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2012年9月28日 (金)

ローマ法王の休日

 20120928034503 「ローマ法王の休日」HABEMUS PAPAMというイタリア映画を見ました。個性的な作風と、自分自身が映画に出演して俳優として活躍することでも知られるナンニ・モレッティ監督の最新作で、カンヌ映画祭では問題作として話題をさらったと言います。近頃、イタリア映画なんてなかなか日本の映画館では見られないのですが、日本では7月下旬から都内で上映を始め、ついにご近所の舞浜の映画館でも上映が始まったので、見に行った次第です。
 ところで、原題のアベムス・パパムというのは、英語で言うとWe have a Pope!という意味だそうで、訳すれば「法王が決まった」というラテン語です。が、これをオードリー・ヘプバーンの名作「ローマの休日」Roman Holidayをもじって邦題をつけたセンスはなかなかのものですね。
 実際、この邦題はうまく内容を表しています。バチカンでローマ法王が亡くなり、各国のカトリック教会を指導する枢機卿たちがシスティナ礼拝堂に招集されます。そして、枢機卿たちの投票による長時間の秘密会議コンクラーヴェが開催されます。世界中の枢機卿の中で80歳以下の人だけが参加できるこの会議で、出席者の中の誰かが新法王に選ばれます。何人かの有力な候補がいましたが、票は割れてなかなか決まりません。長い長い会議の末に事態は思わぬ展開に。そして最後に投票者(大体、出席する枢機卿の数は120人前後だそうです)の3分の2以上の多数を制して指名されたのは、本人に全く野心がなく、下馬評にも挙がっていなかった無名のメルヴィル枢機卿でした。
 さっそく、サン・ピエトロ広場に集まった世界中の信者に向かってお披露目となり、司会の枢機卿が紹介しようとしたその瞬間、新法王は突然、錯乱して叫びだし「助けてくれ、自分にはできない、無理だ」と席を立ってしまいます。突如、お披露目は中止。当然、世間では大騒ぎとなり、新法王の病気説、ついには死亡説まで飛び交う有様に。
 バチカンにはひと癖ある自信過剰気味の精神科医(モレッティ監督本人が出演)が招かれ、法王を診察しますが、埒が明かない。おまけにこの医者は無神論者で、物議をかもします。結局、彼の提言を受けて、側近の報道官は、法王の身分を知らない外部の医師(精神科医が離婚した前妻)に法王を診察させることにします。
 ところが、診察の帰り道、法王は一瞬のすきを突いて逃亡し、ローマの街に姿をくらましてしまいます。彼は、女医にいわれた「自分の人生を振り返る」ことをしようと思います。そして、さまざまな人と出会い、自分が果たせなかった夢を思い出し、人々の暮らしに接していきます。
 一方、新法王の正式発表ができないバチカンでは、秘密保持のために一歩も外に出られない枢機卿たちと精神科医があれこれと、暇つぶしにふけり、また法王の精神状態の回復に期待していますが、最後は医師の勧めで国別対抗バレーボール大会を開催することに。
 そんなドタバタ騒動の中、ついに秘密を隠しきれなくなった報道官は枢機卿たちに法王の逃亡を発表。ローマ市内の劇場で、若いころ憧れていた役者になる夢を思い出しつつ、チェーホフの芝居を観劇している法王の元に、スイス衛兵隊を引き連れた枢機卿たちが現れます。法王はついに連れ戻されて、大聖堂のバルコニーに立つことになります。さて、「ローマ法王の休日」を経て、新法王メルヴィルが出した結論はなんだったのでしょうか?
 ・・・というような話で、もちろん法王に指名された枢機卿が錯乱する、などという話は熱心な信者なら面白いはずはなく、当然、バチカンの援助も全く受けられないわけで、たくさんの法王や枢機卿、スイス衛兵の装備や衣装、それに巨大なセットを組み上げてバチカンを再現していますが、これが非常に見ものです。もちろん現実そのままではないでしょうが、綿密に取材して再現しているコンクラーヴェの模様は本当に興味深いです。聖人の名を唱えながら行進する枢機卿たち、その中には日本人の枢機卿の姿もあります(2005年のコンクラーヴェには浜尾文郎枢機卿が出席しました)。緊迫した会議に、新法王が決まるまでの興奮・・・それから、中世以来の伝統を誇るスイス傭兵隊の入隊の儀式なども再現されています。ラテン語とイタリア語が幅を利かすバチカンで、彼らの宣誓はドイツ語なんですね。きっとこのへんも取材して再現しているのでしょう。
 前半はとにかく、一種のドタバタ喜劇で大いに笑えます。時代劇によくある「将軍様がお忍びと仰って街に出てしまわれた」ということで、側近たちが慌てふためく、という図です。ただ、能天気な枢機卿たちをよそに、一人で奮闘する報道官がなんだか可哀想に見えてきます。後半になると、段々とこうトーンが変わってきまして・・・幕切れですが、なんとも物悲しい印象なんです。基本的にはコメディーなんですが、やはりひと癖ある監督だけに、ただの喜劇では終わってくれません。このへん、人によってどう思うか、というところだと思いますが、まあ単純明快を好むハリウッド映画では絶対にできない展開かな、とも思います。
 どうでしょう、熱心な信者の方だとまた感想は違うと思います。前半はとにかく傑作なコメディーですし、とても勉強になります。後半、特にエンディングは議論が分かれるところか。そこが「問題作」である所以ではあります。
 それにしても・・・枢機卿にまで昇った人たちが、内心では「自分だけは法王はやりたくない」と念じているものなんでしょうか。本作では、結局、まったく野心のなかったダークホースのメルヴィルが、思いがけなく法王に推されて、覚悟もなにも出来ていないままに舞台に立たされ、耐えられなくなってしまうわけですが・・・。しかし、何十億人の指導者、ということになると、心がすくむのも理解できる気もしますが。監督のメッセージは「精神的支柱不在、指導者不在の現代」なんでしょうか。ひと癖ある映画を見たい人には絶対的にお薦めです。
 なお、教会法によると、ローマ法王は自発的に退位することはできるらしい。よって、「自分は嫌だから辞める」といえば、辞めることは制度上はできるようであります。追記:その後、2013年2月になって、本当にベネディクト法王が高齢を理由に退位ということになりました。監督は予知でもあったのでしょうか? 驚きです。
 

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