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2015年5月 8日 (金)

シンデレラ Cinderella

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「シンデレラ
Cinderella」という映画を見ました。またまたディズニーが旧作の実写化リメイクか、ネタ切れしてるな、しかもシンデレラ? なんで今時……などと思った方もいるかもしれません。何を隠そう、私自身も最初はそう思ったのです。だから、見ないつもりもあったのですが、「監督はケネス・ブラナー」と聞いて、おや、それはひょっとして見事に化けているのかも、と思いました。監督として、俳優として確固たる地位にあるケネス・ブラナーさん、ロンドン五輪の開会式での名演は忘れられませんし、監督としては、たとえば「マイティ・ソー」第一作も、シリーズの第一作だから必ずヒットしれくれないと困る、という場面で起用され、期待通りに軌道に乗せました。手堅く重厚な演出で今やヒット請負人、という大物監督です。この監督なら、これほど手垢にまみれた題材を文字通り、再生できるかも……そこに期待して見てみました。

 思った通りです。誰でも知っているあのシンデレラです。「マレフィセント」のようにかなり原作と離れた外伝的な解釈でリメイクすることも多いですが、本作は直球勝負。大筋として、継母にいじめられたシンデレラが、妖精の魔法でカボチャの馬車に乗って宮廷に乗り付け、12時の鐘が鳴ると魔法が消えるため、慌てて逃げ出しガラスの靴を置き忘れ、というおなじみのストーリーそのもので、余計なひねりは一切なし、です。ところが、素晴らしい演出と、壮大華麗な映像、あちこちに挟んだコミカルなくすぐり、などテンコ盛りの工夫を加え、出演陣の熱演もあってまことに見事な感動の一作に仕上がっています。これは見ないともったいないかも、という作品です。ケネス・ブラナー監督、さすがです、の一言でございます。

 

 裕福な商人の父親(ベン・チャップリン)と優しい母親(ヘイリー・アトウェル)のもとで、愛情いっぱいに育てられたエラ(エロイーズ・ウェブ)。まさに絵に描いたように幸せいっぱいの一家でしたが、そこに不幸が襲います。母親はエラに「どんな辛い時も、優しさと勇気を持って立ち向かいなさい」と言い残して急死してしまいます。

 数年後、美しく成長したエラ(リリー・ジェームズ)に、父親は再婚することを告げます。その継母(ケイト・ブランシェット)は、ドリゼラ(ソフィー・マクシェラ)とアナスタシア(ホリディ・グレンジャー)という二人の娘を連れて乗り込んできますが、3人とも派手好きの浪費家で、エラとは気性が合いません。さらに、父親が旅先で病気になって急死してしまいます。継母と二人の義姉はエラにつらく当たるようになり、まず「ママではなく、マダム(奥様)と呼ぶように」と言われ、部屋も屋根裏部屋に移るように、料理人(ケイティ・ウエスト)や家政婦も全員解雇して家事労働はすべてエラ一人でやるように、と申し渡されます。最後には食事も一緒にとることを禁止され、完全に使用人扱いにされ、いつも灰を被って汚れているシンデレラ、という蔑称まで付けられてしまいます。母の教えを胸にじっと耐え忍ぶシンデレラも、ついに感情が爆発し、馬に乗って森に遠乗りに出かけます。

 そこで、エラの乗馬が暴走してしまいますが、一人の優しい青年が馬を抑えて助けてくれました。彼はキット(リチャード・マッデン)と名乗り、また会おう、と言い残します。

 ところでこのキットとは、実は王国の後継者である王子でした。王子は森で出会ったシンデレラのことが忘れられず、自分が一目ぼれしたことに気付きます。父王(デレク・ジャコビ)は、隣国のシェリーナ王女(ヤナ・ペレス)と結婚することを望んでおり、側近の大公(ステラン・ステルスガルド)も王子の恋に反対の意向を示しますが、王子は諦めることができません。唯一、理解してくれたのは護衛隊長である大尉(ノンソー・アノジー)だけでした。そこで王子は、自身の妃を決めて披露する舞踏会に、王族や貴族だけでなく、国中の一般庶民も集めることを提案します。その場で、王子が最初に踊りのパートナーに選んだ女性が未来の王妃となる、というわけです。

 継母と姉二人も勇んでその舞踏会に出かけていきますが、シンデレラは家に残るように言い渡され、母の形見のドレスにまでケチを付けられ、さらに破かれてしまいます。さすがに我慢できなくなり泣き崩れていると、みすぼらしい姿の老婆(ヘレナ・ボナム=カーター)が現れ、ミルクを所望します。老婆はすぐに、自分がフェアリー・ゴッドマザーであることを告げ、カボチャの馬車、ガチョウの御者(ギャレス・メイソン)、トカゲの従者(トム・エデン)などを用意し、形見のドレスも目の覚めるような青いドレスに変え、最後にガラスの靴を与えて言うのでした。「魔法は12時までだよ。12時を過ぎるとすべてが元に戻ってしまうよ」

 かくて、近隣の名だたる王女や貴族の娘が居並ぶ舞踏会に、シンデレラが登場します。「あれは一体、誰なの?」と、シェリーナ王女もほかの人々も思わず呟きます。あまりにも魅力的な「謎のプリンセス」の出現に、その場にいるだれもが悟ったのです。「今夜の主役はこの女性なのだ」と。シンデレラは、森で出会ったあのキットが近付いてくるのを見て、笑顔になります。ひょっとしたら彼に出会えるかも、と期待して来たのですから。「どうか今宵の最初の踊りの相手に申し込む栄誉を、与えてください」。シンデレラはようやく、キットが実は王子であることを知り、驚きます。そして、夢のような舞踏会が開幕しますが、刻々と12時の鐘が近付いてきて……。

 

 今作のシンデレラは、単に泣いてばかりで耐え忍ぶだけの女性、というわけではありません。実際にはさっそうと馬を乗りこなして遠出するような一面も見せます。流暢なフランス語を操り、継母たちをびっくりさせる場面もあります。劇中で、解雇された元料理人から「どうして、あの家に残って耐え忍んでいるんですか」と聞かれると、「思い出の詰まった家だから。あの家を守るようにお父さんと約束したから。だから逃げ出さないの」と答えるシーンがあります。シンデレラはむしろ、試練に自ら立ち向かう、しかし決して誰かを倒して戦うヒロインという道も選ばない、という描き方をされています。このへんが、監督の描き方のうまいところです。近年よくありがちな、ヒロインをやたらと好戦的な戦うヒロインにしてしまう場合がありますが、やりすぎると原作の持ち味が台無しになりかねません。かといって型にはまった古典的な大人しい、自分の運命を自分で切り開けないような弱々しいヒロイン像でも、今の観客には納得されない。本作のシンデレラはそのへんが非常にうまく描かれていて、共感が持てます。王子との恋も、お互いに相手の素性を知らない中での一目ぼれ、という形です。決して「王子様だから」好きになったわけではない。このへんも巧妙な演出ですね。王子の方も、森で出会った謎の娘との恋を成就するには、大人になって、政略結婚をはねのける強さを持たなくてはならない。彼にとってもこれは試練であり、シンデレラとの恋が彼を大きく成長させます。こういう部分の描き方も、いいですね。

 本作では、肉親との別れ、というシーンが何度も出てきます。シンデレラが母親と死別するシーン。それから、父が旅行に出かけるのですが、なぜかお互いに「これが最後になる」という予感がして泣き別れとなるシーン。さらに、父王が病気となり、王子と死別するシーンもあります。これらがいずれも本当に感動的に描かれていまして、大いに涙腺を刺激します。安っぽいおとぎ話でなく、非常にリアリティーあるドラマに仕上げているのが、本作の特徴でしょう。

 それでひとつ言えば、衣装担当は「アビエイター」や「恋に落ちたシェイクスピア」「ヴィクトリア女王 世紀の愛」でアカデミー賞を受けているサンディ・パウエルで、時代衣装が大のお得意な人です。今回は明らかに19世紀後半から20世紀初めのコスチュームで、トップハットや燕尾服、王子や軍人たちの軍服もこってりと刺繍の入った19世紀風です。これ、もっと古い時代の中世の服装にしなかったのは、いかにもおとぎ話、にしたくなかったからではないでしょうか。昔の話とはいえ、そんな大昔のファンタジーでもない、という演出は斬新かもしれません。欧州のどこかの小国、しかし決してどこかのおとぎの国、ではない感じがするのです。そして、きらびやかな紳士淑女が居並ぶ中で、その中でも匂い立つように一際目立つシンデレラ……本当に素晴らしい見せ場です。

 宮廷のセットもすごいです。本当にそのぐらいの時代の宮廷そのもの、という感じです。

 主演のリリー・ジェームズは、これまで「タイタンの逆襲」に脇役で出たぐらいで、テレビドラマ「ダウントン・アビー」で有名になりましたが、映画では初の大役。まさにシンデレラ・ガールですが、清楚で優しく、しかし芯の強さがあるシンデレラにぴったりです。リチャード・マッデンも「ゲーム・オブ・スローン」で知られる人で、映画では初の大抜擢に近いと思います。このへんは、名伯楽であるケネス・ブラナーの御眼鏡にかなっただけあり、今後の活躍が期待できそうな人たちです。

 また、今回のキャストで真っ先に決まったのが継母役のケイト・ブランシェットだったそうです。これほどの悪女役は珍しいと思いますが、なかなか嬉々として怪演している感があります。たまにはこういう役柄も面白いのかもしれません。語り手も兼ねるヘレナ・ボナム=カーターに、ヘイリー・アトウェル、ベン・チャップリン、それからデレク・ジャコビ、ステラン・ステルスガルドといった脇を固めるベテラン陣の演技も力が入っています。もう一人、いい味を出していたのが警護隊長役のノンソー・アノジーという人。全体に、キャスティングも見事ですね。

 最後の最後まで、納得感がしっかりとある演出でした。改めて、ケネス・ブラナー監督の手腕に脱帽の一作だったと思います。

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