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2009年11月21日 (土)

マルセスフィールドのセッテ・ピエゲ?

  近頃ちょいと気になったのが・・・ネクタイの歴史でして。いえ、おおまかな流れはすでによく知られているし、私も自分の本なんかにけっこう書きましたけれど、要するに17世紀にフランス軍に加わったクロアチア傭兵・・・この人らは、国の実権をオーストリアに奪われて、長年オーストリアの敵国だったフランスを支援したわけですけれど、彼らが首に巻いていたスカーフがクラバットの名で広まった、と。それがフランス軍の軍装から一般に広まり、フランス革命期には詰襟の燕尾式軍服の全盛期だったためいったん廃れ、ネックストックという単純な首巻きになっちゃった。
 ところがボー・ブランメルという人がナポレオン戦争前後からクラバットを復活させ、大流行。で、1850年代ごろあたりから、今の背広の原型みたいな服が乗馬コートの変種として出てきたとき、これに合わせる新型の首飾りとして出てきたのが、今みたいなネクタイである・・・と。いわゆる「フォー・イン・ハンド」タイですけど、こちらもここ2、3年ですっかり、ロンドンにあった馬車愛好家の社交団体「フォー・イン・ハンド・クラブ」が発祥らしい、というのが定説化してきています、私なんかが3年ほど前にそんなことを書いた時にはまだ、日本じゃあまり人気がない説でしたけれど。
 フォー・イン・ハンドというのは四頭立てで御者が一人という、当時としては革新的な超高速馬車です。いわば暴走族のマフラーみたいなものとして登場した・・・。
 ま、そのへんはいいのですが、近頃また見かけるのが「ネクタイの発祥は英国のマルセスフィールド」という記述なんですね。これ、私にはよくわからないんですが何かに書いてあるんでしょうか。マルセスフィールドって? なんか英国の地名としてなかなか出てこないのですが・・・。あるいは今はない地名か? 
 ひとつありうるかな、と思うのはチェシャー州のマックルズフィールドMacclesfieldという場所。ここは絹織物の大産地で今でもミルがいっぱいありますので、ひょっとしたらここじゃないでしょうか? 第二次大戦中も唯一、ドイツ軍の空爆を免れた産地だといいます。ついでにいうと、この地を開いたのは、チャールズ二世の衣装頭だった廷臣だそうで、英国のファッション史とは結びつきが深いところであります。違いますかねえ・・・。
 たとえばこれはBYESさんがイタリア・フィレンチェのマニュファトゥーレ・クラバットというブランドを紹介する記事。「20世紀初頭、イギリスのマルセスフィールドで誕生したとされるネクタイのルーツに習い、四角いファブリックを7つ折りして縫製する伝統のスタイル。多くのメーカーが4つ折りをセッテピエゲと呼んでいる今も、頑なに7つ折りの本物を作り続けています」とあります。
 あるいはMEN’S EX男の傑作品メンテナンス大全集(世界文化社)の57ページには「セッテピエゲってなに?」のタイトルで「イギリスのマルセスフィールドで誕生したとされるタイのルーツに倣い、生地を七つ折した伝統のスタイル」とそっくりな記述があります。こんだけ書かれるとなにか定説なんだろうか、と思いますが・・・はて?
 にしても20世紀初頭、はないと思いますけれど。間違いなく19世紀にはあったはずなので、もっと古いでしょう。1890年代の英海軍の制服規則にはすでに普通の長いネクタイが載っています。それとも七つ折タイを商品化したのが20世紀初頭、ということかしら。
 ついでに、そのセッテピエゲというイタリア語に当たるセブン・フォールド・タイについてですけど、英文のサイトをみますと、アメリカで生まれたスタイルで、アメリカン・クラシック・セブン・フォールド・タイなどと書かれているのが多いのです、それもせいぜい1930年代で、別に古い形式じゃないというのを見かける。そして、1980年代に入ってアメリカのロバート・タルボットが引退したユーゴスラビアの名人の手ほどきを受けて復活させてからリバイバルしたのだ、というような。
 どうなんですかねえ。それが本当ならイギリスでもイタリアでもなく、アメリカンスタイルなのかもしれませんよ。たとえばご存じウィキペディアの英語版ではThe seven-fold tie is a construction variant of the four-in-hand necktie which was available in America for between $1 to $5 up through the end of the 1930s. In the 1980s it became available again when the Robert Talbott company started to make them in Monterey, California.という感じです。
 ・・・もうちょっと調べてみますが、私は20世紀以後の衣服には実はちっとも詳しくないので(苦笑)・・・ヴィクトリア時代を過ぎると軍服と平服にきっちり分かれるので、私としては急激に興味が薄れます(つまり軍装しか興味ないんですね)。
 にしても、マルセスフィールドってどこなんだろう?
 ◆  ◆  ◆
 昨日の「クリスマス・キャロル」について服飾史的に一言。あの話は1840年代後半のロンドンが舞台でして、スクルージという守銭奴爺いは、けちではあるけどちゃんと最新流行の服装・・・黒いフロックコートにトップハットといういでたち。首周りはクラバットです。まだ上に書いたように、背広に今風の長いネクタイ、というのはまだ出てきていません。あと10年ぐらいすると普及してくるけれど、それもどっちかいうと若い道楽貴族の服装であって、いってみれば暴走族ファッションみたいなもんだった。進んで取り入れるのはオスカー・ワイルドみたいなフツーじゃない作家なんかだった。とにかく1840年代というなら、フロックコートというのが最新流行ファッションでした。1850年ごろになって宮中でもフロックコートが正装になるんですね。
 で、彼の回想シーンで出てくる、かつて修行時代のの雇い主、フェジウィックさんというのがカールしたカツラに青いシングル・ジャケット、半ズボンという17世紀以来の古いファッション。おそらく1780年代ぐらい、ナポレオン戦争より前の時代を回想しているんですね。出てこないけど、かぶる帽子もきっと三角帽トライコーンでしょう。
 そしてです、スクルージの使用人ボブ・クラチットは、週給15シリングという薄給でスクルージに酷使されているかわいそうな人ですけど、彼は頭にはトップハット、しかし身に着けているのはフロックコートじゃなくて燕尾服です。これは当時としては時代遅れの、1800年代の初めごろ、ボー・ブランメルなんかが流行らせた服装。彼は買った当時は普通だったけど、1840年代には完全に時代遅れな服装をしているわけです。
 と、こんな感じで時代考証が完ぺきでしたね、あの映画は。すごいです。
 

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