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2012年3月22日 (木)

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

 20120322024915_2 映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」The IRON LADYというものを見てきました。本作でサッチャー英国元首相を熱演したメリル・ストリープは先ごろの第84回アカデミー賞で2度目の主演女優賞を獲得、またメーキャップ賞も受賞していますね。そういうわけで話題の作品です。英国もの映画はしばしば話題になりますね。数年前の「クィーン」や、昨年の「英国王のスピーチ」など実在の人物を取り上げながら、感動的なヒューマンドラマに仕上げているものが多いですが、本作もその流れの中にあると言えます。
 さて、この映画製作の発端は、2008年に刊行されたサッチャー元首相の娘、キャロル・サッチャーの著書から始まったそうです。その内容は、あの「鉄の女」として知られ、強靭な精神力の女性として畏敬されたサッチャー女史が認知症を患い、夫のデニス・サッチャー氏(2003年6月、膵臓癌で逝去)が亡くなったことすら認識できなくなっている、というもので、世界に衝撃を与えました。
 同年8月のAFP電の記事にこんなものがあります。「【8月24日 AFP】マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)元英首相の娘の新著の抜粋が24日の英日曜紙に掲載され、最近の元首相の様子が明らかになった。キャロル・サッチャー(Carol Thatcher)さんによると、症状が最も悪い日のサッチャー元首相は、文章1文ほどの内容を話すことも困難な状態だという。しかし、時折、過去の輝きを取り戻すことがあり、特に首相だったころの話をするときには顕著だという。
 キャロルさんの新著『ガラス張りの金魚鉢での日々(A Swim-On Part In The Goldfish Bowl)』は、英日曜紙メール・オン・サンデー(Mail on Sunday)での連載を書籍化した回想録。キャロルさんは、「母は、いつまでも年を取らず、永遠で、鋳鉄のように丈夫だと思っていた」とつづった。
「昔は、母に同じことを2度言うことはなかった。1度話すだけで、その驚異的な記憶力で母親は何でも覚えた。でも、少しずつ、母は同じ質問をくり返しするようになった。しかも、何度も質問していることに気づかない」(『ガラス張りの金魚鉢での日々』)
 また、キャロルさんによると、サッチャー元首相は、夫デニス(Denis)さんが2003年に死去したことも頻繁に忘れたという。キャロルさんは、「何度もくり返し、父が死去したという事実を母に伝えなければならなかった」と記した。「50年以上連れ添った夫はもう死んでしまったということをようやく母に納得させると、いつも決まって母は、気持ちを抑えてようとこらえる私を見つめて、悲しい顔で『まあ』と言う。そして、『わたし達はみんなその場に居合わせた?』とおだやかな声で私に尋ねる」(『ガラス張りの金魚鉢での日々』)」
 この本に衝撃を受けたフィリダ・ロイド監督が、映画の製作を企画し、「マンマ・ミーア!」でタッグを組んだメリル・ストリープを起用したのがこの映画、というわけです。
 ということで、基本は上のキャロル・サッチャー氏の著書に沿っているわけですが、近年のサッチャー元首相の日常については大胆に脚本家が想像して描いているとのこと。映画は、老いたマーガレットがコンビニエンスストアで牛乳を買って、その値段の高さに驚くシーンから始まります。「ひとりで買い物に出すな」と揉める側近たちを尻目に、淡々とした日常をこなすマーガレット。彼女はいま一つの決断をしようとしていました。8年前に亡くなった夫デニスの死を受け入れて、その遺品を整理し慈善団体に寄付する、ということです。しかしその彼女のそばにはいつも、夫の幻影が現れます。今もまた、亡き夫の幻影と語り合いながら、古いビデオ映像をみて過去を振り返るマーガレットは、戦時下の空襲におびえた少女時代から、大学に進み、国会議員を目指して奮闘したころや、優しいデニスとの出会い、子供たちが小さかった頃、そして当選した後も下層階級出身の女性議員ということで差別された日々、徐々に保守党の中でのしあがり、閣僚、さらに首相にまで上り詰めた嵐のような人生を振り返っていきます。衰えていく日常と、夫の幻影と、過去の出来事がめくるめくオーバーラップするなか、あの1982年、運命のアルゼンチンとの領土戦争であるフォークランド紛争へと回顧は続いていきます・・・。
 ということで、複雑ないまと過去のオーバーラップを巧みにさばく脚本が見事です。そしてさすがに素晴らしいメリル・ストリープ。本当はアメリカ人なのですが、英国人の俳優たちに交じって堂々たる英国英語で、戦う鉄の女と、衰えて苦悩するいまを演じ分けていきます。夫デニスの亡霊を演じるジム・ブロードベントの演技も素晴らしく、決して「政治映画」ではなくて、やはり夫婦の愛の物語といっていいと思います。エンディングは感動的で、心を打ちますよ。
 鉄の女にも平等に訪れる老いと孤独。それは人間というものの本質を描き出しています。実在の著名人を取り上げることで、もっとも普遍的なテーマを描き出した名作だと思いました。追記:マーガレット・サッチャー元首相は2013年4月に逝去されました。ちょうど、この映画を見た1年ほど後のことでした。ご冥福をお祈りいたします。

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