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2015年3月26日 (木)

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密

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 『イミテーション・ゲーム
/エニグマと天才数学者の秘密』(The Imitation Game)という映画を見ました。ベネディクト・カンバーバッチにキーラ・ナイトレイ、マーク・ストロングなど大物が多数、顔をそろえ、アカデミー賞8部門ノミネート、そして見事に脚本賞を受賞しています。

アラン・チューリングといえば天才数学者として、従来もそれなりに名前は知られており、人工知能が人間のような意識を持っているかどうか、を知るための「チューリング・テスト」も、実際に人工知能が誕生するかもしれない、と言われ始めた21世紀になって、あちこちで取り上げられるようになりました。実際、チューリングが第2次大戦中に開発した暗号解読機が、現在のコンピューターの基礎となっており、コンピューターの祖としてその名声はむしろ、近年になって高まっています。チューリング・テストの別名が、彼が論文で使用した「イミテーション・ゲーム」なのです。

しかし、今日のコンピューター技術の開祖で、第2次大戦の連合軍勝利にも大きく貢献したという、それほどの傑出した人物であるにもかかわらず、これまで彼の業績は長きにわたって大衆に知られることはありませんでした。なぜかというと、戦時中に国家機密の暗号解読に従事していたこと、そしてもう一つが、彼が同性愛者であるがゆえに、当時の法律によって不名誉な性犯罪者扱いのまま生涯を終えたこと、この二つの要素のために、必要以上にアラン・チューリングの名は伏せられてきたのでした。1967年まで英国では、同性愛はそれだけで犯罪とみなされ、失職や追放、場合によっては投獄までされたのです。

2009年になってブラウン英首相がチューリングの復権と、彼への「謝罪」を声明にして話題になり、13年にはエリザベス女王の名で公式にかつての「罪」に対する「恩赦」が公布されました。本当に彼のことが一般に知られるようになったのは、それからだと言えます。そして、この映画の企画も、ブラウン首相の声明を契機に立てられたそうです。

 

物語は大戦終結後6年がたった1951年に始まります。マンチェスター警察のノック刑事(ロリー・キニア)は、奇妙な盗難事件の通報を受けます。数学者アラン・チューリング教授(カンバーバッチ)の家に強盗が入ったというのですが、荒らされた家の中でチューリングは「何も盗まれていない」と主張し、いかにも警察がかかわることを拒むような態度を見せます。不審に思ったノック刑事は、チューリングの経歴を調査し、彼が軍に秘密の任務で協力していたこと、戦時中にスパイ行為の嫌疑をかけられていたこと、などを知ります。しかしすぐに、チューリングは「同性愛行為」により逮捕されます。チューリングは刑事に、これまでの自分の人生を振り返って語り始めます・・・。

1939年、チューリングは英国政府の秘密組織「ブレッチリー無線機器製造所」で働くための採用面接を受けます。管理責任者のデニストン海軍中佐(チャールズ・ダンス)は傲慢で対人関係がまともに築けない(おそらく今の言葉でいうアスペルガー症)チューリングを嫌い不採用にしようとしますが、軍情報部の非公然組織MI6の幹部であるメンジス(ストロング)がチューリングを気に入り、採用に至ります。チューリングのほかに、英国のチェス王者であるヒュー・アレグザンダー(マシュー・グード)、数学者のジョン・ケアンクロス(アレン・リーチ)などが集められ、与えられた任務とは、ナチス・ドイツ軍が誇る絶対に解読不能の暗号「エニグマ」を破ること、でした。ナチス・ドイツは瞬く間に全欧州を占領し、ドイツ潜水艦Uボートが連合軍の艦船を次々に沈め、また連日、ドイツ空軍の爆撃機が英本土に飛来するようになり、ドイツ軍の暗号を解読できるかどうかが、英国の未来を左右する事態になっていたのです。

気難しくまともに人付き合いできないチューリングは、チームの中で孤立していきますが、彼には一つの確信がありました。エニグマ暗号を解読するには人間の手計算では追い付かず(試算によれば、ひとつの組み合わせを解くだけでなんと2000年がかかり、しかもその組み合わせは毎日、夜の12時にドイツ軍が変更してしまうため、事実上、絶対に解読不能とされていました)膨大な計算を機械にさせる、つまり「電子計算機」を作らなければ対抗できない、ということでした。周囲の無理解の中、孤独に戦うチューリングでしたが、メンジスを通じてなんと英国首相チャーチルに直談判し、チームのリーダーとなることに加え、計算機を作るための巨額の予算を承認させてしまいます。

だが、それだけでは決定的に人手が足りません。チューリングは新聞にクロスワードパズルの広告をだし、これが解けた人の中から有能なスタッフを採用しようと思いつきます。だが、応募者の中で最も好成績を挙げたのは、(当時の常識では意外なことに)、一人の若い女性、ジョーン・クラーク(ナイトレイ)でした。

計算機の基本が完成し、他のメンバーとの関係も以前より改善し、さらにジョーンという心強い理解者も得て、チューリングの作業は順調に進むように見えましたが、突然、チューリングはソ連に情報を流しているスパイではないか、という嫌疑を受け、逮捕されかけます。また、一向に成果が上がらないことに業を煮やしたデニストン中佐も解雇をちらつかせ始めます。そんな迫害の中で、彼は計算機に「クリストファー」と名付けますます作業に没頭、さらに親の圧力で家に帰ってくるように言われたジョーンには求婚します。

チューリングが機械にクリストファーと名付けたのには理由がありました。寄宿学校時代、いじめの対象となっていたチューリングをかばい、理解し、暗号の世界に導いてくれた親友クリストファーの名にあやかったのです。しかも、チューリングはクリストファーに単なる友情ではなく、愛情を感じ始めていました。しかし・・・。

 

というようなことで、ほぼ史実の通りにアラン・チューリングの孤独な生涯と、偉大な業績が解き明かされていくわけですが、全く史実通りでないとはいえ、見事に緻密な脚本でその人生が浮き彫りにされていきます。

時代の先を行き過ぎていた天才の孤独と、ほんの数十年前まで同性愛が犯罪であったこと、さらに、女性が、どれほど才能があろうが活躍できなかった時代でもあったこと、を思うと暗澹とします。素晴らしい脚本に素晴らしいキャストで、見ごたえある作品でした。主演の二人のほか、ストロングとチャールズ・ダンスが実にカッコいいです。その他、当時の衣装や風俗の時代考証も行き届いており、大変によくできています。

戦争のシーンも少ないながら、案外に出てきまして、ドイツ軍もけっこう登場します。ユンカースやハインケルの爆撃機、Uボート、それにⅣ号戦車などがしっかり出てきて、こういうところも手を抜いていないのが好感が持てました。当時の英国の陸海空軍の制服もたっぷり出てきますが、特に赤い帽子の憲兵は見どころですね。

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