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2012年1月 5日 (木)

「聯合艦隊司令長官 山本五十六 ─太平洋戦争70年目の真実─」

 「聯合艦隊司令長官 山本五十六 ─太平洋戦争70年目の真実─」という映画を見てまいりました。いうまでもなく、太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官であり、真珠湾攻撃を成功させた山本五十六大将の伝記──おおむね、米内海相の下で海軍次官を務めた時期から、最後に乗機が撃墜されて戦死するまで、を描いた作品です。
 山本役は、日本を代表する名優・役所広司。年齢的にもいま、役所さんは58歳で、55歳で司令長官になり、59歳で亡くなった山本役にはぴったりなんですね。それから、なんとなくいつまでも青年将校のイメージがしてしまう阿部寛。彼は山口多聞提督の役なんですが、ええ、こんな役を彼がやるの、と一瞬思ったものの、実は彼は現在、47歳。ミッドウエー海戦で戦死した山口少将は49歳だったそうで、じつはこれもぴったり、だということです。
 なんとなく、昔の提督などというと、すごく年上の偉い人のようなイメージがしてしまうのですが、かくいう私だってもうすぐ45歳。ああいう時代に軍人をしていたら、それなりの地位について責任を負っていたかもしれない年齢です。人の生死と、国家の命運を担う重さというものを想像すると、翻って自分のいまやっていることを比較すると、やはりああいう時代の人たちはすごいな、と思ってしまいますね。
 基本的に、山本の郷里・長岡の後輩でもある半藤一利さんの原作をもとに、ほぼ史実に忠実に描いている作品です。ですが、これまでにもいろいろ語られてきた題材だけに、そして日米関係が緊張し、日本がナチス・ドイツに傾斜していく時代を描くというのがなかなか難しいために、ただ史実を描くのではなく、いろいろ工夫もあります。
 それで、現代の総力戦というものをイメージできず、日露戦争の勝利の延長でしか理解できないで、戦争待望論を軽佻に口にする庶民たちを描く居酒屋のシーンとか、ドイツとの同盟を煽りたて、日米開戦をしきりに煽動するけしからん新聞記者、とかが登場します。なかなかそういう描き方が巧みだと思い、脚本は難しかったと思いますが、よく考えられているな、と感心しました。
 で、これは映画の脚本上、いわば「悪役」といえるのが新聞社論説主幹の宗像(香川照之)という人物で、全編を通していちばんけしからん人間というと、どう見ても彼。マスコミがいかに罪が重いか、というのが一本通っているのですが、一応、自分もそういう会社に在籍しているので、すごく重く感じました、そのへん。
 それに、山本の立場を中心に描く以上、仕方ないわけですけれど、基本的に米内光政大将(柄本明)、井上成美少将(柳葉敏郎)、それに予備役の堀梯吉少将(坂東三津五郎)なんかが「善玉」で、軍令部総長の永野修身大将(伊武雅刀)と、南雲忠一中将(中原丈雄)が「悪玉」という感じに受け取れる描き方になるわけです・・・ちょっと見ていて、永野大将は山本を次官に推した人物なわけですし、南雲さんについては描き方としては御気の毒というか、ちょっと彼一人のせいであれもこれも失敗したんだ、という感じに見えなくもないのは、かわいそうな気もしないではありませんでした。
 まあ、開戦までの過程にしても、それに真珠湾やミッドウエーなど個々の戦闘についても実態はいろいろ複雑で、それを分かりやすく映画にして見せるのは難しいわけです。不満を持つ人だって出てくるでしょう。しかし私は、そういう難しいところも、最大限、うまくさばいて脚本にまとめているな、と思いました。いや、史実ものは大変ですよね。
 お芝居である以上、史実そのまま、というわけにはいかないわけです。その一環として、史実での三和義勇参謀にあたる人物として、三宅義勇(吉田栄作)という人が出てきます。微妙に史実通りじゃないんですね、だから名前を変えているんでしょう。
 肝心かなめの役所演じる山本については、彼の器の大きさとか、人間的魅力とかが存分に描かれていましたが、どうも山本本人というのはもうちょっと複雑な人のような印象もあります。もうちょっと癖の強い人だったような感じもあるんですよね、無類のばくち好きで、喜怒哀楽や好き嫌いもかなり激しい人だった、という話も伝わっていますし。
 今までも、たとえば三船敏郎の演じる山本五十六は古武士のような剛毅でカリスマ的な人物像、山村聡の演じた山本五十六は、スマートで英明な知将、という感じが強かったですが、今回の役所版・山本五十六はあくまでも優しい人情家、という描き方だったような感がします。
 戦争映画ですが、意外に戦闘シーンというのが多いわけではありません。前半は戦前ですし、後半も基本は最高指揮官である山本の視点ですから、最前線のシーンは抑え目といえます。が、出てくる戦艦や空母とか戦闘機、攻撃機とかは、模型とCG、セットを駆使しているわけですが、日米共によく描けているように感じました。零戦は実物大を製作したようですが、なかなかの出来栄えです・・・ただ、風防が妙に揺れて見えるのが難でしょうか。
 劇中、何度か山本のセリフとして「それで、その根拠は?」というのが出てきます。海軍の官僚的な幕僚や新聞記者の楽観論に対して、繰り出されるのですが、これはいまの日本でも、官僚やマスコミの煽りたてる、もろもろの事があるわけです・・・最近でいえば「原子力発電所は絶対に安全だから事故はありえない」とか「津波など来るはずがない」とかいうようなものです。日本をリードする人たちが何故か陥りやすいのが、この「根拠のない楽観論」で、しかもこれに反対することは難しい、というのは「庶民」というのが見事にこういう楽観論の洗脳に乗っかって、迎合していくからで、あの時代でいえば「早くドイツと同盟を結べ」「バスに乗り遅れるな」「アメリカと開戦しろ」という声ですね。
 日本人の体質というのはあまり変わっていない、そして山本のような立場を貫くのは難しい、というのが本作の大きなテーマで、しかも、その開戦反対派筆頭であった彼が、結果的に流れを変えることができないばかりか、逆に戦争の指揮をとらされることになった、という歴史の皮肉が、大いに考えさせられます。
 いま、日本という国はあの時代と似ており、閉塞的で難しい局面にありますが・・・そしてそういうときに、妙に勇ましい声、妙に楽観的な意見というのが耳に心地よかったりしますが、そこで「根拠は?」という発想ができるのか、今の我々にも問われている問題だと思います。そんなことを考えた一作でした。
 
 
 
  
 

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