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2012年12月27日 (木)

レ・ミゼラブル

 映画「レ・ミゼラブルLes Misérables」を見ました。本作は1985年初演の同名ミュージカルの映画化です。ですからセリフはすべて歌になっています。前に「オペラ座の怪人」が映画化された時、ミュージカルだと知らないで見てがっかりした、などと映画評掲示板に書き散らす人が多かったのであらかじめ、ご注意申し上げておきます。ミュージカルは苦手、と思う人は初めから見ないように。20121227010741
 というわけで、すでに日本でも何回も上演されているミュージカルですし、原作もあまりにも有名なヴィクトル・ユゴーの「ああ無情」なわけですから、本筋は皆さん御承知の通り。たったパン一個を盗んだ罪で19年にもわたって牢獄につながれたジャン・バルジャンと、その逮捕に異様な執念を燃やすジャベール警部。私は1991年夏に帝国劇場で舞台を見ました。滝田栄、村井国夫、島田歌穂、斎藤晴彦、松金よね子・・・などという面々が出ていた記憶があります。
 劇場の場合、舞台ならではの演出があるわけです。単純に映画にすればいいというものではなくて、舞台だからあっと驚くような仕掛けも、映画ではどうということもない、ということになりかねない場合もあって、じつはミュージカルの映画化はなかなか難しいものだとか。
 しかし今回は「英国王のスピーチ」のトム・フーパー監督と、「レ・ミゼラブル」のほかにも「キャッツ」「オペラ座の怪人」「ミス・サイゴン」と数々の大ヒットミュージカルにかかわってきたキャメロン・マッキントッシュがタッグを組む最強の布陣。バルジャン役に、元々ミュージカル・スターでもあるヒュー・ジャックマン、ジャベール警部にラッセル・クロウ、ファンテーヌにアン・ハサウェイ、コゼットにアマンダ・セイフライド、テナルディエ夫人にヘレナ・ボナム・カーターと実力派ぞろいの豪華キャスト。また、オリジナルの初演時にバルジャンを演じたコルム・ウィルキンソンが、重要な役どころであるミリエル司教役で出ています。
 ときは1815年、ナポレオンがワーテルローの戦いに敗れフランスが王政復古した時代。トゥーロンの刑場で船を引く囚人ジャン・バルジャンは、看守のジャベールから仮釈放の書面を渡されます。晴れて自由の身に、と思うのは早計で、前科者に世間の目は冷たく、行き倒れ寸前のところをミリエル司教に救われます。命を救ってもらった恩をあだで返すように、司教が大事にする銀の祭器を盗み出すバルジャンでしたが、すぐに警察に捕まります。ところが驚いたことに、司教は「その銀器は私が彼に与えたものです」とかばった上に、「これも持って行きなさい」と銀の燭台もバルジャンに与えます。その慈悲の心に打たれたバルジャンは、改心して生きることを決意。
 1823年、マドレーヌと名を変えたバルジャンは、実業家として成功し、モントルイユ市の市長に。しかしここに、ジャベールが赴任してきます。動揺するバルジャン。そのころ、彼の経営する工場を解雇されたファンテーヌは、娘の養育費を稼ぐために髪を切って売り、歯も抜いて売り、ついには娼婦に身を落とします。バルジャンは息絶える寸前の彼女から、娘コゼットの身を託されます。一方、仮釈放の身から逃亡したとして追われているジャン・バルジャンが逮捕された、という知らせを受けて彼は苦悩します。自分が名乗り出なければ、無実の人間がジャン・バルジャンとして牢獄に送られてしまう。バルジャンは法廷に赴き、自分こそがジャン・バルジャンである、と告白します。
 ジャベールが後を追いますが、バルジャンはコゼットがいるテナルディエ夫婦の安宿へやってきます。ろくでもない人種である夫婦に法外な金を支払い、コゼットを助け出したバルジャンは、そのまま姿を消します。ジャベールは正義の名のもとに決してバルジャンを逃さないことを誓います。
 そして1832年、パリの街は貧富の差にあえぐ人々の声で満ち、またもや革命の機運に満ちていました。革命運動に励む青年マリウスは、街で出会った女性に一目ぼれ。マリウスは仲間のエポニーヌに、彼女の家を探してほしい、と依頼します。しかしエポニーヌはテナルディエ夫婦の娘であり、そのマリウスが求める女性がジャン・バルジャンと共に姿を消したコゼットであることに気付きます。同じころ、パリに赴任していたジャベールもバルジャンがパリにいることを知ります。6月、革命に向かって歴史が大きく動いていく中、バルジャンとジャベールの宿命の対決は、そしてマリウスとコゼットの恋は、さらにエポニーヌとの三角関係はどうなっていくのでしょうか・・・。
 というわけで、ヒュー・ジャックマンは最近ではXメンのウルヴァリンのイメージがあまりに強いのですが、今作で実力演技派で歌唱力もあるスターであることを見せつけたのではないでしょうか。それからアン・ハサウェイの熱演は特筆もので、実際に髪を切られる体当たり演技は凄まじいです。またこの作品は、舞台版でもエポニーヌ役と、革命指導者のアンジョルラス役に歌唱力のある人を充てるものなのですが、この映画でエポニーヌは、舞台で同じ役を演じているサマンサ・バークス、アンジョルラスはミュージカル畑出身のアーロン・トヴェイトと、やはり実力派で固めています。それから、なんといっても欠かせないのが、革命派に属する少年ガヴローシュで、舞台でも上手な子役が必ず抜擢されますが、本作ではダニエル・ハトルストーンという子役が見事な演技を見せています。この映画では、歌はすべて演技とともに同時録音しています。つまり、よくありがちな、先に音だけ録音しておいて、あとで口パクで合わせる、というやり方ではなく、実際に演技しながら歌って、そのまま収録している。だから舞台で芝居を見ているようなライブ感があります。出演者は当然、非常に高い演技力と歌唱力を要求されるわけです。それをこなしているのは大変なことです。
 舞台では、バリケードがぐるりと回って、そこで赤い旗を掲げて事切れているアンジョルラスの姿が登場し、観客を驚かせるのですが、映画ではそのままやっても効果的ではなく、うまい方法で解決しています。その他、映画ならではの演出やシーンもかなりあるようで、さらに映画オリジナルの曲も追加されて、舞台版とは少し異なっている部分もあります。
 とはいえ、何しろ名曲ぞろいで出演者は熱演、感動の幕切れはまさしく感涙もので、私が見た映画館でも場内ですすり泣いている人がたくさんいました。
 最後、どうなるか分かっている話なのに、これだけ心を打つのはすごいものです。今年はおそらくこれが最後に見る映画でしょうが、年末に本当にいい映画を見ました。

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