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2012年11月 9日 (金)

のぼうの城/リンカーン秘密の書

 例によって映画を2本立てで見てきました。野村萬斎主演の戦国時代劇「のぼうの城」、そしてリンカーン大統領が実はヴァンパイア・ハンターだったという異色のホラー「リンカーン/秘密の書ABRAHAM LINCOLN VAMPIRE HUNTER」です。2012_0705_034437cimg1641
 ◆「のぼうの城」は原作小説がすでにベストセラーとなっており、また水攻めのシーンが津波を連想させるため、昨年の公開を延期し、1年待って今の公開となったことでも話題になりました。
 「のぼうの城」というのは「でくのぼうの城」という意味で、忍城(おしじょう=現在の埼玉県行田市)の指揮を執った武将、成田長親(なりた・ながちか)の呼び名からついた題名です。
 物語は1582年、備中高松城を水攻めする羽柴秀吉のシーンから始まります。巨大な堤を築いて水を入れ、城郭ごと水没させてしまう水攻めは、圧倒的な武力と財力を持った天下人の軍勢しかなしえない究極の戦術で、その豪壮な有様に、秀吉の部下、石田三成は「いつか自分もこのような戦がしてみたい」と憧れの念を抱きます。
 やがて本能寺の変で主君・織田信長が倒れると、後継者になった秀吉は瞬く間に西国を平定して天下人となり、関白に就任して豊臣秀吉と改名。天正18年(1590年)には最後に残った関東の有力大名である後北条氏の小田原城を征伐することになります。北条家傘下の大名である忍城城主・成田氏長は、北条家の参陣命令に従い兵を率いて小田原に出立しますが、忍城の留守部隊には「自分は関白に内通して降伏し、所領を安堵してもらうつもりなので、関白の軍勢がやってきたら何もせず、黙って開城するように」と言い残します。
 ところで、忍城城代家老で、城主・氏長の叔父である成田泰季(やすすえ)はこの重大事に病を得て急死。泰季の子で、それまで「でくのぼう」の意味の「のぼう様」の名で、領民や家臣から侮られながらも愛されていた氏長の従弟・長親が急きょ、城代となることに。
 一方、豊臣軍の方では、小田原城を包囲しながら周囲の支城を攻略することにします。秀吉は、自分が寵愛する側近の石田三成が、実戦での経験が乏しく諸大名から侮られているのを考慮し、冷静で知略にたけた大谷吉継、傲慢だが理財の才がある長束正家(なつか・まさいえ)を参謀につけて、2万の大軍を与え、館林城、忍城の攻略を命じます。じつは両城とも内通しており、簡単に落城することは秀吉には分かっていました。そのことを知らない三成は館林城が一戦も交えず、開城するとあまりのあっけなさに落胆します。次いで忍城に攻め寄せると、三成はわざと傲慢不遜な長束正家を軍使にして忍城に派遣します。あまりに高圧的で人を馬鹿にした態度をとる正家を前に、これまで「でくのぼう」と思われていた長親は態度を改め「坂東武者の槍の味、とくと味わわれよ!」と啖呵を切って、わずかに500人の守備兵で2万の豊臣軍と戦うことを宣言。部下も領民も最初はとまどいますが、「あの、のぼう様が言いだしたことなら仕方がない」と長親を支持、一方、内心、戦がしたかった三成も「そうこなくては!」と喜び、ついに大籠城戦が始まることになります。さて、のぼう様と忍城の人々はどうなるのでしょうか・・・。
 というようなわけで、基本的には400年前の史実がベースとなっており、石田三成の忍城水攻めというのは、歴史ファンにはよく知られた話なのですが、このようにスポットライトを浴びたことはこれまでなかったわけです。成田長親なる武将もこれまでは無名で、急にこれで取り上げられて著名になったわけで、面白いものです。
 なんといっても「のぼう様」役は鬼才、野村萬斎でしかなし得ず、彼なくばこの企画は映像化できなかったのではないでしょうか。「うつけ」なのか「天才」なのかよく分からない人物像は、言ってみれば「大うつけ」と呼ばれた若き日の織田信長をソフトにした感じですね。また関白・秀吉役の市村正親の存在感、長親の盟友である正木丹波を演じた佐藤浩市の確かな演技が光ります。成宮寛貴、山口智充、榮倉奈々ら忍城の面々もみなキャラクターがはっきりしています。鈴木保奈美が11年ぶりに映画出演しているのも注目。領民の前田吟、尾野真千子、そして芦田愛菜もいい演技しています。石田三成役の上地雄輔、大谷吉継役の山田孝之、長束正家役の平岳大の3人もいい味を出していますが、この3人、これからわずか10年後には関ヶ原の戦いに臨むことになるので、その伏線のような要素も多く、演じる上でもそのへんを随分、考慮したとパンフレットにあるようですね。
 なかなか考証的にも興味深いシーンが多く、城主・氏長(西村雅彦)が甲冑を着込むシーンや、長束正家に対して宣戦を告げる際、正木丹波が右手に置いていた太刀を左側に回す(いつでも抜けるようにする)といった細かいところも行き届いています。全体的によく出来た映画でした。
 史実では、成田氏長はこの後、秀吉配下の有力大名・蒲生氏郷に従って大名に復帰、長親はその時代に氏長と不和になって出奔し、晩年は尾張に住んだといい、また甲斐姫(榮倉)が秀吉の愛妾になるのも、実際にはその蒲生家時代で、映画のように忍城攻めの直後ではないようです。
 ◆「リンカーン/秘密の書」は、実は第16代合衆国大統領エイブラハム・リンカーンが吸血鬼ハンターの顔を持っていた、という一見、荒唐無稽な設定なのですが、見てみるとこれがなかなか説得力があるのですね。セス・グレアム=スミスの原作小説のヒットを受け、ティム・バートンが制作、そしてあの「ウォンテッド」の鬼才、ティムール・ベクマンドルフが監督、ということで独特のおどろおどろしい感覚がなにやら19世紀アメリカの闇の部分を巧みに描き出しています。
 この話は、要するに南北戦争の根本原因と言うのが、単なる黒人奴隷解放ではなく、黒人奴隷を食料源とするシステムを南部に構築していたヴァンパイアたちとリンカーンとの暗闘であった、という見方なんですが、そう言われるとそう思えてくるほど、史実をうまく使っています。リンカーンが貧困な家庭で育った、というのは有名な話ですが、その一家を虐げ、母親の命を奪った奴隷商人バーツが実はヴァンパイアであり、少年リンカーンはこのバーツを倒すべく、謎の男、ヘンリー・スタージスの指導を受けて有能なヴァンパイア・ハンターになります。ヘンリーの命令を受けてヴァンパイア狩りをする中、運命の女性メアリーと出会い、また個別にヴァンパイアを倒すだけではなく、合衆国の奴隷制度そのものを改めなければ、と思い立ち、宿敵バーツを倒した後は政治の世界を志し、ついに大統領に。しかし南部はリンカーンに反抗して南北戦争が勃発。南軍を支援するのは吸血鬼の首領でリンカーンの真の敵であるアダムでした・・・。
 私の立場だと、どうしても19世紀のコスチュームに目が行ってしまいます。それがよくできていますね。この時代はフロックコートにクラバット、トップハットが全盛期で、紳士はみなそのような服装をしています。南北戦争の描写では両軍の兵士が出てきますが、これもちゃんと考証が行き届いています。ヴァンパイアたちはサングラスを使用している者が多いのですが、この時代にはそろそろ一部で普及していたのは本当のようですね。
 史実では、リンカーンの子供は4人いたようですし、またメアリー夫人との結婚生活も実際にはあまりうまくいっていなかったような話もあります。リンカーンの実在の盟友であるジョシュア・スピードがヴァンパイアに殺されてしまったようですが、あのへんはあれでいいのでしょうか? まあこちらは史劇ではなくて、あくまでファンタジーですから、あまりシビアに見る必要もないのですが、しかしなかなか考証面はしっかりしているので、ついつい真面目に受け取ってしまう作品です。それだけうまく出来ている映画だったと感じました。
 

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