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2007年3月13日 (火)

ラストキング・オブ・スコットランド

 アカデミー賞で主演男優賞を射止めたフォレスト・ウィテカーの「ラストキング・オブ・スコットランド」を見てきました。あのウガンダの独裁者、大量粛清で知られるアミン元大統領をテーマにしたお話であります。しかしアミン失脚は1979年。私は中学生のころです。当時は「行方不明になっていた側近や政敵の首が続々と大統領官邸の冷蔵庫から発見」などと大々的に取り上げられましたが、今となると若い人にはピンとこないかもしれず、日本でミーハー人気が出るようなテーマではなさそう。実際のところ、平日のラストということもあって観客は少なかったです。
 しかし、これは見逃す手はないなあ。社会派ドラマだから重いし凄惨過酷なシーンも多いのですが、しかし妙に明るいというか、ノリがいいというか、ハイテンポでして、前のシーンにすぐに次のシーンがかぶさるように展開していく演出というのが利いていて、とにかくまだるっこさがない。手持ちカメラの多用で、架空の人物を交えたお話もドキュメンタリーの迫真力を持っております。全編をウガンダ現地ロケ敢行して実際にアミンの記憶も薄れていない、虐殺のあった場所で撮影しているのも見所です。すべてこれは計算されたものとおもいます。のんびり描写していると、とても見ていられない、というような重いシーンも敢えてどんどんぶっ飛ばしていく。どうもこの映画、1971年にアミンが政権を取ってから、78年のハイジャック機着陸事件までの6年にわたるお話のようですが、なにかジェットコースターに乗って最後まで引っ張られるようでもあり、ほんの一週間ぐらいの悪夢の物語のようにも思える。そこが狙いなんでしょう。
 というのも、このお話の語り手というか、視点になっているのは、スコットランドからはるばるやってきた新卒の医師、という設定だからです。なんの考えもなく、ただスリルが欲しくてウガンダにやってきたところ、なぜかあっという間にアミンの侍医となり、側近にまで取り立てられ、望むと望まざるとにかかわらずその悪行に協力する立場となって巻き込まれてしまう・・・なぜこんなことに? 人生が思いがけない方向に加速する感覚を描いているのでありましょう。
 物語の冒頭は、いきなりいかにも英国の古くさい大学の卒業式を終えて、制服を脱ぎ捨て、裸で池に飛び込む若者の群れ、という意外なシーンから始まります。そして、医者の資格を取った青年ニコラス・ギャリガンは、堅苦しい医者の父親と窮屈な家庭を逃れ、「どこでもいいから逃げ出してやろう」と、地球儀をぐるぐる回して指さす。一回目は・・・カナダ。これじゃあまりに変化がない。もっと、見たことも聞いたこともない国がいい。で、二回目で、彼の指が示したのがアフリカ中部ウガンダ。ちょうど軍部のクーデターが起こり、貧民から立身出世を遂げて国軍の副司令官にまでなっていたアミン将軍が政権を取ったときでありました。
 以後、まったく考えもしなかったことに、ギャリガンはアミンの政権中枢に巻き込まれていくわけでありますが・・・以後は見てのお楽しみに。
 それにしてもフォレスト・ウィテカー、さすがにオスカー受賞の演技です。というか、独裁者アミンの複雑な人物像をここまで演技で表現しているとは。ただの残酷な暴君を演ずるのはむしろ簡単でしょう。しかし一方でどこか純真無垢な子どものようでもあり、また猜疑心が強く、勇猛剛胆である一方で小心であり、残酷無比であるがユーモアがあり、恐ろしいが魅力的なカリスマ性のある人物。国民の圧倒的な人気と支持を得ながら国家を破滅させてしまう男。そういう人物を演じるには生なかな研究ではできない。とにかく貧民のどん底からのし上がった魅力的なカリスマの部分をどう演じるか、その同じ人物が、権力を握った途端にどのような疑心暗鬼にとらわれて生き地獄になっていくか、がこの映画のすべてであると思うのであります。このような人物像というと、歴史上ではもう一人、あのアドルフ・ヒトラーを思い出します。一兵卒からのし上がり、人々を魅了して政治家として成功する反面で、おそろしい疑心暗鬼と猜疑心にかられ悪行に手を染めていく人物像には共通性がありましょう。
 映画のラストで本物のアミン・・・なにしろ2003年まで生きていたので、ちっとも過去の人じゃないのですが、その影像が出てきます。なんかこう、はっきり言ってウィテカーのほうがコワイのじゃないでしょうか。ちょっと斜視ぎみのような目つきとか、かえってアミン以上にアミンらしいような。
 それ以外の出演者もいい配役でして、青年医師を演じるのはジェームズ・マカヴォイ。ディズニー映画「ナルニア国物語」でフォーンのタムナスさんを演じて注目された彼、です。あの役柄も、強大な権力を持つ魔女に心なくも協力し、最後には刃向かって弾圧される、というようなものでした。一見するとセンシティブで弱々しそうだが、内面は強靱なスコットランド魂の持ち主、というこの映画の趣旨にぴったりのキャストでしょう。この役柄は、97年にベストセラーとなった原作小説で創造された架空の人物で、実在する複数のウガンダ政権に関与した白人をモデルにしているそうであります。また、アミンの第二夫人で後に悲劇に巻き込まれるケイに演技派ケリー・ワシントン。やはりアカデミー賞男優賞映画である「Ray/レイ」でレイ・チャールズの母親を熱演し、この時点ではまだ無名の新人だったのですが、生前のレイ本人をうならせた、というほどの実力者であります。この二人の熱演ぶりも大いに映画を盛り上げております。今後、ますます伸びてきそうですね。
 さらに、ギャリガンが心引かれる人妻役に、あれ、どこかで見た顔の人、と思えばジリアン・アンダーソン。あの「X-ファイル」のスカリー捜査官の人です。出番は少ないがきっちり仕事しています。
 なお、誰しも「スコットランド最後の王様?」と思う題名ですが、これはアミンのあだ名の一つ。かつて英連邦アフリカ軍の兵士であった頃、スコットランドの連隊と共に戦って、スコットランドに強いあこがれがあったのだそうです。実際、兵士にスコットランド風のキルトをまとわせて軍事パレードしている影像が映画の最後でも紹介されます。原作小説の設定で「スコットランド出身の青年」というのを考えたのもそのへんが根拠のようで、うまいまとめ方です。また、旧宗主国である英国の後押しで政権に就いたものの、その後はなにかと干渉されて、英国政府に対して不信の念を抱いていたようで、歴史的にイングランドに対して反抗を続けたスコットランドに対する思い入れ、というのもあったようです。
 後半はかなりヘビーで、ラストの10分は手に汗握るサスペンスになりますが、前半部など実に明るく楽しく、そのへん絶妙です。見事な構成力の映画だと思います。
 

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