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2007年8月29日 (水)

オペラ映画「魔笛」

 おそらく一般的にはハリー・ポッター2で、駄目な魔法教師を演じたことで有名なケネス・ブラナー。しかし凄腕の監督でもあり、その最新作「魔笛」を見てきました。なんと音楽担当はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトその人。つまりオペラそのものの映画化。ちょいと一般受け作品ということじゃないので日比谷シャンテあたりでこっそりマニアック作品として公開していたものが、どうしたわけか舞浜イクスピアリでも公開してくれた、という次第です。しっかしあれです・・・なんとも独創的な解釈。これはすごいかも。
 そもそも魔笛というのはモーツァルト最晩年のオペラで、初演から数か月後にはこの世を去ってしまう、という意味で天才の仕事の中でも最高傑作にして集大成です。よくモーツァルトというと癒やされるとかいいますが、この曲、いやあなんでもありの禍々しいまでの悪魔的な技巧に満ち満ち、そんな生やさしいBGM的な音楽じゃありません。
 そんなところを見事に見抜いたブラナー監督、設定をなんと第一次大戦欧州戦線にしてしまった。ただ、ドイツ軍とか英軍とか特定の軍隊を扱うのじゃなく、なんとなくですが青いオーストリア軍風の軍服が「夜の女王」軍で、赤い英国軍風の軍服が「太陽の高僧ザラストロ」軍という二大陣営の激突を背景としております。
 夜の闇と、太陽の光の二大原理の対決を、原作のままだとモーツァルト本人も脚本担当の人もどっぷりフリーメイソンの秘儀とか錬金術に浸っていて、なんだか現代人には理解不明な話になっているのが、現実の戦争のイメージにすると非常に分かりやすい上に、その戦いの悲惨さと、平和への希求というテーマが壮大に迫ってくる、のであります。
 また、パパゲーノ(ベン・デービス)は鳥が好きな兵士、主人公(ジョセフ・カイザー)は夜の女王軍の一将校、主人公を救うのが3人の従軍看護婦・・・などと巧みに戦争物に翻案。出だしの派手な戦場のシーンは本気モードの第一次大戦映画になっていて、火砲の列に塹壕を出て突進する兵士、空を行くフォッカー機風の複葉機の群れ。きわめつけは、原作オペラでも重要なインパクトある場面である夜の女王(リューボフ・ペトロヴァ)のお出ましのところ。オペラでもいろいろ仕掛けを使って大げさに演出するのだそうですが、映画では、なんと戦車に乗って登場。これには驚きました。で、このオペラではなんといっても有名な2曲の超難度ウルトラDのアリアをキンキンと歌いまくる女王の存在感はすごいであります。
 ザラストロ(ルネ・パーペ)も負けていません、原作以上に英雄的で、というのもただの高僧とか暗黒卿とかいう抽象的な設定じゃない、一軍の総司令官ですから、ものすごく格好いいのこれが。中盤から最後まで、主人公はむしろこっちかな、という描き方です。わざわざ本来は副官が歌うパートも本人にするなど、オリジナルより出番も多いです。彼が無数の墓標の前で演説、というか歌うシーンはいちばん感動的なところ。なぜか墓碑銘には日本人の名も多いのですが、これは第一次大戦と言うよりも、戦争全般を意識した墓標なんだろうと理解しました。
 女王とザラストロがなんといっても本当の華ですから、オペラ界でも有名な実力派の二人の歌手が演じています。どちらも十八番の曲目だそうで堂々たるものです。
 で、この映画の解釈では、結局はこの二人は元々は夫婦で、つまり壮大な夫婦げんかで大戦争になっちゃった、という話らしく・・・。ヒロイン(エイミー・カーソン)は二人の娘、という設定なんですな。
 いろいろと、今回に限らずオペラの場合、大胆な翻案をして、現代風にしたり和風にしたり、という演出は当たり前なので、今回の「第一次大戦バージョン」も大いに有りだと思うし、全編通じて見ると成功していると思います。戦争という背景だからこその切実感とか高揚感とか。元来いささか荒唐無稽なストーリーも説得力が出てくる気がします。
 全部が英語バージョン、というのが残念といえば残念ですが、これもそもそもモーツァルトが「庶民感覚で楽しんでほしい」とあえてイタリア語のオペラを拒絶し、当時としては大胆だったドイツ語を採用したのが本作。また、歌のない地の台詞の採用も、同じような配慮だったとか。ちなみにこういう工夫から今のミュージカルが生まれてくるそうであります。
 そんなことを考えますと、より観客が多いだろう英語バージョンの採用も本質から見てよいのでは、と思えるのであります。一方で、映画化に当たり意外なほどに省略もなく、もうほとんどそのまま全曲を押し切っているのがすごい。映画にするとけっこう冗長な展開、というのはありますし、不自然な展開もあるのですが、それを強引に映像化するところがむしろ本作の値打ちじゃないでしょうか。
 「ああ、こんな話だったのか」と思うこと請け合い。モーツァルトのファンは無論ですが私のような、どっちかというと「第一次大戦」に惹かれて見た門外漢も大いに楽しめました・・・まあ、万人に受けるのか、というとどうか知りませんが、というのはやっぱりそこは知的忍耐力はいります、アクション娯楽作品のようにはいかないのですが、それにしても本来はオペラってのはお高いゲイジュツじゃなくて、娯楽作品なんだよ、というのを思い出せてくれる映画でした。
 

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