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2009年11月25日 (水)

イングロリアス・バスターズ

クエンティン・タランティーノ監督、ブラッド・ピット主演「イングロリアス・バスターズ」を見てきました。こういう映画によくある、連合軍の特殊部隊がナチス占領下のフランスに潜入して・・・というたぐいのお話でして、もともとの企画としては昔のイタリア製戦争映画「地獄のバスターズ」のリメイクなんだそうですが、・・・もうほとんど原形は何にもとどまっておりません。全くのオリジナルと考えていいでしょう。で、リー・マーヴィンやテリー・サバラス、チャールズ・ブロンソンが出ていた「特攻大作戦」とか、クリント・イーストウッドが出ていた「戦略大作戦」のような、ならず者部隊が大暴れするお話、かと思ってみたのですけれど、それらの影響は大いに受けており、パンフを見てもその通りだそうですけれど、案外にそういう感じの話ではありません。
 往年の「生きるべきか死ぬべきか」にも似たところがあります(ヒトラーがあまりぱっとしない小さな劇場にお忍びでやってくる、という設定など)し、その影響も大きいようです。
 が、私が見たところ、雰囲気としてよく似ているのは、むしろ「ナバロンの要塞」とか「荒鷲の要塞」・・・とくに悪役のナチス親衛隊将校が出てきて、連合軍側の工作員などと丁々発止の頭脳戦を展開するサスペンス的な部分、お話が次々にひっくり返る意外性などはそれらアリステア・マクリーン原作の戦争映画にもよく似ています。
 そこでこういうことがいえます。特攻大作戦みたいなおふざけの利いた痛快娯楽戦争映画なのかしら、と思ってみる。すると実は、かなりサスペンスタッチの真面目な「ナバロンの要塞」みたいな話である・・・と。そんなわけで、監督のイメージからもハチャメチャなものを期待していたのですが、ちょっと違うのですよね。
 もちろん出だしからエンリコ・モリオーネの音楽など使い、また最近の映画には珍しく冒頭にスタッフロールを入れるなど、わざと60~70年代のB級戦争アクションの雰囲気を出しているのは明らかです(でも、それにしてもなんで出だしの音楽が「アラモ」なんでしょうか。ここまでくると関係なさすぎるような)。
 で、トータルの感想として、私としましては、個人的には痛快娯楽作にしてはかなり陰惨だし(とにかく人がたくさん死にます。戦争映画だとしても無駄にたくさん死にます)、真面目すぎるな、と。一方でシリアスな戦争ものあるいはスパイものというには、今度は不真面目なんです。はっきりいってどっちつかずな中途半端さが印象として残りましたが、いかがでしょう?
 もちろん本作のメインはブラッド・ピットで、癖の強い特攻隊長を好演しており、間違いなく映画の格を上げていますけれど、なんといってもすごいのは、ドイツ軍親衛隊保安本部(SD)のランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツという人。この人の演技でもっているような作品といっていいです。ドイツ語は当然ですが、英語、フランス語、イタリア語までばりばりとこなすのも見事。それからダイアン・クルーガー。本来は「ナショナル・トレジャー」とか「トロイ」とか、ハリウッド映画では全くドイツなまりのない英語もしゃべれるし、またフランス人と結婚したぐらいでフランス人と変わりないフランス語もできるはずの彼女ですが、わざとドイツなまりの英語とかフランス語を披露しているあたりがお見事。その他、言語に関しては昔の映画によくある「みんな英語で押し通す」なんてことはしていないのが本作の立派なところです。
 そして、史実には全く基づかないというか、ほとんどファンタジーのような展開になる本作なんですけれど、軍服の類の考証はしっかりしていて、たとえば勇敢なドイツ軍の下士官は胸に白兵戦徽章や一級鉄十字勲章を、英雄と呼ばれる狙撃兵は、特級射撃手飾緒を右肩につけ、首に騎士十字勲章を、ランダ大佐は黄金戦功十字勲章を喉元にぶら下げるという凝りようです。もちろん彼はグレーの開襟制服の袖にSDの袖章を着けております。親衛隊の将校が白ではなくカーキ色のシャツを着ているのも芸が細かい。
 で、これだけ言語とか服装は考証が行きとどいているのに・・・結末が史実とは全く異なってくるようなんですが、これでいいんでしょうか? 正直、私はちょっと納得いきませんでした。もっと最初から最後まで不真面目な展開なら、これでもいいんですけれど。
 前半のサスペンスシーンも、ナチス将校との息詰まるやり取りはなかなか面白いのですけれど・・・やっぱりちょっと長すぎるかも。これならもっとコンパクトでもよかったかもしれない、と素人考えでは思った次第です。最初のフランス農家の主人とランダ大佐のやりとりで、さりげなく「ハイドリヒ中将」なんて台詞が出てくるあたりはなかなか、いいんですが(いうまでもなくラインハルト・ハイドリヒSS大将のことで、彼を英軍の特殊部隊が暗殺した史実を描く「暁の七人」も本作の元ネタのひとつだそうです)。
 とにかく、先述のクリストフ・ヴァルツと、フランス人女優のメラニー・ロラン(すごい美人ですね)にとってはこれは出世作となるでしょう。確かに光っています。ヴァルツは特にカンヌで本作の好演が注目されたそうで、これから出てくるかもしれません。ダイアン・クルーガーも熱演です。そのへんは一見の価値がある一作、と思いました。なお本作でいちばんの名セリフはクルーガーの「それであなたたちアメリカ人って、どこの国の言葉ならできるのよ」。どこへいっても英語しかできないくせに威張っているアメリカ人ってのは・・・あれはクルーガーのアドリブかと思いました、違うんでしょうけど。
 

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「イングロリアス・バスターズ」★★★★オススメ ブラッド・ピット、ダイアン・クルーガー、ティル・シュヴァイガー、ダニエル・ブリュール出演 クエンティン・タランティーノ監督、152分 、公開日:2009年11月20日、2009年、アメリカ (原題:INGLOURIOUS BASTERDS)                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「アルド中尉(ブラッド・ピット)率い... [続きを読む]

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