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2014年11月10日 (月)

美女と野獣

 

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 フランス、ドイツ合作映画「美女と野獣」LA BELLE ETLA BETEというものを見ました。「ブラック・スワン」のヴァンサン・カッセル、「イングロリアス・バスターズ」や「ロビン・フッド」のレア・セドゥが共演。作中は全編フランス語という作品ですが、これがいい。1991年の大ヒットしたディズニー・アニメのイメージが強いこの作品ですが、やはり本国が手掛けると一味違います。監督はクリシュトフ・ガンズ。
 ディズニーのアニメをはじめ、何度も映像化されているこのテーマですが、一般に知られている原作は1756年発表のボーモン夫人のおとぎ話。しかしこの前、1740年にヴィルヌーヴ夫人が書いた長編が本当の原作だとされております。今回はそのヴィルヌーヴ版を深く掘り下げて今までにない要素を加え、ことに従来、はっきりしなかった「どうして王子が野獣になっていたのか。王子はどんな罪を犯したのか」という部分を強く打ち出しています。
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 お話は、お母さんが寝物語に子供たちに絵本「美女と野獣」を読み聞かせる形で始まります……。
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 時は1800年代初め、ナポレオン1世のフランス第一帝政期。裕福な商人(アンドレ・デュソリエ)は所有していた3隻の船が一度の航海で沈没し、瞬く間に破産。3人の息子と3人の娘を連れてパリを離れ、田舎暮らしを余儀なくされます。まもなく、3隻のうちの1隻が見つかり港に戻ってきますが、積荷ともども債権者に差し押さえられ、ぬか喜びに。長男は自暴自棄となり借金を重ね、盗賊まがいの悪党ペルデュカス(エドュアルド・ノリエガ)に追われる身となってしまいます。そのとばっちりを受けることとなった商人は、ペルデュカス一味の追跡を逃れて雪の中をさまよい、道に迷ってしまいます。深い森の中で見つけたのは、数百年も放置されている古い城でした。商人はその城の庭で、末娘のベル(セドゥ)が望んでいた美しいバラの花を見つけ、とってしまいます。すると、城主である恐ろしい野獣(カッセル)が現れ、バラと引き換えに命で償うように要求、これに従わなければ家族全員の命を奪う、と告げます。
 商人は家に戻り、この話を娘、息子たちに披露します。自分が望んだバラの花で、父が命を落とすことに耐えがたいベルは、自らが身代わりとして野獣の城に向かうことを決意します。野獣はしかし、ベルに「毎晩7時には食事を共にすること」以外の要求はせず、城内を自由に歩くことも許可します。そこでベルは、夢でこの城のいにしえの栄華の時代を見るようになります。城主の王子(カッセル)の傍らには、美しい妃(イボンヌ・カッターフェルト)の姿が。その妃は度を越して狩猟にのめりこんでいる夫に嫌気がさしていました。やがてベルは、妃の墓所を城内で発見します。一体、何があったというのか。ベルは強い好奇心を抱きます。
 ベルは野獣とダンスをすることを条件に、一度だけ家に帰らせてくれるように嘆願。野獣は意外なことにこれを許可します。喜び勇んでベルが家に戻ると、一家はペルデュカス一味に脅かされて息をひそめて暮らしており、父の商人は寝込んで瀕死の状態になっていました。一方、長男から野獣の城の話を聞いたペルデュカスは、城に行けば財宝が手に入ると考え、手下を引き連れて城に乗り込んできます。ベルは野獣との約束を守り、城に戻ろうと急ぎますが……。
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 ということで、かつての王子と妃の描写が、今までの映画化にはなかった要素ですが、ここがいいんです。本作における「現代」は19世紀初め。すでにフランス革命を経験し、商人のような中産階級も台頭している時代です。一方、かつての数百年前の時代は、まさに中世。ブルボン王朝の初期あるいはそれより前の時代、ということになりそうです。
 注目なのは豪華な衣装。19世紀の紳士たちはみな、燕尾服やフロックコートにベスト、頭には二角帽かトップハットといういでたち。襟の形は、ラペルとカラーの間に大胆なカットが入っている「M字ラペル」です。18世紀末から19世紀初めに一世を風靡した襟形です。
 女性はエンパイア・スタイルという直線的なドレス。これはブルボン王朝時代に流行ったマリー・アントワネットが好んだような釣鐘型の大きなスカートと異なり、フランス革命期から流行りだした、古代ローマ風の身体のラインをはっきり出すドレス・スタイル。
 しかし一方で、中世の世界の人々は全く異なる服装です。15世紀ごろと思われる時代の王子=野獣は豪華な生地のダブレットという裾が短い上着に半ズボンという、いかにも中世の王子様のスタイル。妃や侍女たちは当然、釣鐘型の優雅なドレス姿です。そして、野獣の城に住むことになり、いわば数百年もタイムトリップするような状態になったベルも、城の中では野獣が与えた当時としても古いスタイルのドレス姿になる…彼女が古風な中世のプリンセス姿になることが、城にとどまる運命を受け入れる覚悟をしたことを意味するわけで、視覚的にその表現がよく分かるわけです。このへんは実はレア・セドュがガンズ監督に提案したのだとか。監督は城内の衣装もすべて、ナポレオン時代のエンパイア・スタイルにしようと考えていたそうですが、セドゥが城内ではスタイルを変えることを主張したとか。結果的にそれは大成功だったと思います。何しろコスチュームの要素がとても大事なドラマですからね。
 孤独な影のある野獣に扮するカッセル、どこか子供っぽさの残る不思議な魅力があるセドゥのキャスティングは、まさにはまり役。そして、シックでどんなに激昂しても興奮しても、あまり声を張り上げない感じのフランス語というのが、やはりいい。仮に日本語で吹き替えをやれば、ベル役の声優さんはおそらくずっと高い声で演じるでしょう…日本語では女の子とか、お姫様は高い声、という一種の記号的な声があるからです。が、フランス語だと、日本人の感覚からすれば女性の声もものすごく低いのですが、これが魅力的です。なにか説得力が増すというか、おとぎ話的であるより、大人の物語に見えてきます。
 それから注目されたのが、お妃役のイボンヌ・カッターフェルトというドイツの女優さん。これが美しいんです。ドイツ、オーストリア、スイスのドイツ語圏では何度もヒットチャートの1位をとったことのある有名な歌手で、ドイツの映画やテレビでは引っ張りだこの人ですが、国際的な作品に出るのは本作が初めてではないでしょうか。これでぐっと知名度を上げてくるかもしれませんね。
 ディズニー版のアニメもとても良かったですが、もともとフランス語で書かれ、フランスの物語であるこの美女と野獣、エンディングも、設定をフランス革命後の時代背景にしたこともあって、ちょっと従来のものとは異なります。ぜひ絢爛豪華なセットや衣装を大画面で見ていただきたい作品です。
 

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