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2013年3月22日 (金)

クラウド アトラス

 「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟、いやお兄さんが性転換したため、今ではウォシャウスキー姉弟が監督する話題作「クラウド アトラス」CLOUD ATLASを見ました。クラウド・アトラスとは直訳すれば「雲の地図」ですが、実はこの映画の原作小説を書いたデイヴィッド・ミッチェルによれば、この題名は日本人作曲家・一柳慧(いちやなぎ・とし)さんの楽曲「雲の表情」の英語題CLOUD ATLASから取ったものだそうです。一柳さんといえばあのオノ・ヨーコさんの最初のご主人。そして、ミッチェルは、前にもオノ・ヨーコさんのもう一人の夫、ジョン・レノンの楽曲「夢の夢」ドリーム・ナンバー9からタイトルを拝借した作品を書いているとか。20130322040909



 まあ、このへんは余談なのですが、実はミッチェルは日本の広島で8年間も英語教師をし、その後も沖縄などに住んだことがあり、奥さんも日本人。というわけで、日本とアジア文化に非常に理解のある人で、オノ・ヨーコさんがらみのタイトルを使うのも決して偶然じゃないようですね。それに、本作の基本的な構想の軸となるのが「輪廻転生(りんね・てんせい)」なわけですから、この同じ魂が何度もよみがえって人生を繰り返す、という発想はじつはキリスト教圏ではタブーなわけでして、仏教圏のアジア地域ではさして珍しいテーマでもないのですが、人生は一回限りで、死者は最後の審判の日までじっと墓場で待っている、というようなキリスト教の教義からすると非常に異教的というか、スピリチュアル的なテーマなわけであります。原作者がそういう人なのだな、と知ると、なるほど理解できる気がしてくるわけです。
 さて、本作はその輪廻転生テーマで、しかも六つの時代の物語が、順序良く並ぶのではなくてばらばらの断片でつながれる、という・・・つまり、たとえば2012年の登場人物が「扉を開いて外へ出るぞ!」と叫ぶと、次には2144年の人物たちが、扉を開いて外に飛び出していくシーンにつながる、といった具合です。この、個々の物語は必ずしもつながりがない(一部でつながってはいるのですが)にもかかわらず、しかし通底するセリフやシーンが重なって、人というものは、人生というものは「何度も何度も同じような間違いを繰り返す」(1973年のハル・ベリーのセリフ)のです。そして、六つの物語がトータルで訴えているのは、弱肉強食で、強いもの、権力の有るものが弱いものを虐げ、搾取することで序列を作っている人間の社会、その中で欲望のままに他人を押しのけ、支配する層と、その束縛から逃れ自由になろうとする魂の戦い・・・結局、人類の歴史とはそういう繰り返しであり、そしてそこから徐々に昇華していくべきものなのだというメッセージです。
 六つの時代の六つのストーリーが交互にバラバラに出てくる展開なので、そのまま粗筋を記すことはできません。ざっと便宜的に、六つの話を概略、紹介しますと・・・。
 ①1849年。南太平洋を航行する帆船にて。義父の代理として奴隷貿易の書類にサインした弁護士のアダムは、病にかかりグース医師の治療を受けることとなる。船室に忍びこんでいた奴隷のオトゥアの命を救ったアダムだが、病状はどんどん悪化。そして治療に当たるグース医師もなにか魂胆があるようだが・・・。
 ②1936年。①のアダムの航海日誌を愛読する青年ロバート・フロビッシャーが主人公。同性の愛人シックススミスに別れを告げ、老作曲家エアズの元で採譜の仕事を始める。しかしフロビッシャーの傑作「クラウドアトラス六重奏曲」を、エアズは自分の曲として横取りしようとする。フロビッシャーはエアズに銃を向けて逃走し、シックススミスに最後の手紙を書く・・・。
 ③1973年。②に登場したシックススミスはその後、科学者として原子力発電所の開発に携わっていた。原発開発にかかわる黒い陰謀があることに気付いた彼は、偶然、出会ったジャーナリストのルイサ・レイに秘密を暴露しようとするが、その直前に射殺されてしまう。ルイサは原発に乗り込んで真相を解明しようとし、そこで出会った科学者アイザックは、彼女に協力しようとするのだが、彼らにも殺し屋の手が伸びてきて・・・。
 ④2012年。無頼作家ダーモットはパーティー会場で辛口批評家を殺害してしまう。ダーモットはこれで刑務所送りになるが、それまで鳴かず飛ばずだった彼の著書は大ヒット。思いがけず、その担当編集者であるカベンディッシュも大儲けする。ところが、ダーモットの弟たちが現れてカベンディッシュを脅迫、助けを求めてすがりついた兄にも騙され、まるで監獄のような老人ホームに送りこまれてしまう・・・。
 ⑤2144年。全体主義国家ネオ・ソウルで。クローン人間であるソンミ451は、同じレストランで労働させられているユナ939から、クローンが見ることは禁じられている映画を見せられる。それは④のカベンディッシュが老人ホームから脱走する顛末を描いた小説が映画化されたものだった。その後、ユナは客を殴って殺され、ソンミの元には謎の男ヘジュが現れて、囚われの身から解放する。ソンミは徐々にこの社会の恐るべきシステムの実態を知っていく・・・。
 ⑥2321年。文明社会が崩壊して106年が経過した。人々は⑤のソンミを、神の化身で救世主「ソンミ様」として崇拝している。かつてハワイと呼ばれた島の男ザッカリーは、目の前で妹の夫アダムが、人食い人種コナ族に襲われて殺されるのを見殺しにしてしまう。強いもの、恐ろしいものに抵抗する勇気が彼にはないのだった。ある日、この島に旧文明の技術を継承しているプレシエント族の女性メロニムがやってくる。ザッカリーは彼女を警戒するが、病気になった姪を進んだ技術で治してもらう代わりに、メロニムが望む「悪魔の山」への道案内を引き受ける。メロニムの狙いとは一体、なんなのか・・・。
 同じ役者さんが、各時代で違う役を次々に演じるわけです。トム・ハンクスは①ではグース医師を、②ではフロビッシャーの弱みにつけこむ安宿の支配人を、③では科学者アイザック、④では無頼作家ダーモット、⑤では映画の中でカベンディッシュに扮する俳優、そして⑥でザッカリーを演じます。しかし、彼の場合はいずれも白人の男性役なので、まあ無難な「転生」ぶりですが、たとえばハル・ベリーは②ではユダヤ系白人女性のエアズ夫人、③では黒人女性のジャーナリスト・ルイサ、⑤ではアジア人の男性医師、⑥で黒人女性のメロニムです。韓国人女優のペ・ドゥナの場合、①ではアダムの妻である白人女性ティルダを、③ではメキシコ人の不法移民女性を、⑤ではアジア系女性のソンミを演じています。①でアダムを演じたジム・スタージェスは⑤ではアジア系のヘジュに成り切りますし、⑤でユナに扮する中国人女優ジョウ・シュンは、③でホテルの白人男性従業員、⑥ではザッカリーの妹の白人女性になります。極めつけはヒューゴ・ウィーヴィングで、①での白人優越主義者の義父とか、③の殺し屋、⑤の軍人役などはまあいいとして、④では老人ホームの凶暴極まりない看護婦をやる・・・つまり女装しているのが非常に怖いです。
 まあ輪廻転生ですから、人種も国籍も、性別も変わって当然なわけです。しかし徐々に悪から善に近づいていく魂もあれば、おそらく昇華して「解脱」したらしい魂、いつまでも悪人から抜け出せない人物、そして・・・最後にはもはや人間として転生することも許されず、悪霊というか、悪魔になり果ててしまう魂まで描かれます。
 まあ、けっこう哲学的に考えてしまう作品ですし、六つの物語が交互に出てくるので初めの30分ぐらいは本当に分かりにくいのですが、最後まで見るとすっかりよく理解できて、とても面白いエンターテイメント作品として成立しています。オムニバスとしてみれば、時代劇あり、スリラーあり、SFあり、という具合で、これも面白い。特に④はこの話だけ明らかにコメディータッチです。
 難しいのではないか、ということで敬遠する必要はない作品です。時間も本編172分とかなり長いのですが、見ていて全く長いとは思いませんでした。それだけ構成が巧みに出来ている、ということです。本当によくまあ、映画化できたものです。また性別も人種も超えて見せる最新のメーキャップ技術も凄いもの、と感心させられます。充実した一本だと思います。お薦めです。

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