンには受け入れられない、という要素は避けがたい部分もあります。本作でも、今までのシリーズは踏まえつつも、要するに「2」から後はなかったことになってしまっている。そのへんで従来のファンからは結構、否定的な見方も多い「問題作」となったようで、今までのシリーズに愛着のある人ほど、厳しい批評も多いようですが、まあそのへんは致し方ない気もします。さてでは、どんなお話かというと…。

 1997年にサイバーダイン社が開発した人工知能スカイネットが引き起こした核戦争「審判の日」から30年余りたった2029年、ジョン・コナー(ジェイソン・クラーク)率いる人類とスカイネットの戦いは、人類側の勝利に終わろうとしていました。スカイネットはジョンを産む前の母親サラ・コナー(エミリア・クラーク)を殺害することで、ジョンの存在自体を抹消すべく、タイムマシンでターミネーター101モデル T-800を1984年に送り込みます。ジョンもそれを阻止すべく、任務に志願したカイル・リース軍曹(ジェイ・コートニー)を過去に送ります。ここまではおなじみの展開なわけですが、しかしこのタイムトラベルの直前、カイルはジョンが背後から何者かに襲われるのを目撃。さらに時間旅行中には「スカイネットはジェニシス」「審判の日は2017年」といった意味不明のメッセージがある光景を見ることになります。
 さて、1984年に到達したカイルを待っていたのは、なんとも意想外なことに流体金属型のターミネーターT-1000(イ・ビョンホン)による襲撃でした。ここでカイルを助けたのは、これまた想像もつかないことに、本来はウェートレスのアルバイトをしている無力な女子大生のはずなのに、なぜか屈強な女戦士となっており、事態のすべてを初めから把握しているサラ・コナーと、彼女を守護する「おじさん」こと中年のT-800型ターミネーターでした。
 サラは1973年にT-1000の襲撃を受けて両親を失った後、「おじさん」から教育を受けて育ったというのです。スカイネットが送った「あのT-800」も、サラと「おじさん」が倒していました。カイルは、歴史が大きく変わってしまったことに気付き、とまどいます。
 なんとかT-1000を倒したサラとカイルたちは、この時代に準備していたタイムマシンにT-800の人工頭脳から取り出したチップをつなぎ、「審判の日」の核戦争が起こるとされている1997年にタイムトラベルして、スカイネットを破壊しようとします。しかしカイルは、転送中に見た謎の光景を思い出します。歴史が変わったことで、審判の日も本来の予定から2017年にずれたのではないか、というのです。「おじさん」は「別の時間軸の記憶」であることを示唆します。かくて、T-1000との戦闘で右腕の生体組織を損傷してタイムマシンによる転送ができなくなった「おじさん」を1984年に残し、サラとカイルは2017年に向かいました。「おじさん」は今の時間軸に30年以上とどまって、2人に合流することを約束します。
 2017年に出現したサラとカイルは、「ジェニシス」がサイバーダイン社のダイソン父子が開発している新しいコンピューター・システムで、かつてのスカイネットに当たり、しかもより高性能な敵であること、そして、その起動が引き起こす「審判の日」が間近に迫っていることを知ります。
 そんな中、逮捕され拘束されたサラとカイルの前に突如、現れたのは、なんと2人の息子であり、2029年から2人を助けに来たというジョン・コナーその人でした…。

 というようなことで、とにかく本作を見る前には、少なくともシリーズ第1作「ターミネーター」の冒頭部分を復習として見ておくといいですよ。というのも、本当によく再現しているのです、1984年の映像を。
 T-800が登場するシーンは、まず黄色い重機に乗っている黒人のおじさんが機械の不調に気付き、「あれ、おかしいな」と言っていると、青い光球が出現し、裸のシュワちゃんが片膝をついている。そのままシュワは夜のロスが一望できる公園の高みに行く。そして、望遠鏡で遊んでいたチンピラ3人組に声をかけて「服をよこせ」と言うと、相手はナイフをちらつかせる。ここで、旧作では2人を惨殺し、もう一人から灰色の革ジャケットをはぎとるわけですが、本作では突然、「おじさん」ターミネーターに攻撃されるわけです。
 カイルが1984年に来るシーンも、野良犬と浮浪者が横たわっている路地に、横ざまになって全裸のカイルが降ってくるように現れ、周囲の紙屑が吹き飛ぶ。そして浮浪者のおじさんが「えらく光っていたなあ」と声をかける。そこに制服警官がやって来て、浮浪者のおじさんが「ズボンを盗まれた」と叫ぶ。カイルが奪った拳銃を向けて「今日は何日だ?」と叫ぶ。ここまで、本当に全く再現映像のように同じシーンです。ところが、その警官というのは1作目とは異なってアジア系の風貌で、腕が刃物のように伸び、T-1000型ターミネーターである正体を現すのです。以後、ショッピングモールに逃げ込んだカイルはコートやスニーカー(この映画では、1984年当時、生産されていたこのスニーカーをわざわざナイキ社に作ってもらったそうです)を手に入れ、更衣室で服を着る、というあたりまで徹底的に1作目に似せています。だからこそ、その後のサラ・コナーの出現の意外性が際立つわけです。
私は旧作シリーズも大好きですが、これはもはや時間軸が異なるパラレルワールドを描くことが主眼の作品ですので、旧作を徹底再現している点を見ても、キャメロン版への深いリスペクトを感じられ、とても面白く見られました。そして、親子の物語としてよく描けている作品だとも思いました。かつてターミネーター2がそのような評価を受けましたが、今作はサラの父親代わりとなっている「おじさん」が、出現したカイルに対して、それは歴史としてはサラと愛し合ってジョンの父親になる、というのが既定の話なのですが、どうしても頼りなく見え、「うちの娘はお前にはやれん」的な態度を見せてしまう、カイルも「おじさん」に嫉妬しているような描写が面白い。また、サラとカイルの前に現れるジョンの親子3人の物語でもあります。理由あってここは悲劇的な結論になっていくのですが、3人の心情を慮ると、ファミリーの物語として心を打つシーンがあります。
 ジョン・コナーに扮するジェイソン・クラークは「華麗なるギャツビー」では妻を寝取られる職工の役、「猿の惑星:新世紀」では、ただ一人、サルたちに対して理解ある人物の役をやっていました。毎回、全く異なる役柄をこなす芸達者ぶりは見物です。カイル役のジェイ・コートニーは「ダイバージェント」では、主人公たちをいじめる悪い教官役だったと思いますが、今回は本当に1作目のサラのように右往左往する姿がどこかペーソスすら漂っており、好演していますよ。エミリア・クラークは、ターミネーター2のときの、戦士となったリンダ・ハミルトンの演技をむしろ意識した役作りをしたそうですが、まあ顔立ちとして似ているわけではないのですが、表情なんかはリンダを思わせる部分もあり、サラ・コナーという映画史上の有名人を引き継ぐ重みは大変だったと思うのですが、頑張っています。
 1984年にサラと「おじさん」に救われた警察官で、2017年にオブライエン刑事として登場するのがJ・K・シモンズ。「セッション」で狂信的なジャズ教師役でアカデミー助演男優賞を獲得したばかりの人ですが、ここでは84年の強烈な体験のために、出世路線から落ちこぼれた刑事、という役どころです。これも従来のイメージと異なる演技が注目です。
 本作で描かれる2017年(つまり2年後)の人々は、年がら年中、スマホやタブレットを手にしており、すでにコンピューターに支配されている状態。警備員が手元の端末から目を離さないまま応対したため、シュワちゃんが背後からぶちのめす、というシーンがありますが、別にジェニシスが起動しなくとも、すでに15年現在の我々の生活はそうなっておりますね。もし、実際にこのような、SNSとか検索エンジンとかウィキとか、あらゆるシステムを統合したアプリを作れば、そしてそこに何か悪意が入り込めば、本当にいともたやすくジェニシスのような世界を支配するシステムを作れる条件はすでにあると思います。本作では、今から見ると牧歌的だった1984年(私は当時、高校3年生でした)を振り返る要素もあって、あれから30年、われわれはそんなSFのような時代に生きているんだな、とも改めて感じました。

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